藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#24 整体

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顔写真を撮ってもらう時、ある頃からもう少し右を向くようにとカメラマンから指示されることが常になった。自分では正面をちゃんと向いているつもりなのに、どうやらそうではないらしい。

自分が撮影者となって被写体と向き合う時には、人の身体というのは多少の差はあれど、歪んでいるのが当たり前だと実感する。心臓が左にあることからしても、左右非対称な身体が歪んでいるのは当然で、歪んでいないことを正常とするのは、そもそも幻想だ。

では、人はどうしてさらに歪んでいくのだろうという問いが自然に出てくる。小さな歪みで収まっていれば良いのだが、現実はそうでもない。しゃんとした姿勢の老人も中にはいるが、老いると人は歪むのが当たり前のように思われているし、実際そういう人が多い。筋力が衰えれば、様々な保持力が失われるのだから、仕方がないとしても、しゃんとした老人と腰の曲がった老人との差は、その人生においてどこに違いがあったのだろう。

老いの歪みについては一旦置いておくとして、若い人でさえ歪んでいる人が多くなって見えるのは、気のせいだろうか。後ろから見ると老人と同じような姿勢で歩いている人を街でよく目にする。東京の大きな交差点で、様々な世代の人が、それぞれに歪んだ姿勢で歩いている姿を一目する時などは、世界が変わるというのは、全ての人の姿勢を整えることなのではないだろうか、と思いついたりする。

多くの人々が、しゃんとした姿勢で歩き、座り、生活できたら、ちょっと大げさな話になるが、良い波動が波及して世界がもっと平和になるような気がする。

とはいえ、私には歪みそのものが決して悪いことばかりだとは思えない。何にしても必要から生まれると思うからだ。

いうまでもなく、人はそれぞれに異なる環境、食事、教育、で育ち、それらが何かしらの原因の一つとなって、それぞれの歪みをもたらしている。

心地よさを追求するという生命の原則を考えれば、局面的には歪んだ方が生きやすいから、歪んでいるのだとも言える。現状で最もバランスの取れた楽な状態を、歪むことで、ひとまず作っているのだ。

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この身体の拒みを専門的に扱うというのが、整体の一般的なイメージだと思う。骨をカックンと押したりしてくれるカイロプラクティックのようなものとして認知されていると思うのだが、実際このような一般的な整体を受診してみると、背骨や腰の歪みを、ぐいぐいっと直してくれる。受診前後で自分の身体を鏡に映して比べてみれば、生まれ変わったように、その差が一目瞭然で、人間の身体の奥深さに驚くばかりだ。だが、常に整体院に通わないといつの間にか元に戻ってしまうのが、身体というものだ。生き癖が、身体の歪みとして現われているのだから、そもそもその癖を直さないことには。

そういう骨カックンなものとは別に野口整体というのがあって、ざっくり言うと、気を通し整えることで、身体のバランスを良くしていくというものだ。今回はこのカックンではない整体について語ろうと思うので、以後整体と記すものは、この野口整体の側のことだとする。

創始者は、明治44年生まれの野口晴哉さん。17歳(!)で設立した「自然健康保持会」を経て、45歳で整体協会を設立した療術界での巨人として知られる方。

その教えを簡単にいえば、前記の通り、気を通すことで正しい身体バランスを整えていくということなのだが、その実際方法として、気を通す「愉気」、無意識に身体がバランスをとろうとして勝手に動いてしまう「活元運動」、身体の個人差を野口整体的な視点から分類した「体癖」が基本となっている。紙幅上、それぞれについて詳しくは専門書などを見ていただきたい。(「整体入門」野口晴哉著・ちくま文庫、など)

野口整体の病気に対しての基本的な考え方は、いわゆる代替療法全般の存在意味そのままでもあり、自分もベースで影響を受けたのだが、それは、「病気は治すものではなく、治るもの、経過するもの」という考え方だ。

前記の「愉気」「活元運動」「体癖」は、自分の身体が本来持っている治る力を、主に気を使って高めていくための方法であり、日常的に実践することで、心身ともにバランスがとれた朗らかな日々を送れるとされる。

また整体師片山洋次郎さんによれば、著書「整体から見る気と身体」の中で、整体とは「人間が成長して老化して死ぬプロセスで、本来はスムーズにいくのを邪魔している何かを取り除く技術」としている。気の良く流れている状態が、よく生きている状態だと、片山さんは語り、気とは、生を一番元で駆動しているエネルギーだと説明している。

