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少子化の原因が分かったので対策書く/書籍『失敗すれば即終了』の補足(デマこい!)

高学歴化が進んだにもかかわらず、だ。

つまり、以前なら中学校卒業レベルの所得階層の仕事を、現在では高校卒業レベルの人々がやるようになった。以前なら高卒レベルだった所得階層の仕事を、現在では大卒の人々がやるようになった。だからこそ、高学歴化にもかかわらず、賃金格差はさほど広がらなかったのだ。

技術革新は、低スキルの仕事を機械に置き換えて、より高いスキルが必要な新たな仕事を生み出す。昭和の「お茶くみ」の仕事を、現在は自動販売機がやるようになった。昭和には数人がかりで作っていた営業資料を、現在ではパワーポイントがあれば1人で作れるようになった*10。技術革新はお茶くみと資料作成の仕事を奪う代わりに、自動販売機を管理する仕事や、MOS試験の監督官という仕事を生み出した。

*10:「もしもインターネットがなかったら・・・」 『Yahoo! BB』
http://bbpromo.yahoo.co.jp/special/showa/

つまり、技術革新の進む社会で、子供が親と同じ所得階層に属するためには、親よりも高度な教育を受ける必要がある。
これが技術と教育の競争だ。
現在では技術と教育の競争により、子供1人が必要とする教育コストは跳ね上がっている。これが曲線Iの下向きシフトを引き起こし、少子化解消の足かせになっているのだろう。このことからも、教育や子供の医療の無償化は少子化対策として有効だと思われる。

現代の少子化については「第2の人口転換論」という仮説がある。ライフスタイルが変化し、女性の権利が拡大した結果、女性はより強く男性を選り好みするようになった。その結果、結婚が難しくなり、少子化が進んだというのだ。

一見すると説得力を感じる説明だが、ちょっと待って欲しい。

ヒトという動物の身体的特徴を見ると、わずかだがハーレムを作る動物の特徴を備えている。他の霊長類に比べれば微々たるもので、ヒトは基本的には一夫一妻制の動物だ。が、それでも「ゆるやかなハーレム制の性質」を持つことは事実だ。(※詳しくは拙著に書いた)この性質があるということは、有史以前から一部のオスが複数のメスと繁殖していたことを意味している。女性が男性を選り好みするようになったのは、別に現代になって始まったことではない。ヒトの繁殖行動には20万年を超える歴史がある。ここ数百年で生まれた「人権意識」が出生率低下の根本的な要因だとは信じがたい。

そもそも、ライフスタイルの変化が少子化をもたらしたという言説は、何かを説明しているようで何も説明していない。循環論法になっているからだ。「少子化の原因はライフスタイルの変化だ。現実にライフスタイルが変化したことが証拠だ」と言うのは、「人がいるのは神が作りたもうたからだ。人の存在が神の奇跡の証拠だ」と言うのと大差ない。「花が咲いたのは妖精のおかげ」と言うことはできる。しかし、花が咲いているからといって、妖精の力を証明することにはならない。
「ライフスタイル」の部分を、他の言葉に置き換えても同じだ。「価値観」「倫理観」「恋愛観」「結婚観」「生き方の多様化」等々。これらの言葉で少子化の原因を説明しようとすると、大抵の場合、循環論法に陥ってしまう。これらの言葉はブードゥー教のおまじないと大差ない。

「第2の人口転換論」は、北ヨーロッパの国々では有力な仮説とされてきたらしい。スウェーデン、デンマーク、ドイツ、オランダ、ベルギー等だ。一方、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア等のアングロサクソン系の国々では、あまりポピュラーな説ではないという。

オックスフォード大学教授のデヴィッド・コールマンは、この学説が当てはまるのは一部の西欧諸国だけで、南欧・東欧諸国、さらに日本を含む東アジア、インドを中心とする南アジア、アラブ諸国を含む西アジアと北アフリカ、さらにサハラ以南のアフリカには適用しにくいと指摘している。ほとんど地球全体で、第2の人口転換論は当てはまらないようだ。

加えて、ロバート・D・レザフォードらの日本に対する研究、ロナルド・R・リンドファスらのアメリカに対する研究によれば、価値観の変化というものは出生率低下のような人口動態の現実的変化が生じた後に起きるのであって、その逆ではないという(河野稠果(2007) p132、p136-138)。「第2の人口転換論」を信じたいのであれば、北欧諸国等の限られた国のデータではなく、複数の国のデータを見るべきだ。日本の少子化について論じるのなら、少なくとも日本のデータに基づいて仮説を検証すべきだろう。
「価値観」などという抽象的で数値化不可能なもので現実の現象を解明しようとするのは、科学というよりも信仰に近い。

まとめ

少子化の原因は、死亡率の低下だ。他にも様々なものが少子化の犯人として名指しされている。女性の社会進出・高学歴化、価値観の変化、家族計画・教育の普及、そして経済的豊かさの向上──。詳しくは拙著『失敗すれば即終了』で述べたが、これらの容疑者は実際のデータには一致しない。いわば濡れ衣を着せられている。

死亡率の低下が少子化をもたらすという事実は、にわかには信じがたい。なぜなら、生物は一般的にたくさんの子供を残そうとするものだという、私たちの直観に反するからだ。加えて、「子供の死亡率を下げるのは無条件に良いことだ」という倫理観が、ますます判断を鈍らせる。死亡率の低下が少子化の原因だという考え方に納得できない人も多いだろう。

しかし、科学は倫理的ではないし、民主的でもない(マイケル・モーズリー、ジョン・リンチ『科学は歴史をどう変えてきたか』p15)。現実のデータと一致するなら、どんなに信じがたい理論だろうと正しいと見なされる。それが科学だ。地動説や進化論は、当初、人倫にもとる神への冒涜だった。大陸移動説はバカげた妄想だと笑われて、誰も信じなかった。しかし、現在ではそれらの理論が正しいと見なされている。現実と一致するからだ。

少子化のメカニズムは、この記事の冒頭の図1枚に要約できる。
「ヒトには子供に投資したがる習性がある」と仮定し、子供の死亡するリスクと、子供1人あたりの投資最大化との均衡によって「持つべき子供の数」が決まるとすれば、死亡率低下が少子化をもたらすという事実を上手く説明できる。また、日本において貧しい人は結婚せず子供も作らないが、富裕層だからといって子供の数を増やすわけでもないという事実にも一致する。

今回調査したアジア15カ国のうち、およそ半数が「日本型」だった。すなわち、まず乳児死亡率が低下し、それが合計特殊出生率の下落を招き、最後に爆発的な経済成長を遂げた国だ。もちろん、調査範囲が狭いことは認めるし、結論の出し方が強引であることも認める。充分な追試が必要だろう。

ところで、賃金の高さが産業革命をもたらしたという考え方がある。18世紀の欧米は、世界でも飛び抜けて賃金の高い地域だった。たとえば当時のロンドンとボンベイを想像してみるといい。欧米の資本家や経営者は、労働を節約するために資本(※紡績機等の機械設備)の使用を増やした。とくにイギリスは労働が割高で、資本が割安だったため、機械の導入によって利益を出しやすかった。だからこそ産業革命はイギリスから始まったというのだ(ロバート・C・アレン『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』p44)。

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