「君は破滅だぞと恫喝された」 巨人・前球団代表の清武氏の反論会見 全文書き起こし

清武英利氏

 プロ野球・読売巨人軍の前球団代表兼ゼネラルマネージャーを解任された清武英利氏は2011年11月25日、都内で記者会見を開き、自身が役職を解任されたのは、コーチ人事をめぐる渡邉恒雄会長の人事独裁を告発した件への”報復措置”だとして、「そう遠くない時期に、必要な訴訟を提起する予定」と、訴訟準備に入っていることを明らかにした。また告発会見の直前に渡邉会長から「会見をやめろ。君は破滅だぞ。読売新聞と全面戦争になるんだ」と恫喝されたことや、清武氏の解任を発表した桃井恒和元オーナーについて「当初、鶴の一声に真っ向から反対したのは桃井元オーナー自身だった」と暴露した。

 以下、会見の模様を全文書き起こして紹介する。

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■「君は破滅だぞ。読売新聞と全面戦争になるんだ」

清武英利(前読売巨人軍球団代表:以下、清武): 清武であります。本日は大変貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。ヤンキース(メジャーリーグ)の友人からも心配の電話がかかってきたんですけれども、私は格好良く英語でスピーチしたいのですが、九州の侍の子孫なので、日本語でぜひ通させてください。

 本日、私が皆さま方に申し上げたい点は6つあります。まず第1点は、今回の問題は株式会社読売巨人軍の適正手続に従って決まっていたコーチ人事を、巨人軍の取締役会長である渡邉恒雄氏の鶴の一声で、違法、不当にも覆そうとしたことに端を発するということです。

 ご承知のように、渡邉氏は日本の最大部数を誇る読売新聞のグループ本社代表取締役会長・主筆であります。私は、渡邉氏の行為は巨人軍という組織に重大な混乱を招き、重大なコンプライアンス違反であるから、翻意するように何度もお願いをしましたが、渡邉氏には「1、2年後には君を社長にする。すべてのことを受け入れて専務取締役球団代表、オーナー代行として仕事をし続けてくれ」などと拒まれました。11月11日の会見直前に、渡邉氏から「会見をやめろ」との電話を受けましたが、最後は説得ではなく「君は破滅だぞ。読売新聞と全面戦争になるんだ」といった恫喝でありました。

 当時オーナーでもありました巨人軍の代表取締役社長の桃井恒和氏自身も、11月4日の渡邉氏の突然の翻意を聞き、「もうやっていられない。俺、辞表出すよ」とまで言って、私に憤りをあらわにしておりました。当初、鶴の一声に真っ向から反対したのは、桃井元オーナー自身だったのです。私は桃井元オーナーの言葉を聞きまして、この渡邉氏の横暴は絶対に食い止めなくてはいけない、それほどのコンプライアンス違反と判断して、記者会見の場で公然と渡邉氏に翻意を促しました。

 コンプライアンス・内部統制は、株式会社にとって本質的に重要なものであり、裁判例も「コンプライアンス・内部統制を維持することは、取締役の善管注意義務及び忠実義務の内容をなすもの」と判示しております。近年では、株式会社は株主のものであると同時に、取引先や従業員、一般社会などのすべてのステークホルダーのものであるという考え方が主流になっています。

 読売巨人軍に即して言いますと、巨人軍は株主である読売新聞グループ本社のものであると同時に、選手、コーチ、監督のものであり、また、読売巨人軍及びプロ野球ファンの皆さまのものであると私は考えております。そして、株主や従業員、取引先などのステークホルダーの信頼と期待を裏切らないために、コンプライアンス・内部統制の維持が強く求められ、代表取締役をはじめとするすべての役員及び従業員一人ひとりがコンプライアンス・内部統制維持のために必要な行動をとることが強く求められていると思います。

 私は、私の行動がプロ野球界や企業社会におけるコンプライアンスのあり方や、GM制度のあり方など、生産的な論議につながることを心から願っています。私に対する解任は、何とか「お家騒動」あるいは「泥仕合」に持ち込んで、そのゴタゴタの中で違法・不当な処分を強行し、本質的な議論を抹殺しようとするものにほかなりません。

