映画『天空の蜂』堤幸彦監督インタビュー 「3.11以降の現状を見ると、きっと世の中に必要な作品」

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稀代のベストセラー作家・東野圭吾氏が1995年に発表した小説『天空の蜂』を、『20世紀少年』『SPEC』『トリック』シリーズなどを手掛けてきた日本有数のヒットメーカー堤幸彦監督が映画化。全長34メートルの超巨大ヘリコプターを乗っ取り原子力発電所の真上に静止させるという原発テロ事件と、その危機に立ち向かう人々の8時間の攻防を描いたサスペンス巨編が、本日9月12日(土)より全国ロードショーとなります。

ガジェット通信は堤幸彦監督にインタビューを実施し、本作にかける思い、映像化に至るまでの苦難など様々なお話を伺ってきました。

<ストーリー>
1995年8月8日。最新鋭の超巨大ヘリ「ビッグB」が、突然乗っ取られ、福井県にある原子力発電所「新陽」の上空に静止した。遠隔操縦によるハイジャックという驚愕の手口を使った犯人は「天空の蜂」と名乗り、“日本全土の原発破棄”を要求。従わなければ、大量の爆発物を載せたビッグBを原子炉に墜落させると宣言する。機内に取り残された子供の父親でありビッグBを開発したヘリ設計士・湯原(江口洋介)と、原発の設計士・三島(本木雅弘)は、上空の子供の救出とヘリ墜落の阻止をするべく奔走するが――

原作の力強さを映像で表現

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――「映像化は不可能」と言われ続けてきた『天空の蜂』ですが、まずは原作との出会いについて教えていただけますでしょうか。

堤監督:最初に読んだのは十数年前です。科学的に緻密に書かれた小説という印象で、理工系の方の想像力は凄いなと感心しました。

――ということは3.11以前に読まれていたんですね。今と印象の受け方も違ったのではないでしょうか。

堤監督:それでも決して想像の世界というわけではなかったんです。原作に登場する高速増殖炉“新陽”は、20年前に起こった実際のナトリウム漏えい事故を予見するような内容でした。映画化する際に改めて読み直して、1行1行の科学的な先見性に恐れおののきましたね。これを映像で表現するが自分でいいのかと(笑)。

――数々の大作を完成させてきた堤監督をも悩ませる原作だったんですね。

堤監督:でも3.11以降の現状を見ると、きっと世の中に必要な作品だと思ったんです。あとは、『20世紀少年』や『はやぶさ/HAYABUSA』など非常に難易度の高い作品で監督を経験して、スタッフが知恵を絞ればいろんな事が解決すると学んだのも大きかったですね。

――600ページを超える原作を2時間強の映像にするというのは相当な苦労ですよね。

堤監督:原作からどの要素を抽出するのかという判断は一番大変でした。それから、原作にはなかった新たな設定を盛り込むにあたって、流れを崩さないよう慎重に作りあげていかなければなりませんでした。とは言え、その点はプロデューサーと脚本家が非常に忠実に取り組んでくださったので、原作からのサンプリングという意味では上手くいっていると思います。

『天空の蜂』サブ4

――改変部分に関しては、特に父と子のドラマを強調していますよね。ビッグBに乗り込んでしまう子どもも、同僚の息子から主人公・湯原(江口洋介さん)の息子になっています。

堤監督:本作は原発の安全性の問題、テロの問題など、一生懸命に仕事をしてきたのに結果として悲劇を招いてしまった“企業人”としての男が持つ罪深さに焦点が当たります。でもそれだけにしたくなかったので、ウェットな人としての存在感が必要だと感じて、それを端的に物語るのは親子の話であり、夫婦の話だと思いました。3.11の話を付け足したのも、事件を経験した親子のつながりを描きたかったからです。自分も子どもを持つ親なので、手法としてズルいと感じることもありますけどね(笑)。

