冷めることのない異常な熱気!「東京アンダーグラウンド」シーンの中心格 Have a Nice Day!

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冷めることのない異常な熱気!「東京アンダーグラウンド」シーンの中心格 Have a Nice Day!

2016年5月21日、1本の映画が劇場公開されました。その映画の名は「モッシュピット」。カンパニー松尾が率いるAVメーカー・ハマジムに所属する岩淵弘樹が監督した、非アダルトの音楽ドキュメンタリー映画です。

「東京アンダーグラウンド」そして「モッシュピット」

「モッシュピット」は、3組のアーティストがライウハウスで形成する音楽シーンを追ったドキュメンタリーです。その3組とは、Have a Nice Day!、NATURE DANGER GANG、おやすみホログラム。

Have a Nice Day!とNATURE DANGER GANGはバンド、おやすみホログラムはアイドルという違いがありますが、彼らはモッシュ、リフト、ダイヴなどが展開され続けるハードコアな空間を生み出している点で共通しています。

彼らがライヴハウス・新宿LOFTを拠点として作るシーンは、こう呼ばれています。「東京アンダーグラウンド」。そして、映画のタイトルである「モッシュピット」とは、大規模なモッシュが発生する空間のことを指します。音楽的には異なりますが、パンクのような激しいシーンだと思ってもらえば、そう大きな間違いはありません。

映しだされる地獄絵図のようなリアル

映画「モッシュピット」は、事実上ひとりの主人公がいます。Have a Nice Day!のヴォーカルである浅見北斗です。「モッシュピット」という映画は、2015年11月18日に恵比寿LIQUIDROOMで開催された「Have a Nice Day!『Dystopia Romance』リリースパーティー」のライヴ当日までを追ったドキュメンタリーです。この映画は、LIQUIDROOMに925人もの観客を集めるまの浅見北斗の苦悩を描いている、とも言えます。

そして映画「モッシュピット」は、LIQUIDROOMという場でのリアルを映画のスクリーン全面に映しだします。この映画の中でももっとも鮮烈な映像は、Have a Nice Day!とおやすみホログラムのコラボレーションによるキラー・チューン「エメラルド」が演奏されたときのフロアの熱狂を収めているシーンでしょう。

LIQUIDROOMの天井に設置されたカメラは、その真下で展開されているモッシュピットを記録しています。それは、前へ前へと詰めかける人の上にさらに人が乗りサーフし、まるで大量の虫がうごめいているかのような地獄絵図なのです。メンバーの脱退、手術…

Have a Nice Day!は、映画「モッシュピット」の追い風も受けながら、2016年5月25日には渋谷TSUTAYA O-WESTでワンマンライヴ「Helter Skelters Disco Showcase」を開催しました。このライヴをもって、Have a Nice Day!唯一の女性メンバーであるさわが脱退することが発表されたのは2016年5月22日。映画「モッシュピット」の公開2日目の出来事でした。

バンドの紹介をしようとしている記事なのに、ここまでメンバー紹介をしなかったのは、そんな事情があります。ヴォーカルの浅見北斗、キーボードのさわ、ドラムのチャンシマ、そしてもうひとりのヴォーカルであり担当パートは「ジェームス・ブラウン」とされる内藤。これが2016年5月25日までのHave a Nice Day!の編成でした。

とはいえ、内藤は2015年1月以降、腕の靭帯の手術を受けたこともあってか、大規模なライヴ以外には姿を現しません。サポート・メンバーであるキーボードの遊佐春菜(壊れかけのテープレコーダーズ)も2016年5月25日のライヴには参加していましたが、彼女もいつもいるわけではありません。こうして執筆時点では、常にステージにいるメンバーは浅見北斗とチャンシマだけとなり、2016年6月28日のライヴ(ちなみにこの日は、浅野忠信が在籍するSODA!や向井秀徳との対バンです)での再始動までどうなるのかわからない状況です。熱量が高すぎる現場の光景

2016年5月25日のワンマンライヴの映像は、すでに全編がYouTubeでオフィシャルに公開されています(https://www.youtube.com/watch?v=n_M0-qCSM9s)。そこには、脱退するさわの最後のステージで共演するために大森靖子が登場してコラボレーションをするシーンも収録されています。さわは大森靖子の熱心なファンだったのです。