■「江川なら集客できる。しかし、監督にはしない」

 第2点目は、日本のリーディングペーパー(読売新聞)の最高実力者である渡邉氏が、多くのマスコミの前で確信犯的に虚偽の事実を述べたという驚くべき事実です。11月4日、渡邉氏は多くのマスコミの前で「俺は何にも報告聞いていない。俺に報告なしに、勝手にコーチの人事をいじくるというのは、そんなことはあり得るのかね。俺は知らん。責任持たんよ」と発言をいたしました。

 真実は、私と当時オーナーでありました桃井氏が10月20日、コーチ人事等について書類をもとに1時間半にわたって報告していたのです。この点については、渡邉氏自身が私の声明に対する反論のなかで実際に報告があったことを認めていますし、桃井元オーナーも記者会見の中で明言しています。今回の渡邉氏によるコンプライアンス違反は、この11月4日の虚偽発言から始まっています。

 第3点は、適正手続を無視した今回の渡邉氏の行為が、実は江川卓氏(元プロ野球選手、野球解説者)やファンを愚弄するものであるということです。2011年10月20日、当時の桃井オーナーとともに岡崎郁氏をヘッドコーチにする等のコーチ人事編成、来季の戦力構想を渡邉氏に書類持参で報告し、確定したにも関わらず、同年11月9日になって、渡邉氏は桃井元オーナーや私に「来期の巨人軍の一軍ヘッドコーチは江川卓氏とし、岡崎郁ヘッドコーチは降格させる」と一方的に通告してきました。

 11月9日や11月11日に私が渡邉氏とお会いしたり、電話で説得を受けたりした際にも、この人事の翻意をお願いしましたが、渡邉氏は「巨人は弱いだけでなく、スターがいない。江川なら集客できる。彼は悪名高いが、悪名は無名に勝る。彼をヘッドコーチにすれば、次は江川が監督だと江川もファンも期待するだろう。しかし、監督にはしないんだ」などと、この独断人事の狙いを打ち明けました。

 私は渡邉氏の行為は企業統治の原則に反し、コンプライアンス違反に当たるというだけではなくて、巨人のエースだった江川氏を集客の道具にしか見ておらず、彼のユニフォーム姿に期待するファンを愚弄するものではないかと思わざるを得ません。かつて渡邉氏には、「たかが選手」という発言がありましたが、「たかが江川」「たかがファン」という底意に基づいた人事を、取締役として到底容認することはできませんでした。

■「鶴の一声」で覆すことは決して許されない

清武英利氏

清武: 第4点は、渡邉氏が巨人軍の原辰徳監督らを今回のコンプライアンス違反の問題に巻き込んでしまったことです。渡邉氏は、江川氏を招聘するにあたって原監督に交渉をさせ、報告を受けることにしていたと私や桃井元オーナーに明らかにしています。実際に交渉が行われたかどうかは不明ですが、巨人の象徴的存在である監督を権限外の問題に巻き込むことは許されないことです。

 第5点ですが、私は2004年8月、読売巨人軍の取締役球団代表兼編成本部長に就任し、2011年6月7日は、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行に就任しました。この球団代表は、英訳すればゼネラルマネージャーに相当する役職です。GMといえばアメリカ大リーグにおけるのと同様に、球団の選手、コーチ、監督(フィールドマネジャー)、それらの人事権を掌握する役職を意味しており、ドラフトやFA(フリーエージェント)交渉、主要トレード等、球団の戦力整備が主な権限であります。この点は、株式会社読売巨人軍においても基本的に同様です。「読売巨人軍職制」「読売巨人軍組織規定」が球団代表(=GM)や編成本部長の権限等を規定しております。

 それらの規定によれば、球団代表はオーナー、社長の命を受け、球団経営実務を統括するとされており、編成本部長が球団のチーム編成および運営、外国人選手の獲得、スカウト、ドラフト会議、移籍、チーム運営、査定と契約公開、二軍選手と育成選手の指揮管理等の主管事務を掌理するとされていますので、実質的にはGMの権限と全く同じだと理解していただければ良いと思います。

 逆に、親会社である読売新聞グループ本社代表取締役会長らには、これらの権限が一切無いことが分かります。読売巨人軍におけるコーチ人事に関する適正手続の中身は、球団代表(GM)兼編成本部長である私が、監督やオーナーとも協議して人選し、契約交渉を行ってコーチ人事を決定し、事実上オーナーと渡邉氏に報告した上で確定人事とし、球団代表兼編成本部長である私が調印を行うというものであります。

