築地市場の“いい顔”を撮り続ける男に聞く「素顔の築地」とは

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2016年11月に豊洲へ移転するはずだった、築地市場。2017年に突入しても、引き続き築地での営業が継続される予定で、まだまだ話題となりそうだ。

そんな築地に半年以上通い詰め、そこで働く人々のポートレートを撮り続けている男がいる。『メシ通』でもおなじみのカメラマン、沼田学さんだ(写真上)。

話をしてくれる人:沼田学さん

沼田学

北海道生まれ。会社員・解体工・露天商・ローディーなど思い切り遠回りして2003年フリーランスに。雑誌・広告など中心に幅広く活躍中。「どこにでも行きます」(本人)。instagram:@numatamago

まず、なにはなくとも沼田さんの撮影による写真を見て欲しい。

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みんな、すっごくいい顔しているでしょう?

問題の渦中であることを特に気にすることもなく、日々汗を流す男たちは、目の前の仕事とターレー(卸売市場などで利用されている運搬車)の進む先を真っ直ぐ見つめている。

今回、この築地で撮りだめた写真を集めた展覧会が、東京・新宿で行われるとのこと。そこで、沼田さんが作品撮りの場所として「築地」を選んだ理由、現場で感じたことを聞いてみた。

ターレー乗りたちにひかれて

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▲インタビューは、彼の行きつけであり、まさに築地で仕入れを行なっている世田谷区・松陰神社前の居酒屋さん「アリク」にて

自身で“現場系直行系”とうたい、白目ポートレートシリーズ「界面をなぞる」で個人宅を訪問しては家主のポートレートを撮ったり、ホストクラブで働くホストたちを撮ったりと、知られざる世界に飛び込んでは撮影し、発表してきた沼田さん。今回、築地を作品の舞台に選んだ理由を聞いてみた。

ヨッシー(「アリク」店主・廣岡好和さん)がもともと築地で働いていたっていうんで、移転前に築地を案内してくれることになって。せっかくだからと一度見に行ってみたんです。それが、2016年の5月くらいかな。

それから、1週間ほどヨッシーさんとともに築地に通い続け、何か写真家として引っかかるものがないかと探りながら、風景や、築地を行き交う人々に向けてシャッターを切り続けたという。

最初は興味本位でついて行って、風景や人を手当たり次第に撮っていたんです。そのうちに、働いているおじさんの「顔」がいいなって気付いて。見事に濃い人ばっかり集まっているんですよ。なかでも、この市場を走る車みたいなのが「ターレー」っていうんですけど、ターレー乗りが暴れん坊みたいに乗り回してるのが目に止まったんです。

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昔から、暴走族やバイク乗りが好きだったのだそう。なるほど確かに、彼らかっこいい。これら築地での写真は多くが同じアングルで撮影されている。まさに“定点観測”だ。

ターレー乗りを撮ろうと決めたものの、場所は試行錯誤しました。基本的に敷地が狭いから、一人ひとりにフォーカスできる場所が少なくて。自由度が高くて、背景もシンプルな場所がここだったんです。

沼田さんの撮る写真では、せわしなくターレーが行き交う海幸橋の雑多な風景の中に、「働いている顔」たちがくっきりと浮かび上がる。

実は、ほとんどの写真が敢えてストロボをたいて撮っているんです。そうすることで動いている一瞬を撮れるし、シワや細かな表情もくっきり写るから。ただ一回、こっぴどく怒られたんですよ。暗い仕事場からターレーに乗って出てくるから、ストロボがまぶしいみたいで。でも撮影上は暗すぎてもいけない。ここだとそういうバランスが自分でコントロールできて、テイストもハマったんですよね。

ポートレートを見ていると、素性も知らないターレー乗りたちの佇まいに、妙に心をひかれてやまない。

それはきっと、目に飛び込んでくる光景が私たちの日常生活とはかけ離れた別世界だから。撮られている彼らやこの場所にとっては当たり前のスタイルが、私たちの知らない世界で確立されているからこそ憧れを抱くのだろう。

怒られながらサンマをもらう

当初は撮影にまつわるトラブルも何度かあったようだ。とはいえ、作品の中にはカメラに向かって笑顔を見せる写真も少なくない。突然やって来たカメラマンが、築地のコミュニティーに入り込むことはたやすくないはずだが。

場内のオフィシャルな撮影は許可証がいるうえに、僕みたいなスチールカメラマンはほぼ許可は通らないだろうから、誰でも撮れる場外で、ギリギリのところを探しました。海幸橋は場外から場内につながっているから、完全なるグレーゾーンですよ(笑)。まあ一応、警備員の人には念押しして確認したから大丈夫なんですけど。

許可の問題はクリアしても、肖像権の問題は付きまとう。ましてや移転問題でピリピリしている築地では、写真を撮られることに抵抗を感じる者もいたという。そこで沼田さんは、自ら撮影した写真をプリントし、本人に渡して回ることに。しかも、水場であることを考慮し、1枚1枚ラミネートする抜かりのなさ(写真下)!