気そのものを語るには、紙幅が足りないので、まずはとても大切な目に見えないエネルギーだと認識してもらえればいいと思う。

ちょっとここでまとめると、整体というのは、カイロプラクティックな面だけでなく、気という存在を中心に考え、気が多く流れる健康な心身へと整えることを目指している、ということになる。また、そのためには野口整体では、愉気、体癖、活現運動などを取り入れたりしている。他の整体でも独自に様々な方法があるが、いずれも身体が自ずから良くなろうとする目覚めを促すことを目的としている。
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ここまで見てくると、整体というのも、この連載で扱ってきた多くのヒーリングと全く方向が共通していて、つまりは入り口のバリエーションの一つとして捉えても差し支えないと思う。

整体では、身体の歪みという目に見える症例をきっかけとして、目に見えない心身にも向き合うのだが、その気の用い方などは、レイキや氣功などとも通じるし、とても興味深い。どの入り口を選んでも、自分と向き合うプロセスの中で、重要なポイントは驚くほど重なっているというのは、逆にいえば、どれを選んでも、それを正しく学んで実践していけば、同じ効果が得られるのだろうと予測がつく。

一方で、これは整体の概念から捉えると、とても分かりやすいという箇所もあり、そのうちの一つを紹介したい。

これはセルフヒーリングでの意識の用い方の良例なので、ぜひその差を実感してもらいたい。これは前述の片山洋次郎さんの著作「整体から見る気と身体」に記載されているものだ。

その紹介の前に、前口上的に、ひとつ説明しておくと、気が良く流れる状態というのは、自分自身という内側から自分をとりまく世界である外側へと意識を向けている時だとされていて、逆に外側から内側への意識だと、気がうまく流れない。これは主観・直感と客観と置き換えられる。

子供に良い気が流れているのは、彼らは常に主観的に世界捉えていて、つまり内側から外側への意識だけで生きているからだ。子供の書く絵はそれを如実に示している。内から外へとは、自分の好きなように描き、存在することだ。

それに対し、大人になると客観することが多くなる。なぜなら大勢の中での自分の位置付けが社会によって求められるからで、大きな外側の世界の中で、自分の存在のバランスを取ろうする。だが、外から内を見ていてばかりでは、気の流れが悪くなってしまい、病気の一因になる。なので、内側から外側を見るという子供のような意識の流れを作ることが、気の流れを良くするために必要なのだ。それを知った上で、セルフヒーリングを行うと良い結果が得られる。
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例をあげると、お腹が不調で手をそっと部位に当てるとする。この時、外側である手ばかりを意識すると、うまく気が入っていかないことが多い。この時の意識は外から内へである。一方、お腹の側に立って、添えられた手を身体の奥から外へと意識の流れを逆にして見るようにすると、お腹がぽかぽかと温かくなり、気が良く流れるようになる。意識を手にではなく、腹に置く。この違いは歴然で、セルフヒーリングの時には、必ず内から外への子供の意識で行うといい。

これは、人は自ら治ろうとする整体の視点だからこそ気付けた例だと思う。外から治療を受けるという視点とは逆に、内側から自ら治ろうとする回路を開くのだ。

人の体はより快適に過ごそうとする回路があり、それはあくびや伸びや寝返りなどのように自動的に行われている。またそれが必要ならば、歪みとなって現れることもある。悪い姿勢になることによって、全体としてより悪くなることを回避している場合もある。病気においても、胃潰瘍になることで胃がんを回避していることもあるので、病気すら整体的視点では、経過するものとして行き止まりではないとしている。人はなるべくして病気を選ぶこともあるのだ。

日常において大切なのは、気がより多く流れる状態にしてあげること。それによって健康のために必要なことが自発的に心身に起こってくれる。気が多く流れるようにするには、整体的な立場による運動や歪みの除き方の方法が整えられている。これらはきっと続ければ良いに違いないが、いくら健康にいいことでも続けるのは難しい。せめて小さな毒出しやストレスリリース法の一つ二つを思い出した時にできるようにしておきたい。

また、歪みや病気、アレルギーなどの症状は、人間の病というよりも、その時代特有の社会の仕組みなどが人間の健康に映された姿でもあるので、社会そのものを変えるのは難しいが、それとどうストレスなく付き合うかということを意識しておくのも、病気を回避することに繋がるだろう。

まずは、内側から外側への子供の意識を時々持つこと。好きなように世界を見ること。外側の世界とバランスをとることばかりでなく、内側の自分と折り合うこと。それこそが整体なのだと思う。
(つづく)
※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#25」は2016年1月10日(日)アップ予定。

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