北半球で一番使えないラーメンガイドブック『ザ・閉店』が超絶おもしろい
常識を覆す一冊『ザ・閉店』
いまだ衰えることを知らないラーメンブーム。人気店ひしめく激戦区・東京では常にさまざまなラーメン店が生まれては消え、新陳代謝を繰り返している。
いろんな出版社から毎月のように発行されるラーメン店のガイドブックはその象徴といえよう。人気店、話題店がページを飾る一方で、閉店も多いため「数年前のガイドブックはほとんど使い物にならない」というのが常識だ。
そんな中、常識を覆す衝撃的な1冊に出会った。
それがこれ。
その名も『ザ・閉店』
(正式書名はデウスエクスマキな食堂15年冬号『ザ・閉店 ~ラーメンの四半世紀篇~ 北半球で一番使えないラーメンガイドブック』、全40ページ、オールカラー¥702)
個人発行のいわゆるミニコミ誌という形式を取りつつ、書名のとおり「すでに閉店してしまったラーメン店」にまつわる文章や写真をメインに掲載しているのだ。
「時代を彩った名・迷店たちへの鎮魂歌」というキャッチフレーズに漂う郷愁。あたかも「昭和の映画スター名鑑」を眺めているかのような錯覚にすら襲われる。
ためしに、チラっと中身を開いてみると……
かつて、とんこつブームの先駆け的存在となり、アリのような長蛇の列で一躍有名になった環七のアノお店や、
激辛マニアの中では絶大な支持を集めていた千石のアノお店(右ページ)など、スープや味のジャンルごとに絶妙なチョイスで紹介されており、その歴史や味、思い出、閉店にいたるいきさつなどが書かれている。
しかし、もう一度念のために言っておく。ここに載っているのは、どこもかしこもすべて幕を下ろしたお店ばかりである。
こんなラーメンガイドブック見たことねーわ!!!!
今うまいラーメンが食いたいんだという人にしてみれば「こんな使えない情報ばっかり載せてどうするのか」と思うかもしれないが、各ページの隅っこに注目してほしい。
閉店したラーメン店の味に比較的近いと思しき現存のお店情報が付け加えられ、しっかり「ガイド」的な要素も満たしている。
この世から消え去ってしまったラーメンに精一杯のレクイエムを捧げつつ、今もなお頑張っているお店へのエールも忘れない。
その姿勢に、制作者の限りないラーメン愛を感じざるをえないのだ。
制作者は筋金入りのラーメンマニア
こんなマニアックで超絶おもしろいガイドブックを作ったのはどんな人物なんだろうか。
さっそく制作者の刈部山本さんにインタビューを試みた。
『ザ・閉店』執筆&発行人の刈部山本さんは、東京・阿佐ヶ谷で「結構人ミルクホール阿佐ヶ谷住宅」という、お一人様専門の喫茶店を経営している。
お店を切り盛りする合間には、B級グルメに関するミニコミをひとりで制作。バラエティ番組『マツコの知らない世界』(TBS系列)では、「板橋チャーハンの世界」の達人として出演も果たした。
──そもそも、なぜこんな特殊なガイドブックを作ろうと思われたんでしょう。
名前の通った出版社が出している普通のガイドブックだと、閉店したお店って扱いが悪いじゃないですか。そこだけ印刷の色が薄かったり、でっかく「閉店」マークがついてたりして。それって違うんじゃないかなっていう違和感から出発しています。ブログ10年分を詰め込んで制作したのがこの本なんです。(刈部山本さん、以下同)
──自分が記録を残さないといけない、みたいな使命感がやはりあった、と。
それもありますけど、こうした媒体を通して語りたいのは、むしろなくなったお店のほうなんですよね。お店のバックグラウンドとか、ご主人がどこで修行されていたとか、お店が流行った時代の時代背景、ブームの中でどんな立ち位置だったのかとか。当時はよく分からなかったけど、いま振り返って感じることがあまりに多いので。
──読んでいて「ラーメンが好きでたまらない」という気持ちがひしひしと伝わってきました。やはりご自身もラーメンマニア?