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ターレーにはお店の屋号が書いてあるので、それを市場内の見取り図で探して、被写体になってくださった本人へわざわざ写真を持っていくんです。挨拶と、許可を兼ねてね。まぁ待ってましたと言わんばかりに怒られることもありましたけど(笑)、喜んでくれる人もいて、サンマをもらったこともありますよ。あいさつを交わすようになってからどんどん顔見知りも増えました。

ほぼ毎日、朝9時前後に現場に赴き、10時過ぎまで約1時間半の定点観測。50〜100枚弱を撮影して、気に入ったプリントは後日携えていく。今では撮影をしていると、カメラに向かって笑顔を見せてくれる人もいるんだとか。なんと憧れのターレーにも乗せてもらえたことも。

現場では望遠レンズを使って、地面にうずくまるように撮っているから、「アイツ何やってるんだろう?」って思う人もいるみたいですね。だから、撮り口としては決して美しい方法とは言えない写真なんですよ(笑)。あと、いつも同じ場所にいることで築地の風景の一部として紛れ込みたかった。駅で毎日トラメガ(トランジスタメガホン)で演説してる政治家とか募金を募っている人みたいに、存在は気づいているんだけど、名前や顔とかもよく知らない。でも「いつもアイツあそこにいるよね」みたいな。

そうは言うものの、見方を変えればこれらはストリートスナップだ。「自分がいることで(彼らの仕事に)影響が出てしまう写真にはしたくなかった」というのもうなずける。野生動物のありのままの姿を撮るときに、息を潜めるカメラマンと同じ。1日にその人を撮影するチャンスは1度だけともあれば、自ずと息も潜むだろう。

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▲ニットキャップには、ターレーのワッペンが!

移転の話題なんて出てこない

ここで『メシ通』読者の声を代弁しよう。なんと言っても気になるのは、「築地で働く人々が、移転をどのように捉えているか?」だろう。半年間、間近で彼らを見てきた沼田さんに、築地の「素顔」はどう写ったのか。

正直、そういった話はほとんど聞かないんです。というのもターレー乗っている人たちは個性こそ強いけど、基本的にはターレーで荷物を運ぶことだけが仕事で、そこまで築地全体の動向を知っている人たちじゃないから。

「アリク」の店主、ヨッシーさんも付け加える。

築地へ何度も通えば感じるだろうけど、そういうことじゃないんです。あの人たちには、もっと身近な問題が日々起きている。勤めていた会社が突然つぶれたり、一身上のトラブルがあったり。移転なんて大きな問題は、ここ(築地)にいても変わらないし、市場の中でそれぞれのお店は独立しているから。移転に関することは、すごく上の人にしかわからないと思います(「アリク」店主、ヨッシーさん)。

生活がかかっている仕事。各々内心で思うことはあるだろうが、騒いだところでどうこうなるわけでもない。それを現地の人々は一番わかっているからこそ、とにかくターレーに乗り続ける。

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▲左から沼田さん、「アリク」店主ヨッシーさん、筆者

もう一つ、興味深いことを教えてくれた。沼田さんは、いつも時計を確認して撮影を切り上げるわけではなく、撮影を止める「合図」があるのだという。

いつも、ちょうどいい時間にやって来るおじさんがいるんですよ。だから、そのおじさんが通ったらおしまい。そう考えると、築地の人たちって案外行動がきっちりしていているんですよね。

ここでもヨッシーさんの解説が入る。

注文の商品を配送会社に渡す時間が決まっているから、お店で荷物を積んで、運ぶ時間も必然的に決まってくるんですよ。その会社のお客さんが変わらない限りはたいていずっと一緒だから、ある種ルーティンワークになっているんです。(「アリク」店主、ヨッシーさん)

日本最大規模にして長い歴史を持ち、常に規則正しい仕事が求められる築地市場。沼田さんによれば、そこで働く人々は意外にも2足のわらじを履くことが少なくないようだ。

どうやら築地の仕事が本業じゃない人も結構いるみたいなんですよ。元ボクシングチャンピオンとか、芸人、ミュージシャンもいる。あくまで彼らのワーク・シフトはここで働いて、他の時間を本業や好きなことに使うんだそうです。さらにおもしろいのは、ラッパー同士とか、みこしを担ぐ人同士とか、築地の中でそれぞれにコミュニティーができていることですね。

仕事一筋で職人気質の人ばかりかと思いきや、みんな楽しく働いている。ピリピリどころか、活気のある職場だと知ることができて、純粋な気持ちで築地に行ってみたくなった。

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海外からの観光客も増え続けるホットスポット。ますますカオスになっていくだろうが、沼田さんは今日も築地に赴く。

2017年1月6日より、今回の築地のポートレート写真を展示する「築地市場ブルース」を新宿眼科画廊で開催。本記事では紹介しきれなかった「築地のいい顔」たちが、一堂に会する。ニュースで見るのとは違う、本当の築地の姿をぜひ見てみてほしい。

取材協力:アリク(Facebook)

展示情報

沼田学写真展「築地魚河岸ブルース」

会場:新宿眼科画廊スペースM

住所:東京都新宿区新宿5-18-11

開催期間:1月6日(金)〜1月18日(水)、12:00~20:00(最終日17:00まで)、木曜日休廊

※1月7日(土)オープニングパーティー、餅つき&「夜霧」ライブあり

※1月11日(水) 20時~21時は都築響一さんとのトークセッション(入場料500円)

※この記事は2016年12月の情報です。

※金額はすべて税込みです。

書いた人:山田友佳里

山田友佳里

編集者/ライター。アートや写真、デザインにまつわる記事を中心に、いろいろ書いています。上司がいても空気読まずに1杯目から熱燗にいっちゃう、平成生まれの石川県出身。金沢で食べてほしいものを聞かれたら迷わず「おでん」と言います。 Twitter:@TbNyMd Instagram:@tbnymd

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