“ステマ騒動”は記事と広告の境界線が明確ではないことが原因

『食べログ』の“やらせ投稿”発覚に端を発し、『やらおん』や『はちま起稿』などの2ちゃんねるまとめブログに飛び火して炎上、あちこちに延焼している“ステマ騒動”ですが、ボクは批判している側にも、擁護している側にも、何か変だな? という違和感を覚えていました。

ジャンクハンター吉田さん(@Yoshidamian)が『Twitter』で、ゲーム業界の立場から連続ツイートしているのを読んで、ボクが何に違和感を覚えていたのかが明確になりました。何に対しても「ステマ」を連呼する批判側もおかしいし、業界側が考えている「どこまでなら許されるのか」という線引きもおかしいのです。ジャンクハンター吉田さんの憤りも分かるんです。ただの広告・宣伝や本当の口コミに対してまで「ステマ」を連呼するのは、分かってやっているんだったら、ただ面白がって遊んでいるだけでしょうからね。『Twitter』や『Google+』を見ていると、そもそも“ステマ”が”ステルスマーケティング”の略だということすら知らない人もまだ大勢いるようですし、連呼している人たちにはこれを機に流行語にしてしまおうというような意識もあるのかもしれません。

以前ボクは自分のブログに書いたエントリーで、炎上マーケティングに乗らないようにするには“無視すること”と、“とにかく疑ってかかること”という対処策を挙げました。何にでも「ステマ」を連呼するというのは、ある意味“とにかく疑ってかかる”姿勢と言えるでしょう。「疑ってるよ」ということを表明することで周囲の人も、真偽の不確かな情報をうのみにしないという習性が身につくかもしれません。“ステマ連呼”には、そういった“功”の部分もあります。ただ、広告だということが明白なことにまで“ステマ”というレッテルを貼るのは愚かしいことです。

TV、雑誌、WEBと一通り媒体での仕事を経験してきたからこの際、屑どもにハッキリ言わせてもらうがメディアタイアップという言葉を知っているのか? それもステマだというのか? クライアントから広告代理店へプロモーションの仕事が降りているわけでハンドリングは代理店というのも知らんのか?https://twitter.com/Yoshidamian/statuses/158514106431832064

メディアタイアップというのは例えば、テレビドラマの主題歌や、テレビアニメのオープニングテーマに人気バンドの曲を使うといった話ですね。ほかにも例えば、雑誌の“記事広告”というのもタイアップの一種です。記事とほとんど同じような体裁になっていますので、ページのどこかに記載されている“広告”という表示に気づかなければ、ただの記事と勘違いするかもしれません。これに対し、記事とは体裁が全く異なる形になっている広告のことを“純広告”と呼びます。だいたいの場合“断ち切り”という、ページの端まで印刷されていて余白のない体裁になっています。また、雑誌の場合、ボクが知る限りでは必ず誌面のどこかに“ADindex”や“広告索引”という記述があります。このように、雑誌メディアの場合は読者が広告と記事を混合しないような工夫がなされているのが通常です。恐らく、景品表示法と公正取引委員会による指導によるものだと思います。

しかし、ウェブメディアの場合誰でも情報発信ができるので、公的機関による規制が困難になっています。それゆえ、広告なのか記事なのかを見分けることが難しい状態になっている場合が多いです。特に、バイラルマーケティング(口コミの波及を狙って仕掛ける手法)と、ステルスマーケティングは、恐らく判別するのは不可能に近いと思います。だから、べた褒めしている投稿や、逆にけちょんけちょんにけなしている投稿だけを見た時に、「ひょっとして対価もらってるんじゃないの?」と感じるのは自然のことだと思います。べた褒めしている記事を見て買ってみたら大したことなかったとか、けなしている記事を見て避けてたら実はとても面白いゲームだったとか、というような事例があれば疑念は確信に変わるでしょう。

