塩釜市議会「辞職勧告決議」を受けた議長が居座るのはなぜ?(地方議会ニュース解説)

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<地方議会のニュースを斬る>
「辞職勧告決議」を受けた議長が居座るのはなぜ?
地方議会ニュース解説委員 原 英史(株式会社政策工房代表取締役)

塩釜市議会で6月12日、佐藤英治議長に対する「辞職勧告決議案」を全会一致で可決した、とのニュースがありました(6月13日河北新報)。

理由は、「議会運営をスムーズに進めず、不信感を抱いている。これまで4度可決されたのに、発言に反省の色がない」(同議会議員)ということだそうです。
何といっても、議長を除く全員が一致して可決、しかも、これで5回目というのですから、議長としての信頼がよほど無いのでしょう。

ところが、こうした決議には法的拘束力がないため、これまで4回の決議を受けても議長は辞職しておらず、今回も「議長の重責を担っていきたい」と任期を全うする意向、と報じられています(同)。

これは、なんだか不思議に思われます。
というのは、議長は、市議会議員の議決によって選ばれます(地方自治法103条1項)。
もともと、自分たちで選んだ議員なのですから、あとから「やはり不適任」と思われるなら、解任して、別の議長を選び直せばよいのではないでしょうか。

一般社会ならば当たり前にできることですが、ここに、「法律の壁」があります。
地方自治法上、「議長を解任し、選び直す」ことはできない、と一般に考えられているのです。

もっとも、法律にはっきりそう書いているわけではありません。
地方自治法では、議長に関して以下の規定があります。

地方自治法
第103条 普通地方公共団体の議会は、議員の中から議長及び副議長一人を選挙しなければならない。
2 議長及び副議長の任期は、議員の任期による。

第108条 普通地方公共団体の議会の議長又は副議長は、議会の許可を得て辞職することができる。・・・

これら規定の解釈として、一般には、法律に「議長の解任」の規定が存在しないので、
・議会はいったん議長を選んだら、「議長の解任」はできない
・議長は、議員の任期中は、自ら辞職しない限り、ずっと議長を務められる
と考えられているのです。

議長の辞職勧告決議・不信任決議などは、
「事実上、議会が議決することは差しつかえないが、法的には効果はなく、任期を中途で失わせることとはならない。」
とされています(松本英昭『新版・逐条地方自治法(第7次改訂版)』学陽書房))。

「規定がないからできない」ということなら、地方議会の運営ルールとして(議会ごとに定めている「会議規則」の中で)、独自の規定を定めてしまう可能性はないのでしょうか。
上記逐条解説によると、これも、
「議会の不信任議決により、議長は職を失う旨を会議規則に掲げたものがあれば、違法の会議規則である(行政実例昭和26・1・17)。」
として否定されています。

地方自治法に規定がない以上、議会の会議規則で定めても、その規定が「違法(地方自治法違反)」になるというわけです。
ちなみに、ここで出てくる「行政実例」とは、地方自治体の問合せに対して、国の担当部局が回答したものです。

もっとも、これに対して、専門の研究者の間でも、「こんな行政実例はおかしい」との意見があります。
例えば、岡田彰・元拓殖大学大学教授(地方行政専門)は、
「こんなことは地方自治法の問題ではありません。それぞれの議会の会議規則で、『不信任決議などを受けたら、議長の職を失う』と定めればよいだけのことです。
一般に、住民によるリコールの『根拠』は、選任と罷免の連動性にあるとされています。議長は、議会構成として議員が選挙するのですから,罷免も当然できるはずです。」
と指摘されます。

また、行政実例に関しては、
「行政実例は、役所の都合で挿入・削除が繰り返されています。行政実例を集めた『例規集』は加除式で、簡単に挿入も削除もできます。削除されたら実例は痕跡がありませんので、役所にとっては大変都合がよい。これは、役人の知恵なのです。
ちなみに、直接請求について、『署名は自著』と規定されているのみですが、かつて福岡県知事リコールのとき、日本語以外の署名がありました。そのときの行政実例として、『ロシア語は不可、朝鮮語は可』という、全く不可解な解釈が示されたことがあります。たぶん現在は削除されているでしょう。」
その程度のものだということです。

今回のように、辞職勧告決議・不信任決議などを受けた議長が、決議を無視して居座るという問題は、塩釜市議会だけに限らず、あちこちで起きているようです。
何度決議を出してもらちがあかないのなら、この際、争いのある60年以上前の行政実例にチャレンジし、会議規則で独自ルールを制定してみてもよいのかもしれません。

(地方議会ニュース解説委員 原 英史)

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