 従って、株式会社読売巨人軍におけるコーチ人事については、GM兼編成本部長である私に人選及び調印権限が帰属していたのであり、同社オーナー及び渡邉氏への報告を経た後のコーチ人事については確定人事であって、たとえ株式会社読売巨人軍の親会社である読売新聞グループ本社の代表取締役会長・主筆であり読売巨人軍の取締役会長である渡邉氏といえども、それを覆すことは決して許されない。これが株式会社読売巨人軍におけるコーチ人事に関する適正手続の中身です。

 実際、過去にこの適正な手続に従って確定したコーチ人事について、渡邉氏が横やりを入れたり、覆したことは一度もありませんでした。それにも関わらず、渡邉氏はこの適正手続を「鶴の一声」で公然と破ろうとしたのであります。つまり問題の本質は、「渡邉氏の行為はコンプライアンス違反であり、コンプライアンスの維持を重要な内容とする株式会社の内部統制・企業統治に違反するものである」ということです。

■ポストに釣られて見逃したのでは人の道に反する

 第6点として、私の解任の底流にあるものについて少しお話を申し上げます。私が巨人軍に入社した2004年は、球界にとって大きな転機となった年でした。2004年8月、明治大学の一場靖弘投手に対する裏金問題が発覚しました。その責任をとる形で、渡邉氏はオーナーから退き、当時の土井(誠)社長、三山(秀昭)代表らが解任されました。私は三山氏のあとを継いで、読売巨人軍取締役球団代表兼編成本部長に就任しました。この際、私に託された使命は、大きく失墜した巨人軍の信頼回復と球団経営改革であり、コンプライアンスの徹底でした。

 私は常々、渡邉氏や桃井元オーナーから、裏金や情実による選手獲得人事を廃して、球団代表=GMに球団選手やコーチ、監督等の人事権を集約させること、読売巨人軍の信頼回復のため、不祥事の再発防止、コンプライアンスの徹底に努めてほしいと要請されておりました。そして今年の6月7日には、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行に就任し、名実ともにGMに就任して、より一層の球団経営改革とコンプライアンスの徹底を要請される立場になりました。

 私は、これまで球団改革の一つとして、新しい選手養成システムの「育成制度」に取り組んできました。この育成制度の定着が、巨人軍選手による3年連続の新人王獲得につながったと自負しています。また、ドラフトやFA交渉、主要トレードの人選においても、メジャー球団で取り入れられていた、選手個々人の能力を客観的な数値において評価分析する手法であるベースボール・オペレーション・システム(BOS)、ジャイアンツではGシステムとかVシステムと呼んでいますが、これを導入して、裏金や情実による人事を廃してコンプライアンスを徹底し、客観的・合理的な評価・分析によるスカウト制度を実現しました。

 読売巨人軍の創設者、正力松太郎氏が残したいわゆる「正力三訓」は、「巨人軍は常に紳士たれ」「巨人軍は常に強くあれ」「巨人軍はアメリカ野球に追いつけ、そして追い越せ」というものであります。私はこの正力三訓を実践するために、球団経営改革やコンプライアンスの徹底を進めてきました。そして、球団経営の合理化及び近代化改革を推し進めるべく、来季に向けた人事を正規の手続を踏んで進めていた矢先に、旧来の商店経営の典型である鶴の一声で、渡邉氏はこれを覆そうとしました。

 私は読売新聞の社会部記者でした。記者時代は大手企業のコンプライアンス違反を追及して、コンプライアンス違反を犯した企業のトップやそれを食い止めなかった人々を強く批判してきました。(著書を掲げながら)たくさんの本も書いています。この中でも数々指摘をしてきました。その私が今回のような、ファンの皆さまを裏切ったり、選手、コーチ、監督及び心ある球団職員を裏切る重大なコンプライアンス違反を、ポストに釣られて見逃したのでは人の道に反すると思いました。

 (11日の)記者会見以来、多くの関係者の皆さまからいろんな形で大きな励ましを受けました。大きな声は上げられないけれども、同じ志の人々が読売新聞の中にも、読売巨人軍の中にもたくさんおられて、その方々と心と心で連帯していると考えております。またこの間、多くのファンの皆さまから温かい励ましをいただきました。ありがとうございます。私は多くのファンの皆さまが、健全なプロ野球界の実現をこれほどまでに真剣に考えていて下さることに心から感謝申し上げます(深くお辞儀する)。私に対する解任は、コンプライアンス違反を隠蔽するための、そして報復措置としてのものであり、違法・不当なものでありますから、そう遠くない時期に必要な訴訟を提起する予定であります。長い時間ありがとうございました(深くお辞儀、拍手)。

(質疑応答に入る)

■渡邉氏は巨人だけじゃなく読売新聞も私物化しているのでは?

