待機児童数ワーストの世田谷区が本気になった! その対策とは?

待機児童数ワーストの世田谷区が本気になった! その対策とは?

世田谷区が全国で最も待機児童数が多いというワースト記録を更新してニュースになったのがこの夏のこと。世田谷区民である筆者は、家の近所を散歩していて、しばらく空き地となっていた広大な土地に私立認可保育園ができるという看板を発見した。「歩いて2~3分のところに区立保育園があるのに、こんなに近くに新たにつくるってことは、世田谷区は本気だ!」……そんな世田谷区の本気の待機児童解消策を、かつて自分も保活(子どもを保育園に入れるための活動)に骨を折った身として、じっくり紹介してみたい。

待機児童数は増加しているが、定員数を増やす努力もしている世田谷区

世田谷区が平成28年6月2日に発表した、今年4月1日時点での待機児童数は1198人。過去最多だった前年同時期から16人増え、過去最多を更新することとなり、全国でも最多となっている。

もっとも、厚生労働省の基準通り、育児休業の延長や自宅で休職中といったケースを待機児童数から除外すれば、906人。それでも、第2位の岡山県岡山市(待機児童数729人)を大きく引き離しての“ワースト”ではある。

とはいえ、区はこれまでにも対策を講じてきた。平成27年「子ども・子育て支援事業計画」を策定し、今年の春にも1259人の保育定員拡大を実現している。目標だった2082人を達成できなかったのは、周辺住民との合意がとれずに開園が遅れた園が複数あるためだというから、区として急ピッチで保育定員の拡大に取り組んでいることは間違いない。

ところが、世田谷区は現在も、人口が増加しており、そのスピードは、わずか10カ月の間に1万人。当然、子どもの人口もそれに伴って増えている。認可保育園希望者数も、5年間で46%増となっており、そうしたニーズ増加のスピードに保育園の整備が追い付かないというのが実情だった。区は、この問題を、これからどう解決しようとしているのだろうか?【画像1】各年度4月1日時点での世田谷区の待機児童数と保育定員数。待機児童数は年々増加を続けている一方で、区はこの5年間で約4700人、保育定員数を増やしている(世田谷区のデータをもとに筆者作成)

【画像1】各年度4月1日時点での世田谷区の待機児童数と保育定員数。待機児童数は年々増加を続けている一方で、区はこの5年間で約4700人、保育定員数を増やしている(世田谷区のデータをもとに筆者作成)

3年後には保育定員数を約35%拡大する見通し

そこで、今年7月末に区が報告した「保育待機児童解消に向けた対応策(案)」を見ていこう。

まず、区は平成27年3月に策定した「子ども・子育て支援事業計画」について、策定時に使用した平成26年度の人口推計と実人口に大きな開きが生じていることから、事業計画の見直しを行うこととしている。

現在、検討されている見直し案は以下のとおり。現行の事業計画では、平成30年度をピークに人口がゆるやかに減少していく人口推計が基になっているが、新たな手法を用いたことにより、平成33年度まで増加傾向が続く推計となったことから、子どもの人口も、0歳~2歳児で2万3581人、3歳~5歳児で2万2630人と推計され、それぞれ現行から2239人、1197人の増加となっている。それに保育の利用意向率(43%~44%)を掛け合わせることで、確保すべき保育定員数を増加させて、平成31年度には2万1584人にしようというのが、見直し案の内容だ。

今年度の保育定員数が1万5934人であることを考えると、約35%の増加となる。【画像2】見直しによって、現行計画から拡大される保育定員数は、平成29年度で228人、平成30年度で951人、平成31年度で1673人増となっている(世田谷区のデータをもとに筆者作成)

【画像2】見直しによって、現行計画から拡大される保育定員数は、平成29年度で228人、平成30年度で951人、平成31年度で1673人増となっている(世田谷区のデータをもとに筆者作成)

認可保育園の整備や保育士の待遇改善など多方面からの対応策が

次に、保育定員数拡大のために区が打ち出した、数々の対応策を見ていこう。その冒頭にはこうある。

「区内の待機児童については、昨年よりも増加した一方で、3歳以降はほぼ解消するに至った。今後の保育需要の伸びを踏まえ、低年齢児(0歳~2歳児)を対象とした保育施設整備の促進などを図り、効果的に待機児童を解消していくために、以下の対応策(検討案を含む)を実施する」