この日演奏された「Blood on the mosh pit」という楽曲のライヴ動画に関して、私の印象に残ったのは、「なんでこの曲でこうなるの?」というコメントでした。たしかに激しいわけでもなく、どちらかといえばミディアム・ナンバー寄りの楽曲なのに、ファンはモッシュを続け、他のファンの頭上に登ろうとします。こうした光景は、初めて見る人には新奇なものとして映るのでしょう。

Have a Nice Day!の現場の熱量の高さは、多くのアイドルファンの流入すら招きました。バンドなのにアイドルのようにMIXが入ったりもします。そして、それを他のファンが口を封じて止める「MIX潰し」も存在します。文字通り、人と人がぶつかりあう現場なのです。高い音楽性とジレンマ

しかし、2014年に初めてHave a Nice Day!を見たとき、私の心をつかんだのは、彼らの登場時の音楽がマーヴィン・ゲイの「マーシー・マーシー・ミー」だったことや、サウンドにおけるソウルやファンクのサンプリングでした。そうしたブラック・ミュージックの要素にヒッホップの要素も加わっているのがHave a Nice Day!の音楽です。「ロックンロールの恋人」や「CAMPFIRE」のようなミディアム・ナンバー寄りの楽曲でも、フロアの熱量は落ちることなく大合唱になります。浅見北斗の作曲能力は無視できません。

しかし、あまりにも現場が激しいために、その光景ばかりに言及されて、音楽性に触れられないのはHave a Nice Day!というバンドが抱えたジレンマでした。2016年5月25日のステージにはWorld’s End Girlfriendも登場しましたが、彼が自身の主宰するレーベル・Virgin Babylon RecordsにHave a Nice Day!を招いたことは、彼らの音楽性を評価したからこそでしょう。映画制作、満員のワンマンライブ、そして

現場の熱狂と、それを煽るかのように常に露悪的な言動をする浅見北斗。映画も制作され、ワンマンライヴは満員で、はたから見れば現在のHave a Nice Day!は順調そのものです。ただ、東京アンダーグラウンドの住人たちは知っています。さわの脱退の意味の大きさを。現場にいる我々ひとりひとりと誰より会話してくれていたメンバーがさわでした。

脱退が発表された日のさわのツイートは忘れられません。特に「わたしはどうがんばってもHave a Nice Day!の内側に入れなかったのに、それを飛び越えて入っていく人たちがたくさんいた事がとても悔しかったです」という一文を。正直に吐露すれば、私はHave a Nice Day!を紹介してきたメディア側の人間として責められているのではないかとすら思ったのです。

さわが脱退した2016年5月25日のワンマンライヴは、友人がモッシュピットでメガネを壊すなど、「大盛況」という言葉で済ませるには破天荒すぎる空気のまま終演を迎えました。その終演後、さわがチェキ会をしていたので私も並んだのですが、彼女にそのとき言われたことは、今後のHave a Nice Day!についてのことでした。驚きました。これほどまでにHave a Nice Day!を愛した彼女がバンドを離れるのか……と。

翌日、浅見北斗のTwitterには、大森靖子、そしてBiSHのマネージャーである渡辺淳之介との写真が「うひひひ。2016年の東京だ!!」という言葉とともに投稿されていました。それを見た私は、「浅見さん、さわちゃんが抜けて悲しくてしょうがないのだろうな」と勝手に想像していました。

それが正しいのかどうかは、浅見北斗以外の誰にもわかりません。あるいは浅見北斗自身にもわからないのかもしれません。彼が「東京アンダーグラウンド」と呼ぶシーンが、実のところ本当に存在するものなのかどうか、よくわからないように。

フェイクとリアルが交錯し、人と人とがぶつかり合う。Have a Nice Day!を取り巻く異常な熱気は、そんなところから発生しています。さわの脱退はHave a Nice Day!にとって大きな試練ですが、彼らのフロアの熱気は、まだしばらく冷める気配がないのです。

◆文/宗像明将

1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」「Yahoo!ニュース個人」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流 れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイド ルに関しての原稿執筆も多い。

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