CIAは世界で最も映画化されたモチーフ? スパイ研究家が観る『コードネームU.N.C.L.E』
全世界で大ヒットを記録したあの『シャーロック・ホームズ』シリーズのガイ・リッチー監督が生み出した新たなバディムービー『コードネーム U.N.C.L.E.』。1960年代の超人気TVシリーズ「0011ナポレオン・ソロ」を、新たな視点で描くスパイ・サスペンス・エンターテイメントが現在大ヒット上映中です。
本作は、東西冷戦の真っただ中、CIAとKGBの敏腕エージェントの二人が国境も政治的背景をも超えて手を組み、世界を巻き込む一大テロ事件を阻止する壮大なストーリー。CIAとKGB、アメリカとロシア……。そう、本来であれば決して交わらない2人が一緒に戦うという、奇想天外さも魅力的な本作(しかも2人共超絶イケメン!)。こんな事ってあり得るの? スパイってそもそもどうやってなるの? など、素朴な疑問の数々を著書『CIA 失敗の研究』などで知られる、スパイ研究家の落合浩太郎先生(東京工科大学教養学環准教授)にお話を伺いました。
―2015年はスパイ映画の当たり年、という事もあってたくさんのスパイ作品が公開されました。その中でも本作は、ポップさとクールさが共存していて、シリアスなシーンもあり、他の映画と少し毛色が違いますよね。
落合:ガイ・リッチーらしいスピーディで無駄の無い爽快感のある映画だなと思いましたね。音楽がとても良い。すぐにサントラを買いました。後は、バランスがちょうど良いなと。最近の映画の中で傑作と言われている『シリアナ』や『ゼロ・ダーク・サーティ』は非常に難しくて分かりづらい内容でしたし、『007』までいくとあまりリアリティが無い。でも、この作品はわかりやすく、しっかりエンターテイメントなのに、シリアスな部分もあり、リアルなスパイの世界が描かれている。2時間全く飽きなかったです。
―CIAを研究されている先生から観ても、スパイ描写も陳腐では無いというのは嬉しいですね。CIAとKGBがタッグを組むというのは実際にはあり得ないですよね……?
落合:2つが手を組むという事はまず無いでしょうね(笑)。ただ、お互いに打ち合ったり、殺し合うという事はしなかったそうです。カーチェイスはあったと思いますが。カーチェイスについては、CIAもKGBも実際にハードに訓練をするそうです。
―本作は、CIAとKGBが敵になったり味方になったり……、という所が面白い一方、イギリスの諜報員も関わって来るところも見所ですね。
落合:「実はイギリスが一番おりこうさんでした」という描写についても、ガイ・リッチーがイギリス人だからという事もあるでしょうけど、あながち映画の中だけの話、とも言えないんですよ。スパイの規模で言うと一番大きいのが中国とロシアですが、規模の割に優秀な人材が多いと言われているのが、イスラエルとイギリスです。なので、複雑な状況の中、後ろで手をひいていたのがイギリス、という話は十分あり得ると思います。
―なるほど。CIAとKGB、それぞれの特徴とはどういう所ですか?
落合:KGBはプロフェッショナリズムでしょうね。イリヤのあの感じは、まさにKGBという感じで。目が笑っていない……、ほら、プーチンもそうですよね。
10年くらい前でしたかね、アメリカの女性が愛国心に燃えてCIAに入ったのだけど、実際に働いてみたら官僚的でガッカリした、という体験記が出回りましたね。「世間でCIAというとトム・クルーズの様な人が愛国の為に危険な任務を犯す、というイメージを持たれがちだが、実際はコーヒーブレイク中に給料の話をしている人しかいない」と言った告白がありました。それに比べると、KGBはもっとプロフェッショナルでしょう。でも一方で、ロシアという国は腐敗している側面もあるので、イリヤの父親が汚職で失脚したという設定はリアルですね(笑)。
アメリカはワシントンの桜の木のエピソードもそうですが、「正直であれ」というのが国全体の美徳なんです。なのでCIAでいくら活躍していてもどこか後ろめたい、“汚れ仕事”という意識がどうしてもあるでしょうね。一方で、イギリスは国家の為につく嘘は美徳という考えですから、エリートが集まりやすく、結果優秀な人材が多いのだと思います。
―お国柄がスパイ機関にも現れるというのは面白いですね。スパイ達が使うガジェットも日々進化を続けているのでしょうか?
落合:小さな小さな虫の様に見せかけて、盗聴器であると、そこまで技術は進んでいるみたいですね。2、3年前にイギリスのスパイが摘発された事件で、イギリスの大使館員に勤めていいたそのスパイは、石ころの中に小さい盗聴器を仕込み、それを公園に置き、そのスパイが休憩中に携帯をいじるところ情報を盗んだという話があります。
―道に転がっている石なんて気にも留めないですものね。先生は日本にもスパイ機関を作った方が良いと思いますか?
落合:思います。思うんですけど、官僚達の天下り先にならない様にしなくてはいけないなと思いますね。「内閣情報調査室」という所があり、そこが“日本のCIA”などと揶揄される事もありますが、一人も外国に出していないので、そういう風に表現する事も恥ずかしいほどですね。トップが警察で、ナンバー2が外務省、その下に経産省が一人に検察が一人に……といった感じでポストが既に決まっているんですね。でも、誰から見ても最初の目的を果たしていない。発売前の週刊誌のチェックであったり、後は身体検査……、今下着泥棒の過去があったという議員がいますが、ああいった事にならない様に事前に調査する。でもそれって、内閣情報調査室の仕事じゃないですよね? そうして結局政治に利用されているわけです。ですから、もし日本にスパイ機関を作るのなら、そういう事の無い様にしなくてはならないと思います。
―2015年は『ミッション:イン・ポッシブル』『キングスマン』『007』とスパイ映画が続けて公開となりましたが、人がスパイ物に惹き付けられる理由とはどんな事があると思いますか?
落合:2001年の同時多発テロからCIAというものに興味を持って研究をはじめたのですが、知れば知るほど人間的な部分が面白いなと感じますね。“スパイ”といったって、無機質で完璧なわけでは無い。出世したり嫉妬があったり、色恋沙汰があったり、すごく人間味があるんですよね。逆に一番人間臭い仕事かもしれません。
人間臭いからこそ、人が惹かれる要素がたくさんあるんでしょうね。CIAってスパイ組織に関わらず、世界で最も映画・ドラマ化されている組織だと言われているんです。アメリカの国防総省だったり、例えばAmazonの様な企業であってもあんなに映画にはならないですよね? CIAだけは毎年、映画やドラマが作られている。それだけ人々の妄想がかき立てられるのだと思います。
―確かに、『コードネームU.N.C.L.E』も非常に妄想がかきたてられる作品でした。それでいてエンタメとして面白い! 今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
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