その一方で、業界側がこういう理屈を言ってしまうのはおかしいんです。

志倉千代丸社長がツイートしているように表に一切出てこないのがステルス・マーケティングなわけであって、公にされている(バレているのも含むのかな)ダイレクト・マーケティングなんだってばさ。ステマを連呼している屑どもは社会人ではないだろう。社会性を持った人間がやるべき発言行為ではない。https://twitter.com/Yoshidamian/statuses/158515806471335936

ボクは業界の人ではないので、どの会社が“ステマ”をやっていたかは知りませんし、追求しようとも思いません。ただ一般論として、ステルスを狙って失敗したとしても“ステルスしようとした”のは事実なわけです。“公にされている”のをステルスと呼ぶのはおかしいけど、“バレている”のを含めるのはおかしいのです。発信側としては、ステルスがバレたのは“失敗”というだけの話ですから。逆に、最初から“広告”や“PR”といった表示がなされているなら、それは“公にされている”わけですから「ステマ」と呼ぶ側がおかしいという話になります。

2ちゃんねるのゲハを覗きに行って辟易した。はちま起稿とステマのネタばかりで気持ち悪くなっちまったよ。ゲームメーカーが自ら危険を犯してゲハブログにステマなんかやると思うか? ほぼ100%、某代理店がハンドリングしているのでそれがステマだったとしてもメーカーに罪はない。勉強しろ屑!https://twitter.com/Yoshidamian/statuses/158515036481003520

いいえ、「代理店が勝手にやったこと」というのは、広告の依頼主の責任を免除するものではありません。一般的に、代理店がプロモーションのやり方について、広告の依頼主から許可を取らないはずがないからです。仮に依頼主がノーチェックだったとしたら、チェックしていないのが悪いのです。それは、政治家が秘書に責任をなすりつけるのと同じです。

ゲームソフトを進呈して頂き、それに対して好レビューを強制的に強いられる場合はステマだと僕の中での定義はありますが、メーカーからサンプルとして送る場合はバイマですからね。それをステマと扱うのはちょっと違うかと。まぁ、僕はバカだから良し悪しを必ずレビューしてしまいますので嫌われマツコhttps://twitter.com/Yoshidamian/statuses/158572859860586496

※ バイマ:バイラル・マーケティングの略

この定義は正しいと思います。例えば『ファミ通』に対しメーカーが発売前のゲームをサンプルとして送ってレビューを書いてもらうのは、「ステマ」と呼んだらおかしい。ただし、サンプル以外に金銭や物品の授受がある場合は、記事に“広告”や“PR”という表示があれば“ステルス”ではない(記事広告)、表示がなければ“ステルス”ということだと思います。

昔、スクウェアエニックスのパーティーへ行ったらXbox360本体(初期型)を全員に配布したり、一昨年のE3のマイクロソフトのカンファレンスでもXbox360本体(新型)を全員に配布したりするのもステマなんですか?……ただのお土産だと思うけどwhttps://twitter.com/Yoshidamian/statuses/158574509740408833

だから、これは際どいラインですが、倫理的には“ダウト”です。電力会社が記者を原発に呼んで、宴会を開いてお土産を渡して擁護記事を書かせていたという話がありますが、記事にバイアスがかかるのが嫌なので原発の見学には行っても宴会やお土産の類は全て断ったという記者もいるそうです。まあ世の中には、「記者会見に呼んでおいてタクシーチケットも渡さないのか!」と怒り出すような記者もいますが。

最初にも書きましたが、批判側が何に対しても「ステマ」を連呼するのはおかしい。しかし、業界側が考えている「どこまでなら許されるのか」という線引きもおかしいのです。「お土産もらうくらいならいいでしょ」といった業界内での慣れ合いがあるから、消費者にあらぬ疑念を抱かせているのではないでしょうか。

※この記事はガジェ通ウェブライターの「鷹野凌」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
小説/漫画/アニメ/ゲームなど、創作系に興味があります。

  1. HOME
  2. 政治・経済・社会
  3. “ステマ騒動”は記事と広告の境界線が明確ではないことが原因
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。