そうですね。自分の場合、最初に環七沿いの「なんでんかんでん」に衝撃を受けて、その後、青葉や武蔵などのお店を食べ歩き、だんだん知見を広げていきました。
──『ザ・閉店』では、ちゃんと現役のお店を載せているあたりに、愛やこだわりを感じます。
ありがとうございます。現役のお店情報は、当時の味を覚えている人へはもちろん、味を覚えていない人、知らない人にも「悶々としないように」という意味を込めて書いています。ま、中にはあまりに個性的過ぎたがために、なかなか似ている味が見つからないケースもありますが(笑)。
▲刈部山本さんが発行しているラーメン関連のミニコミ。この他にも、B級グルメ全般を扱ったミニコミを次々と発行。その圧倒的なデータ&知識量は、メディアで一目置かれる存在だ
──Webではなく、あえて紙のミニコミ誌にこだわっているのは何か理由があるんでしょうか。
WEBだとどうしてもピンポイントで記事を見ちゃうでしょ。紙の本だと、まずひとつの大きなコンセプトやジャンル分けの考え方を理解してもらえて、その流れの中で見てもらえるので、自分のスタイルには合っているのかなと。
──この『ザ・閉店』を通して読者へ伝えたいことは?
個人経営店のおもしろさ、でしょうか。やっぱりオーナーの強い個性やこだわりが表れているお店にひかれますね。中でも、ラーメンというジャンルはバクチ的な快楽や魅力があるんですよ。ラーメンブームっていう大きな流れの中でもいろんな局地的ブームがあって、それにノルか、ソルか、パクるのか、逆張りするのかですべてが違ってきます。ご主人も山っ気のある人が多い気もしますしね。そういう点も楽しんでほしいです。
お気に入りラーメン店「一秀」へ
インタビュー後、筋金入りラーメンマニアの刈部山本さんに、お気に入りのラーメン店へ連れてきてもらった。
環七にあった名店「土佐っ子」の流れをくむ、池袋「一秀」だ。
そういえばこのお店、『ザ・閉店』にも現役店としてしっかり取り上げられていた。
こちらは「韃靼(だったん)そば」を使った麺が特徴なのだとか。どんなものなんだろう。
スープや具のチャート表に惑わされつつも、人気No.1の「特製ラーメン」を注文。
調理場で店員さんの手つきを見ていると、
おおおっ! この背脂っ!
そう、ここは都内でも屈指の「背脂チャッチャ系」。花火のごとき飛び散る背脂は、多くのラーメンマニアを魅了してやまないのだ。
たっぷり背脂スープはパンチ力十分
そしてボケっと待っていると、
キターーーー!!!!
「特製ラーメン」(850円)。
表面上に浮かぶ白い粒子は、まさしく背脂。2回に分けてこれでもかというほどかけられているため、脂にまみれたい人には打ってつけだ。
が、ひとたびその背脂をかき分けてみると、
茶色で、どっしりとパンチの効いたしょうゆとんこつ系のスープが!!
韃靼そばを用いたオリジナル麺は中太ストレート麺。十分な弾力がありながら、やや粉っぽくボソっとした食感が個性的。超こってりなスープとの相性もバツグンだ。
刈部山本さんも思わずこの表情。
この脂、たまんねぇー!!
ここの特製ラーメンは、スープが少なめな分、マッタリと濃いタレが強く効いて、油そばみたいな食感なんですよ。それによって、背脂のうま味がダイレクトに感じられるようになっています。(刈部山本さん)
ちなみに、希望すれば「割りスープ」ももらえる。ちょっと濃いな、と感じたらこのスープを加えれば好みの濃度になるのだ(とはいえ割りスープも結構濃いんだけどね)。
というわけで、ペロッと完食。
刈部山本さん、ありがとうございました!
これからもおもしろい本を期待しております!!
【おまけ】
インタビュー前に、かつて環七沿いにアリのような行列を作らせたとんこつラーメンの人気店「なんでんかんでん」があった跡地に刈部山本さんと行ってみると……
接骨院になっていた!!!
豚骨じゃなく、人間の骨を扱う場所に……。
あぁ諸行無常。
※『ザ・閉店』をはじめ、刈部山本さん発行のユニークなグルメ本はこちらで扱っています。在庫確認の上、お買い求めください。
お店情報
韃靼ラーメン 一秀
住所:東京都豊島区池袋本町2-1-1
電話番号:03-3985-3349
営業時間:月曜日~金曜日 11:30〜14:00、18:00〜翌2:00、土曜日・日曜日 17:00〜翌2:00
定休日:第1、第3火曜日
※この記事は2016年5月の情報です。
※金額はすべて税込みです。
書いた人:メシ通編集部
メシ通編集部です。 Twitter:@mesitsu
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