清武氏の記者会見は日本外国特派員協会で行われた

質問者: 米雑誌アトランティックのジェイク・エーデルスタイン(元読売新聞記者)です。清武さんに日本語で質問します。渡邉はガンと皆分かっているし、桃井さんは相変わらず臆病者で金玉なしですけど・・・(会場笑)。清武さんに渡邉氏が(言ったとされる)「読売新聞と全面戦争になるんだ」という脅し文句が興味深いのですが、声明文では「読売巨人軍のあるべき適正手続を無視して、自らコンプライアンスを破り、読売巨人軍を私物化しようとした渡邉氏の行為は許されない」ということでした。しかし、ちょっとキツい質問になるのですが、つまり読売巨人軍だけじゃなくて、読売新聞そのものも私物化しようとしている疑いがあるのではないでしょうか?

清武: その可能性はあるかも知れませんが、今私が答えられるのは、私が体験した巨人軍の今回の問題です。今回にまつわる問題なので、今回はジェイク(質問者)の期待とは若干外れるかも知れませんけども、まずこの問題から提起していきたいと思います。

吉峯啓晴弁護士(清武氏の代理人:以下、吉峯弁護士): 弁護士の立場からすると、清武さんはもちろん今のように仰るわけですけれども、はっきり言って人間というのは、この分野では横暴だけれども、ほかの分野では横暴ではないということはあんまり無いことなので。皆さんがご心配なさるように、読売新聞の記者の皆さんが取材をして記事を書いたりすることに関しても、当然のことながら乱暴な干渉というのがあり得るんじゃないかという危惧は、誰でも持つことだろうと思っています。従って、渡邉氏が読売新聞という世界で最高の発行部数を誇るリーディングペーパーの最高責任者であるということを考えると、弁護士の立場からはっきり言うと、読売新聞の記事の品質が心配だと。1000万人の読者に対して、本当に大きな不安を与えることだろうと。企業のコンプライアンスを破るという意味では、一つの基本的な態度があるのではないかと心配はしています。以上です。

■来月ぐらいに訴訟に踏み切る

質問者: 共同通信のワダと申します。三点あるんですが。

清武: 出来れば一つずつお願いします。

質問者(共同通信): はい。紙(声明文)の最後に「そう遠くない時期に必要な訴訟を提起する予定です」とありますが、現時点で仰られる範囲で、いつ頃、どのような訴訟を起こされるのか、例えば名誉毀損なのか損害賠償を求められるのか、その辺の具体的な内容を教えてください。

吉峯弁護士: それは弁護士の方からお答えをします。訴訟については解任そのものが不当なので、読売巨人軍による解任が不当・違法であるということを前提に、いろんな訴訟の形態があり得るだろうと思っています。それから渡邉氏の11月4日の発言であるとか、あるいはその後の反論の談話というものも、明らかに清武さんに対する名誉毀損であると考えていますので、当然のことながら渡邉氏は名誉毀損の責任を負うだろうと思っています。ただ訴訟をするからには慎重に検討しますので、どういう人を、あるいはどういう会社を被告にして、どういう形式で訴訟をするかということについては今検討中です。ただ、訴訟に踏み切るということは明らかであって、時期は多分来月ぐらいになるんじゃないかと思っています。

質問者(共同通信): それと二つ目が、11月4日以降のことについて「9日や11日に渡邉氏とお会いしたり、電話で説得を受けたりした際も」とあるんですが、これ以外に、この会見で今仰ったようなことを渡邉氏と直接話をされたことがあるんでしょうか? あれば教えてください。

清武: 直接ですか?

