「ベッドから『よいしょ』って起きられなくなった」仕事でうつを患った経験を聞いた

Dさん(30代・女性)は、都内の某金融機関で働いている。仕事の忙しさからうつを患い、1年間の休職を経験した。現在は復職しているが、「いまだに、立った状態では電車に乗られないですね」と話す。うつは、誰にでも起こり得る疾患である。しかし一方で、職場での偏見や風当たりも強い。Dさんの場合はどうだったのか、話を聞いた。

――当時の様子を教えてください。

「徐々に、会社に行けなくなったんですよ。それまでは、夜中の3時ぐらいに家に帰っても、上司の相手で飲みに行っても、ちゃんと朝起きて、会社に行けてた。それが、目は覚めるんだけどエンジンかからない。電車に乗る段階で動けなくなる人とか、色々なパターンがあるらしいんですけど、わたしの場合は、ベッドから『よいしょ』って起きるところが駄目だった。家から出なきゃいけない時間なのに、何もしてない……。
ある日、会社に連絡することもできなくなった。始業時間を過ぎて、職場から電話がかかってくるんだけど、欠勤の連絡が出来ない申し訳なさで、出られないんです。結局、上司から『君と連絡取れなくて、行方不明だって騒ぎになってる。連絡しなさい』ってメールがきて、その段階で、お休みを取ることになった。結局実家に帰って、3ヶ月ぐらいは寝たきりでしたね。うつって、本当に寝たきりになるんですよ」

――どのような治療を受けたんでしょうか?

「基本的には投薬と、休養です。寝たきりを脱出して、しばらくしてだいぶ動けるようになった。気力が戻ってきて、会社に戻りたくなったけど、それだけだと『復職していいよ』とはならないんですよ。医師と会社のすすめもあって、復職のためのトレーニング(著者注:いわゆるリワークと呼ばれる)を、専門の施設で受けました。半年ぐらいやりましたね。
トレーニングは、まず服を着るところから。Tシャツとかじゃなく、仕事で着るような服ですね。平日の朝9時半ぐらいに、病院の施設に行って、同じような境遇の、スーツを着た人たちとラジオ体操をして、作業をはじめます。作業っていうのは、グループワーク。あんまり負担が大きいことをやってくと、脱落する人が出るので、籠を編んだりとか、ドリルやったりとか、ペーパークラフトをやったりとかですね。夕方の、3時半には終わります。こんな風に、最初は週3日から初めて、最終的には週5日ぐらい行ってました。結局、振り返ったら休職期間の大半を復職のトレーニングに費やしてましたね。
ちなみに、治療費を自分で払うと、3割負担で1日2千5百円ぐらいかかっちゃう。だから病院のすすめで、手帳を取るんですよ(著者注:自立支援医療の受給資格。詳しくは厚生労働省等のHPをご確認ください)。手帳を取ると、行政が一部負担してくれるから、1割負担でだいたい800円ぐらい。(著者→でも、1ヶ月20日行くとすると、1万16000円ぐらいになりますよね?)そう、それにプラスして、交通費がかかる。結構、キツかったです」

――『ツレがうつになりまして。』(細川貂々・幻冬舎)が話題になっていますよね。

「あの人の漫画は、まさに読んでました。病院とかに置いてあるので。うつの患者にとって、病状を客観的に見たものとしては、リアルだと思います。
例えば……うつになった旦那さんが、症状がすごく深刻になる前に、お気に入りの歌手のコンサートに何回も何回も行くシーンがあるんですけど(著者注:『イグアナの嫁』細川貂々・幻冬舎)、病状が進行してくると、自分が前に進めないってことが、なんとなく分かってくるんですよ。それを何とかしようって、あがくために、何かの力を借りようとする時期がある。それが彼の場合は、コンサートだったんだと思う。わたしは色んな趣味とかにハマったり、いっぱい友達に会いに行ったりとか。プライベートを無理やり充実させて、ストレスを発散出来ればうまく行くのかと思うんですが、その状態が立ち行かなくなると、倒れちゃう……。他にもうつの治っていく過程なんかはリアルで、私はすごい共感しました」

その後、Dさんは無事職場に復職した。しかし…

「体調が戻らなくて、たびたび休まざるを得なかったりということが続いてました。どんな仕事でもいいから、何か仕事を振って欲しいんだけど、復職して初めて分かったけど、病後で注意力などが凄く落ちていて、ちゃんと教えてもらわないとできない。何が駄目なのか分からないまま、『もう、やらなくていいよ』って言われて、仕事が回ってこなくなる。自分では、言われてる通り、やってるつもりなんですけどね……。
『病気なのに引きとってもらってる』って負い目もあって、なかなか意見も言えないから、結果的に仕事が雑用ばっかりになっちゃったんですよ。その雑用もコンスタントにあるわけじゃないし、結局、すごく暇だった。上司も忙しいから放ったらかしですしね。それがずっと続いて、将来どうなっちゃうんだろうって不安もあった」

そんな中、Dさんはリストラという形で、関連会社に異動させられてしまう。現在はその研修施設でOJTを受ける日々だそうだ。

「ある日上司に呼び出されて、『他所にいったほうが、君のためになるんだよ』って言われました。いわゆる、リストラですよね。
今は本社を離れて、研修施設のある支社で、OJTを受けてます。周りの人たちは『可哀想に、左遷されちゃったな』って見てるかもしれないけど、実際に配属されてみると、全然そんなことなかった。むしろ今は、することあるから嬉しいんです。それに、前の職場だと、同僚に挨拶さえできなかった。自分がつまはじきものみたいになって、誰も話しかけてくれなくなって、一人ぼっちだった。今は、同じようにOJTを受けてる人たちと和気あいあいとしてるので、精神的に楽なんです」

結果的に、リストラ候補になったことが、精神的に良い方に働いたのだ。Dさんは、今は前向きに会社に行けており、出社できない日も減ったという。「この先、もうちょっとストレスが大きい仕事になると、わからないかな、と思いますけどね」と言う彼女。人にとって、働くって何だろう。皆さんはどうですか?

※この記事はガジェ通ウェブライターの「増田不三雄」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
サラリーマンとして働きながら、職場のトレンドや問題を追いかけています。

  1. HOME
  2. 政治・経済・社会
  3. 「ベッドから『よいしょ』って起きられなくなった」仕事でうつを患った経験を聞いた
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。