北アフリカ・中東の「民主化運動」、日本はどう受け止めるべきか

田中龍作氏

 昨年末の「(チュニジア)ジャスミン革命」を発端に、北アフリカ・中東地域の独裁政権崩壊が次々と続く中、実際にエジプト、リビアなどを訪れ、取材を行ったジャーナリストの田中龍作氏が、2011年9月15日のニコニコ生放送「取材報告 『これが独裁政権崩壊後のエジプトとリビアの今だ』」に出演した。田中氏は一連の民主化運動の広がりについて、取材当時に撮影した写真を交えながら、今もなお流動的である中東諸国の情勢について報告。大野元裕氏(参議院議員・元中東調査会上席研究員)とともに、日本に与える影響や、その受け止め方についても言及した。

■ネットメディアの好循環が10万人超の人間を集めた

 田中氏の取材写真は、いずれも戦闘・危険地域で撮影されているものだが、銃や刀を持つ人と同様に、携帯電話やパソコンなどインターネットを利用できる機器を持つ人、あるいは「Facebook」を称えるプラカードを持つ人などが見受けられた。その解説として田中氏は、

「(デモに)人が集まる様子を携帯の動画で(Facebookなどに)送信する。これでまた、(デモに参加する)人が集まる。そうなると革命側にとっては好循環が起き、最終的に街が10万人超の人で埋め尽くされた」

と述べ、エジプトでの大規模デモの際には、こうしたソーシャルメディアやインターネット・デバイスの巧みな利用によって、デモ参加者が爆発的に増えていった経緯を、あらためて説明した。

■産油国でありながら、民衆にガソリンが行き渡らないリビア

 一方、エジプトと同様、激しい民主化運動の末に革命を果たした隣国のリビアでは、反政府運動によって独裁政権こそ倒れたものの、国民はいまだその成果を享受できていない。世界有数の産油国でありながら、深刻なガソリン不足のために、民衆がスタンドへ長蛇の列を成していた様子に田中氏は、

「結局、支配者が変わっても、富を持っている者がカダフィ(独裁者)から欧米になっただけ。国民が豊かにならなければ、本当の民主化は訪れない」

と、厳しく指摘。また同席した大野氏も、

「石油を握った瞬間に、それ以外に儲かるものがないから、ほかの人たちとの差が圧倒的になる。軍事力、政治力すべてを兼ね備えることになる。そこをいかにコントロールするシステムを作った上で、政権を作れるかがとても大事」

と産油国における政治体制の特徴を挙げながら、リビアは今後行われる選挙までに、石油に拠る独裁政権を生まないような憲法やシステムを作れるかが、真の民主化への「試金石となる」と述べた。

■「日本のほうが民主化は進まない」

大野元裕氏

 今回の一連の北アフリカ・中東の民主化運動が、日本に与える影響は決して小さくない。親米政権が倒れることによって、中東へのアメリカの影響力が弱まり、同時に、アメリカと同調する日本との関係も天秤にかけられることになる。大野氏によれば、従来の「日本対中東諸国」という枠組みから、「日本対それぞれの中東国家」というスタンスに変更せざるを得なくなり、個別の国家と新たな関係を模索する時代に変わりつつあるという。

 今回の取材を通して田中氏は、「日本のほうが民主化は進まない」と感じたという。

「『自分たちの政府は自分たちで作る』ということ、政治的な態度を学んだ。日本人は、政治に対する当事者意識や前向きな姿勢を、向こう(エジプトやリビア)から教育してもらうべき」

と話し、日本人の政治への関心、関与がとても低いことを指摘した。また大野氏は、

「(中東で)革命がありました、ではなく、これからどうするかということを、日本との関係も含めて考えなければならない。不幸にして震災と原発の問題があるが、日本は変われる時期に来ている。(中東革命を)変わるきっかけにしなければならない」

と述べ、今回の北アフリカ・中東における民主化運動から派生する流れを、日本も当事者として共有すべきとの見解を示した。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]田中氏の取材報告から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv63624955?po=news&ref=news#04:43

(内田智隆)

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