質問者(共同通信): はい。

清武: 直接という意味ですね。直接的にはこの2回です。

質問者(共同通信): 分かりました。それとここは外国特派員協会なんですが、今日は日本の記者の方がたくさん来ていて、すごい数の記者がいます。これについて今どのように感じていらっしゃるか教えてください。

清武: 大変多くの方々に関心を持っていただいているという気持ちです。今日はオリンパスのウッドフォード元社長もお見えになっているそうですけれど、やっぱり役員が、特に最高実力者が誤った時に、誰かが、特に取締役が「それは不当である」と声を上げることがとても大事だと思います。そういう話もあるし、皆さん方がご存じの通り渡邉会長は、言論界においても、政界においても大変な実力者ですので、その方に対して私は一人でやっておりますので、「なぜここまでやるのか」という気持ちもあるのではないでしょうか。やはり、そういう関心が、例えば僕の友達がいるヤンキースの方々も心配してくださるし、今日ここを選ばせて頂いたのも、なかなか会見の場所が無いということや、海外の方々にも、アメリカの球団の方々にも分かってもらいたいという気持ちがありまして、ここを選ばせてもらいました。

■もし岡崎ヘッドコーチが降格した場合、内示を受けていた誰かがはみ出した

質問者: livedoor BLOGOSのタノと申します。よろしくお願いいたします。今回の「鶴の一声」で覆ったことに対しての会見ということですが、9年間、8年間いらっしゃった中で・・・。

清武: 7年間。

質問者(BLOGOS): 7年間、失礼いたしました。7年間いらっしゃった中で、いろんな「鶴の一声」が積み重なって、今回耐え切れずにということなのか、今回のがあまりに大きすぎてということなのか。話せる「鶴の一声」がほかにあったらお聞かせください。

清武: これまでも「鶴の一声」に近いものはありました。しかしながら、私が今回我慢できないと思ったのは、やはり選手、コーチに関係することだからです。皆さんお分かりでしょうけれども、球団の資産は選手です。選手はいつかコーチになりますから、今回コーチを守ることは選手を守ることにつながります。今回の(渡邉氏の鶴の一声は)毎日のように同じ釜の飯を食った選手やコーチ、監督たちを裏切る行為です。彼らと話をしていて、もしかしたら「鶴の一声」を私がのんで、下に伝えればあるいは了承されたかもしれません。でも、彼らは心の中では大変軽蔑しますよ。

 フロントの業務というのは、選手とかコーチ、監督の信頼を失っては・・・特に人材をつくるのはコーチです。普通の企業の係長に当たるところがコーチです。そういう人たちの信頼を失ったら、実際のところやっていけません。特に巨人軍は大艦巨砲主義を捨てて、コーチによる育成主義に大きく舵をとっています。そうすると、コーチの人たちにうまく錬成してもらうことが一番重要なことじゃないですか。こんな風に錬成しろとか育成しろと言っても、コーチたちが心の中で僕らを軽蔑していたら、僕らの計画通りいきません。

 もうひとつ、今回岡崎郁ヘッドコーチの名前を挙げましたけれど、もし岡崎ヘッドコーチが降格された場合、ベンチには定員がありますので誰かがはみ出すわけですよ。その人はどこに行くんでしょうか? ブルペンでしょうか? 二軍でしょうか? 特に江川さんという方はピッチングコーチ、当然ながら投手部門を得意とする方です。そうすると一軍に極めて実力のあるコーチが3人いらっしゃいますから、その方々がどこかに行くわけです。もし二軍に行ったら、二軍のコーチはどこに行くんでしょうか? 私は江川さんを大変尊敬しております。しかしながら強引に、一方的に「鶴の一声」で江川さんを入れることによって、組織全体が大きく変わらざるを得ない。特に二軍のコーチたちには既に内示をしておりましたので、組織の崩壊につながります。

■「ポスト要求」は言いがかり

清武英利氏

質問者: FCCJ(日本外国人特派員協会)メンバーのヒラヤマです。日本経済新聞の元社会部長も経験しております。そういう面から一つお聞きしたい。10月20日に報告をされ、確定人事が決まったと。その後日、日本シリーズはおろかCS(クライマックスシリーズ)も負けて、「これは大変だ」と渡邉氏が思ったとして、渡邉氏がその確定人事を「これは決まったけれど、やはりこの様子を見ると、来年このコーチ人事でやるのはマズいんじゃないか。ここはいったん引いて白紙に戻して、もう一度考え直して、私にも一つ考えはあるよ。例えば江川君」とか、仮に民主的な手法というか話し方で、独断的な「鶴の一声」ではなく、清武GMに話を持ってきたら、その場合にもダメなのかということをお聞きしたい。

