なぜ、放射性物質は見えないのか?
今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
なぜ、放射性物質は見えないのか?
なぜ、致死量の青酸カリは見えるのに、致死量のセシウムは見えないのか? なぜ放射性物質は見えないのか? というと、“放射性物質はあまりに毒性が強いので、見た人は死んでいる”ということです。このことは科学が取り扱う“数”が常識とはまったく違うので、分かりにくいようです。そこで、「なぜ、見えないのか?」について少し根本的なことを説明しておきたいと思います。
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普通の毒物は、どんなに毒性が強くても“グラム”で測ります。たとえば、青酸カリの致死量は200ミリグラムですが、まれに“ピコグラム”が問題になることもあります。
でも、多くの化合物は1キログラムぐらいで、“原子の数”は、1兆個の1兆倍ぐらいあり、“何個”とは数えられないほど多いのです。私たちが目に見える量は、1兆個の100万倍ぐらいですから、1ミリグラムぐらいまでは目で見ることができます。
私たちが普通の生活で、グラムとかモルという単位を使うのは、原子や分子、1つ1つを数えたらあまりに数が大きくなって不便だからです。
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一方、放射性物質は非常に激しい反応(毒性を示したり、観測できたりする)をするので、普通の化合物を取り扱うときには“1兆個の1兆倍”を1キロとして数えるのに対して、“1ベクレルは1秒間に1個の元素が崩壊したとき”というように1個1個を数えるというのがすごいところです。
たとえば、ヨウ素131は半減期が8日ですから、最初の1日で約10%が崩壊します。つまり1日は8万6400秒ですから、およそ10万秒で10%が崩壊するので、もしヨウ素が1キロあると1兆個の1000億個ぐらいが崩壊するので、それを10万秒で割ると、実に1兆の100万倍ベクレルにもなります。1ミリグラムは1キロの100万分の1ですから、ちょうど1兆ベクレルになる計算です。
(あまりに多い桁を扱うので、イヤになってきますし、少し間違いがあるかも知れませんが、ざっと計算すると、普通の毒物が1兆の1億倍(1ミリグラム)を問題にするのに対して、放射性物質は桁が全く違うことを示したいということです)
1兆ベクレルのものを経口でとると、100で割りミリシーベルトになりますから、100億ミリシーベルト、つまり1000万シーベルトで即死ということになります。厳密には原子量や年間の被曝量などを詳細に計算する必要はありますが、普段の生活で私たちが「何キロ?」などと聞いているのは「何ベクレル?」というのと1兆個の1兆倍も違う世界を話しているということです。
だから、放射性物質は危険なのですが、一方では逆に、数値が大きく1万ベクレルといっても、物質の量としてはきわめて微量だということも同時に理解しておくといろいろなことがもっとよく見えてくると思います. 除染するときに“見えないものを拭く”という奇妙な行動を強いられるのですが、その原因は、私たちの日常生活が膨大な数の原子を相手にしているのに、被曝となるとまったく別世界のことだからです。
執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
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