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少子化の原因が分かったので対策書く/書籍『失敗すれば即終了』の補足(デマこい!)

「中国型」は、経済発展と乳児死亡率の双方に先立って合計特殊出生率の低下が始まった国だ。中国は1979年から「一人っ子政策」を導入したが、合計特殊出生率はその10年前から急落していた。また、フィリピンは1970年代初頭~80年代初頭にかけて、乳児死亡率は下がらないのに合計特殊出生率だけが低下する時期があった。これはフェルディナンド・マルコスの独裁政権が戒厳令を敷いていた期間と一致する。

最後に、どちらかのグラフがランダムな動きを見せた国が2つある。それが「その他」のカンボジアとモンゴルだ。カンボジアは60年代にクメール・ルージュによる強烈な虐殺が行われたことで知られている。その余波が現れたのかもしれない。

とはいえ、「日本型」に分類されているインドネシアでは1965年に「9月30日事件」が起きたし、ベトナムは今でも共産党の独裁政権じゃないか、という話も出てくる。政治・社会情勢が合計特殊出生率に与える影響については深く立ち入らず、示唆するにとどめよう。日本の「丙午(ひのえうま)」を見れば分かるとおり、文化風習や突発的な事件が合計特殊出生率に大きな影響を与える場合もある。グラフのランダムな動きは、そういう事件によって引き起こされるようだ。

話を戻そう。
今回調査した15ヵ国のうち、およそ半分が「日本型」だった。合計特殊出生率の低下は、経済成長よりも先に、そして乳児死亡率の低下よりも後に始まった。順番を整理すれば、まず子供の死亡率が下がり、それを追うように合計特殊出生率が低下し、最後に経済発展が起きたことになる。「経済的豊かさが少子化をもたらす」という仮説を否定し、「乳児死亡率の低下が少子化をもたらす」という仮説を支持する結果だ。

なお、俗説通りに「経済発展の後に少子化が起きる」という動きを見せたのは「パキスタン型」の3ヵ国のみだ。この3ヵ国においても、所得増加が少子化を引き起こしたのか、それとも、所得増加によって子供の死亡率が下がったから少子化が起きたのかを区別できなかった。

極めつけに、「少子化に対する経済成長の影響が明らかな国」は1つも無かった。1人あたりGDPのグラフはモデル(A)-1、(A)-2のどちらか、そして乳児死亡率のグラフはモデル(β)、(γ)のどちらかになるという組み合わせの国だ。

この結果から、「経済的な豊かさが少子化をもたらす」という俗説はきわめて疑わしいと言える。経済学者ゲーリー・ベッカーらがこの俗説に似た主張をしているが(グレゴリー・クラーク(2009)下巻p155)、今回調査したアジア諸国の状況を鑑みると、彼らの主張は根拠薄弱である。

死亡率の低下が少子化をもたらすという調査結果は、カレン・O・メーソンやジョン・クリーランドらによって報告されていた[(河野稠果(2007) p119)。今回私が調べたデータは、これを裏付けるものだった。

どうやら少子化は死亡率、とくに子供の死亡率の低下によって引き起こされるようだ、驚くべきことに。

ヒトの繁殖パターン、そして少子化のメカニズム

なぜ驚くべきかと言えば、生物の基本的な習性に反しているように思えるからだ。

じつは、死亡率低下が避妊や中絶の普及とともに出生率低下を引き起こすことは「人口転換」としてよく知られている。出生率低下によって「人口ボーナス」が生じ、経済成長の原動力となることは常識だ。しかし、「常識だから」で終わらせるのは思考停止にすぎない。「なぜ死亡率の低下が出生率の引き下げるのか?」という疑問に答えなければ、少子化の原因を解明したことにはならない。

生物は、基本的にたくさんの子孫を残そうとする。うまく子孫を残せた者だけが絶滅を逃れられる。死亡率がどうなろうと、たくさんの子供を産めばよさそうなものだ。にもかかわらずヒトは、死亡率が低い環境では子供を少なく産もうとするらしい。なぜだろう?

一見すると、子供の死亡率低下が少子化をもたらすという現象は、生物の習性に反したものに思える。しかし、ヒトの繁殖パターンを考えれば、疑問は氷解する。

少子化の原因が分かったので対策書く/書籍『失敗すれば即終了』の補足(デマこい!)

生存曲線とは、ある生物の個体数が時間変化にともなってどう変化するかを表したものだ。誕生直後(※グラフの左端)では100%の個体が生き残っている。一方、寿命の時点(※グラフの右端)では、生存個体はゼロになる。

Ⅰ型の生存曲線は大型哺乳類に見られるもので、生まれた直後から親の庇護を受けるため、多くの個体が大人になれる。そして寿命が近づくと老衰によって死亡率が高くなり、個体数が急減する。

Ⅱ型の生存曲線は小鳥などに見られるもので、生涯を通じて死亡率があまり変わらない。親も子も、捕食等で命を落とす可能性はほぼ同じだ。たとえばツバメのヒナは、わずか20日ほどで巣立ちを迎える。彼らは年に1~2回の繁殖を行うという。子育て期間を短くして、そのぶん繁殖回数を増やす戦略だ。

Ⅲ型の生存曲線はカエルや魚に見られるもので、生まれた直後がもっとも死亡率が高い動物だ。親はたくさんの卵を産むが、そのうち大人になれるのはごく一部だけだ。Ⅲ型の生存曲線を持つ動物は、卵は産みっぱなしで、子育てをしない場合が多い。

Ⅰ型の生存曲線を持つ動物は、子育てに多大なリソースを投資する。哺乳類の場合、妊娠期間中は新たな繁殖ができず、胎児のぶんまで栄養を摂取しなければならない。赤ん坊を身ごもるだけで、時間や栄養といったリソースを投資しているのだ。ゾウは典型的なⅠ型の生存曲線を持つ動物で、妊娠期間は22か月、子供の成熟には十年以上かかるという。

そしてヒトも、Ⅰ型の生存曲線を持つ動物だ。ヒトは誰かに教わらなければ、毒草と食草の区別ができない。狩りの方法も分からない。飲み水の確保さえおぼつかない。ヒトは誰かから教育的投資を受けなければ生存できない。

裏を返せば、ヒトの大人には「子供に投資したがる」という習性があると考えられる。実子はもちろんのこと、血縁者の子供や、場合によっては他人の子供にいたるまで、ヒトの大人たちは子供にカネと時間をかけようとする。拙著『失敗すれば即終了』ではかなりの字数を割いて、この習性の実例を並べた。

自分の子供でなくても、お菓子を買い与え、おもちゃを与え、読み聞かせを行い、ときには遊園地や動物園に連れていく。子供に投資したがるのはヒトの習性だ。遺伝的にプログラムされているからこそ、私たちは子供を「可愛らしい」と感じる。(※とはいえ、そのプログラムがいつでも実行されるわけではないので話がややこしくなるのだが……それはまた別のお話)

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