清武: いくつかの問題があると思います。もしコーチ人事を内示する前であれば、十分協議の対象になったと思います。相談することも十分できたと思います。私が読売の本社に行ったのは10月20日です。CSが終わったのがその2週間後です。本来そういう問題があれば、短期戦と長期戦がありますよね。144試合(レギュラーシーズン)に負けて、もし人事に異議があれば10月20日に私たちが報告に行った時に、「もしCSに負けたらこの人事は白紙になるよ」とか、あるいは「これは考慮すべきだな」という声があって然るべきではないでしょうか。

 もう一つあります。もしコーチ人事をひっくり返そうというつもりがあれば、CSが終わった(巨人が敗退した)のが31日でした。その後1日があり、2日があり、3日があって、4日があります。どうしてその間にお話が無いのでしょうか。コーチ人事を内示したのは31日の夜です。4日間空白があって、突然4日目になって、内示からは5日目になって、しかも具体的に話が出たのは7日です。これは誰が考えても、皆さん内示を受けた人たちは生活もかかっていますし、プライドもあります。進んでいるわけです。先ほど組織の問題も申し上げましたが、そういうことで「これは受けられない」と私は考えました。もしやるなら、もっと早く言っていただきたい。それが組織だと思います。

 この問題に関連して、私のほうから一つだけぜひ皆さん方にお話したいことがあります。それは解任の理由の中に、私が不当にポストを要求したということです。大変心外であります。私はもともとこの問題については、ある先輩から休みの日に電話がありました。「体は大丈夫か?」というような話がありました。私はその先輩に「渡邉会長は名誉ある撤退はできないのか?」という話をしました。「可能ならば、巨人の取締役会長から退くことはできないのか」と。しかしご存じの通り、渡邉さんは2004年に裏金問題があってオーナーを退任した翌年、すぐに会長に復帰されました。今回もし会長を退かれても、また戻ってくるかもしれない。だから誰かがチェック役にならなくてはいけない。私は「監査役として残る覚悟がある」と申し上げただけで、それも雑談の中でです。そういう私の意志を、本社の中枢の冷静な人に伝えてもらいたいという気持ちがありました。そういう話もしました。しかし、雑談であります。それを「ポスト要求」とすり替えるのは言いがかりに近いです。

■コーチたちを守ることができた

質問者: フリーランスの上杉隆です。外部の者からすると、清武さん自身もこの7年間、その前も含めて最高実力者の渡邉恒雄さんとともに権勢を振るってきたんじゃないかという風に受け取るわけです。特に私も読売新聞にはいじめられましたが(笑)。そういうことを考えると、同じ穴の狢(ムジナ)じゃなかったかと思うわけです。ただ武士の末裔、そして元ジャーナリストとして、その中にいる時に、なぜこのような今やっていることが出来なかったのか。その点は個人的な理由なのか、あるいはそれほどまでに読売新聞の社内というのは恐ろしいところなのか。ご都合主義という批判もあると思いますが、その観点からお答えいただければと思います。

清武: ご批判はあるかもしれませんけれども、やっぱり私たちにとって、もし「君は破滅だよ」とか「破局だぞ」と、こういう風に言われるのは恐怖じゃないでしょうか。サラリーマン社会においては、それは恐怖の言葉であります。やっぱり私たちが、私だけでなくて読売新聞社あるいは読売巨人軍の中においても、なかなか声を出すことが出来ないというのは、そういう最高実力者(渡邉恒雄氏)に対する畏怖があるんだと思います。しかし私は今回自分の職を賭して、やっぱり唯一の誇りは、コーチたちを守ることができたので、それで今は満足しております。

(会見が終了して拍手、清武氏が退場)

■清武氏はジャーナリストではなくサラリーマン

ジャーナリストの上杉隆氏

亀松太郎(ニコニコニュース編集長:以下、亀松): 上杉さん、感想を一言お願いします。

上杉隆(ジャーナリスト:以下、上杉): 分をわきまえなきゃいかんよという感じですね。最後に質問したんですけど、やっぱり清武さんもこれまで7年間、読売、渡邉恒雄体制の中で、どっぷり利権と権勢を振るってきたということがあるんですね。でもそれを無視して今、何か都合のいいような形で、自分の人事が発表されて降格になった後に、この一連の騒動になっているわけです。だったらなんでその前にやらないんだと、本当に理があって、志があって、コーチや監督を守るとしたら、一場さんもそうだし、江川さんは関係ないかもしれませんけど、そういう守れる時があったんだから、何で今ごろになって急に言うんだというのが疑問に思ったんで質問したんですね。