――そういうメッセージがある一方で、人間の善悪や原発の是非については観客に考えさせる余地がある作品となっていますよね。

堤監督:ひとつの立場から何かを主張するような作品ではないので、メインはスリリングなストーリーを持つある種の犯罪映画だと考えています。原発政策あるいは防衛政策の部分にスポットを当てすぎるのは主旨が違うので、東野先生が20年前にこの作品を書いた時の気持ちをベースにエンタメ要素を加えた感じです。とは言え、繊細なところにも触れているので、観た方がどう受け止めるかは自由だと思います。

徹底的に追及したリアリティ

ビッグB

――この作品の肝はやはりビッグBだと思いますが、とても迫力があって映像として非常に説得力がありました。

堤監督:ビッグBと同等の巨大ヘリがロシアにあると聞いて借りられないかなと思ったんですけど、いろんな議論を経てCGで制作することに決めました。カタチの決め方は重要でしたが、結論から言うと『サンダーバード』が大好きなので“サンダーバード2号”をモチーフにしています。だけど少年が見て恐怖を感じなければならないので、“丸みを帯びているけど何かコワい”というアンビバレントなバランスを意識しています。大きな飛行体が空に浮かんでいるというリアリティを表現するのが非常に難しくて、最後の最後まで作業をしていましたね。

『はやぶさ/HAYABUSA』は舞台が宇宙なので、言ってしまえばどんな学者さんでも宇宙空間にいる姿を実際に見たことはないんですよ(笑)。『20世紀少年』のロボットについても力学的には脚のカタチがありえないんですけど、空想科学なので原作を踏襲すれば問題ありませんでした。でもビッグBはリアリズムに裏打ちされていないとダメなんです。飛んでるだけならまだしも、空中でホバリングしているのを表現するのは大変でした。

――ビッグBに関してはCGでリアルを追及している一方で、江口さんがヘリコプターから身を乗り出すシーンを実写で撮影したのはなぜでしょうか。

堤監督:グリーンバックで風を当てても悪くはないんですけど、やっぱり本当に乗ってるのには敵わないですからね。江口さんが高いところは得意じゃないと何となく耳にしていたんですけど、それは知らないフリをして強引に。地上数百メートルでトム・クルーズばりに頑張ってもらいました(笑)。

――CGでも実写でも同じようにリアリティを追及した結果ということですね。人物に関しても、ある種の群像劇として多くのキャラクターが登場していますが、それぞれのバッググラウンドが理解できるようなリアリティを感じました。

堤監督:一人ひとりのキャラクター像を明確にするために、モデルになるような人を実際に取材して、例えば原発の作業員はどんな仕事をしていて、どんな暮らしぶりで、年収はどのくらいなのか、登場人物全員の詳細なプロフィールを作成しました。警察だけでも地元警察の所轄、愛知県警、福井県警、その中でまた階層が分かれて役割が異なります。ワンカットしか映っていない反原発デモ隊のリーダーにも、機動隊のリーダーにもそれぞれ(裏設定としての)事情があるんですよ。

――それぞれのバックストーリーを想像しながら鑑賞すると面白いかもしれませんね。ちなみに、東野圭吾さんの作品で他に映画化してみたい作品はありますか?

堤監督:最新作の『ラプラスの魔女』は面白かったです。自分の得意分野に近い部分があって、もしかしたら既に映画化は決まっているかもしれないけど、ぜひ映像でも観てみたい作品です。理系脳の方が考える人間の重厚な心理面、科学技術的に難しい要素がいっぱいあって本当に天才だと思いました。

――ぜひ堤監督に映画化を実現して欲しいです! 本日は、ありがとうございました!

映画『天空の蜂』予告篇(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=UQ7HXQTzbKs

映画『天空の蜂』公式サイト:
http://tenkunohachi.jp/

スタイリスト:関えみ子/衣裳提供:BEAMS
(C)2015「天空の蜂」製作委員会

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よしだたつき

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PR会社出身のゆとり第一世代。 目標は「象を一撃で倒す文章の書き方」を習得することです。

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