なんと、3歳以降の待機児童はすでにほぼ解消していたのだ。となると、残るのは0歳~2歳の低年齢児。区の施策はそこにフォーカスしている。

主なものを、以下に見ていこう。

●0歳~2歳児保育ができる人材の確保と育成

待機児童1198人のうちの1194人が0歳~2歳児であることから、低年齢児に特化した施設である保育室の運営費を改善することで、保育士の人材確保や育成を促す。具体的には、補助金の加算等を行う(今年10月からすでに実施)。

●保育士等の処遇改善に向けた個人給付

待機児童解消対策において大きな課題である保育人材の確保のため、対象となる私立の保育施設の保育医師と看護師について、1カ月当たり1万円を各施設に支給する(今年10月からすでに実施)。

●拠点保育園の整備

保育施設整備方針に基づき、すでに予定している砧地域と世田谷地域に加えた北沢地域及び玉川地域に、近隣の区立保育園を統合した「拠点保育園」を整備する(開設は平成30年度下期~33年度以降を予定)。いずれも定員130人~200人程度と大規模なもので、玉川地域の拠点保育園については、医療的ケアが必要な児童も受け入れる。また、区立保育園の統合によって生じた区立保育園跡地には、私立認可保育園等の整備(新規開設や認可外保育施設の移行支援)を行う。

また、今後の検討を予定している案として、「小規模保育事業等に対する建物賃借料補助の増額」「低年齢児特化型分園の促進策」「地域型保育事業の連携となる認可保育所への補助の創設」「定期利用保育の運営費補助の増額」等がある。

こうして各対応策を見ていると、保育の質を確保しながら、急増する保育ニーズに応えるために、認可保育園の整備をはじめとして、保育施設の運営を支援したり、保育士の待遇を改善したりと、区が多方面から対応を講じていることが分かる。

今後も引き続き認可保育園の整備に取り組む世田谷区

最後に、これら保育待機児童解消のための対応を担当する部署に、これまでの施策の手応えや、今後の実現の見通しについて伺った。

「区では、これまで公有地や民有地を活用した保育施設の整備等の手法により、保育定員数の拡大に取り組んできました。その結果、待機児童のほとんどが0歳から2歳までの低年齢児となり、着実に効果が現れてきていることに手ごたえを感じています。

今後については、引き続き認可保育園の整備を進め、3歳児以降の受け皿を確保すると共に、低年齢の待機児童解消に向けた認可保育園分園や小規模保育事業等の整備に積極的に取り組んでいく予定です」(世田谷区子ども・若者部 保育計画・整備支援担当課)

確かに、前述のとおり、待機児童1198人のうち1194人が0歳~2歳児の低年齢児。つまり、3歳児以降の待機児童はわずか4名となっている。「希望していた近所の認可保育園に入れずに、仕方なく遠くの認可保育園に通わせている」「認可保育園には入れなかったので、認証保育所や保育ママに預けている」というケースも考えられるので、3歳児以降であればほぼ確実に希望通りの保育を受けられるというわけではないだろうが、区の地道な保育施設整備等の一定の成果であることは確かだろう。そして、次なるターゲットは低年齢児。待機児童のほとんどを占める低年齢児が保育を受けられるようになれば、区の保育待機児童問題は劇的に解決することになる見込みだ。

取材を進めていくなかで、私が近所で見かけた看板は、区が運営事業者を公募して誘致する形の認可保育園整備の一環であり、以前から実施されていることが分かった。これからは、今まで以上にこうした世田谷区の”本気度“を目にする機会が増えるのかもしれない。SUUMOジャーナル編集部にも、「世田谷区内だと子どもを保育園に入れられないから他区に引越しました(涙)」というワーキングマザーN女史がいるが、待機児童が1人もいなくなれば、そんな悲しい引越しはしなくて済むようになるはず。区の精力的な取り組みを、これからも期待を込めて見守りたいと思う。●参考

世田谷区「保育待機児童解消に向けた対応策(案)について
元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2016/12/122883_main.jpg
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