亀松: ただ僕もサラリーマンなので、なかなかやっぱり勇気がいる行動だったと思うんですが。今日の記者会見全般についてはどのように思いますか。

上杉: 自分の言葉で発してほしかったんで、最初に配ったペーパーを読むのはどうかなと。あと、やっぱり九州生まれの武士の末裔と、私も九州生まれですけど、それと同時に元記者だと、読売新聞社会部記者と言ったんだったら、サラリーマンじゃなくて、サラリーマンでもいちジャーナリストであるのだったら、それを答えに欲しかったなと思いますね。あそこでサラリーマンと(清武氏が)言って、正直言ってガクっときました。ジャーナリストじゃないのかという意味で、わざわざこっちは武士で元ジャーナリストですねという言葉を言ったのにも関わらず、それを否定して「サラリーマンですから」というエクスキューズ(言い訳)を言ったのは、ちょっと弱いんじゃないかと。あとは総じて、個人的にはこうやってやることに関しては応援するんですが、ただFPAJ(自由報道協会)やニコニコにも出てほしいですね。

亀松: 確かにね。

上杉: 海外のほうに伝えるんじゃなくて、インターネットユーザーとか、若い世代にはやはりそういうメディアツールが今はあるんで。厳しい質問をしましたけど、ぜひとも清武さんにはそっちの方でもぜひ登場してもらい、どんどんいろいろな形で質問に答えてほしいと思います。

亀松: 自由報道協会でも、清武さんを呼ぶんですかね?

上杉: 呼ぼうと思っています。今、弁護士さんの方に、これからあいさつして、もともと神保(哲生:ビデオジャーナリスト)さんが司会なんで、神保さんの方にも。FCCJが今回は先なんで、これはもう優先して、敬意を表してこちらの方は先なんですけど、この後もしチャンスがあったら。ただ法廷闘争があるので、ちょっと難しくなるかもしれないとは言っていましたけど。もうここまで来たら、いろいろな形でいろいろ発信した方がいいんじゃないですかね。

■法廷に引きずり出されるだけで、渡邉氏の名誉は下がっていく

ノンフィクションライターの神田憲行氏

亀松: 分かりました。ありがとうございます。次はノンフィクションライターの神田憲行さんです。

神田憲行(ノンフィクションライター:以下、神田): こんにちは、どうも。

亀松: 今日の会見を見た感想をお伺いしたいんですが。

神田: 非常に今日良かったのが、一番最初の質問で、外国人の方が巨人軍におけるような、そういう不当な「鶴の一声」というのは読売新聞社内にもあるんではないか? という質問があって、それに対しては清武さんはちょっと言葉をにごされましたけども、弁護士の方が「そう思っていい、当然だ」と言って、物置から出たボヤが母屋にまで類焼するのかなという気配が見えてきたと。これはちょっとお言葉としてはおかしいですけれども、面白くなってきたなという印象を持ちました。

亀松: 清武さんの11日の会見直後の夜に、ニコニコ生放送で1回番組をやった時に神田さんに出演していただきました。その時には、ある意味本当に清武さんの単独行動で、非常に不利じゃないかというような意見もあったんですが、今後の展開としてはどのように推移すると思われますか。

神田: それも面白いんですけども、清武さんご自身が今回の行動を起こして、巨人軍や読売新聞社内からも激励が寄せられているというのがありました。弁護士さんが来月にも訴訟を起こすと言っていますので、そういう内部の人たちの連動があるのかなと。ちょっと僕は質問できなかったんですけども、もしそういうものがあるとすれば、もうこれは大きな流れになっている可能性もあります。

亀松: 渡邉会長は訴訟では負けたことがないと豪語もしているんですが、法廷になるとまた随分様子は変わるんでしょうか。

神田: 法廷に引きずり出されるだけで、彼の名誉は下がっていくのはもう間違いないと思うので、そこは勝ち負けの問題じゃないと思うんですよね。こういう形にしてしまったこと、それで世論の調査なんかをやると、やっぱり清武さんの肩を持つ方が非常に多いという状況を考えると、こういう状況になっただけでも渡邉さんにとってはやっぱり誤算だったんではないかと思います。

(了)

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(協力・書き起こし.com

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