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国会で「ピペド」が話題に 若手研究者がキャリアを積めない「ブラック環境」で実験繰り返す

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「大臣にお聞きしますけど“ピペド”ってご存知でしょうか」――。5月19日に開催された国会の科学技術・イノベーション推進特別委員会で、日本共産党の真島省三議員が科学技術政策担当の山口俊一国務大臣に向けてこう切り出した。

この日、真島議員は大学におけるSTAP細胞問題等の研究不正や、それを生み出す研究体制の不備などについて質問。その中で「ピペド」についても言及したが、山口大臣は「何らかの省略の言葉、略語なんでしょうけれども、ちょっと今のところ聞き覚えはございません」と答えるにとどまった。
低年収・任期制で「使い捨て」にされるポスドク

実は「ピペド」とは、2ちゃんねるの生物板を発祥とするインターネットスラング。少量の液体を吸い上げて他の容器へ測りとる「ピペット」を使って、朝から晩まで実験を続ける生命科学の研究者を「ピペット奴隷」(あるいは土方)と揶揄する言葉だ。

真島議員によると、バイオ研究は労働集約型で機械化ができないため、大学院生やポスドクが「教授に言われるがままに奴隷のように働かされている」現状があるという。

ピペドを取り巻く実態は、2ちゃんねる生物板の「【鎮魂】やめろ博士進学26【ピペド隊】」に列挙されている。年収240万円、任期1年で契約更新禁止。失業保険もない。この点は真島議員が、若手研究者の半分以上が任期付で、大学や研究機関からは「使い捨て」のようにされていると問題視した点と一致している。

作業の内容は、教授のストーリーに合うデータを「創造する」ことが基本で、科学者の良心に基づいて教授に意見を述べると「公開銃殺刑にされます」という。

専門性の高い研究ではあるが、単純作業を日々繰り返しているので、身についた技術は少ない。民間への就職も「ブラックベンチャーかブラック企業」しかないと嘆き、博士課程に進学したある人は、そのことを後悔してこう書き残している。

「今後のキャリアパスを考えると、すき家でバイトする方がずっと役に立つな。牛丼店は全国にたくさんあるし、小売は正社員になれる可能性もある」

近大講師「ピペドは現在6000~7000人いる」

「ピペド」については、2014年10月6日の日経ビジネスオンラインで、病理専門医で近畿大学医学部講師の榎木英介氏が「『ピペド』放置で滅びる日本のバイオ研究」という記事で問題提起を行っている。

榎木氏は、ピペドが現在「6000~7000人いる」と推測。彼らが他の働き口を見つけることができないのは、バイオ系が理系の中でも「物理や数学ができなくてもできる」特殊な分野だからだという。

バイオ企業に就職するには統計の知識が必要で、大企業に就職するには年齢がネックとなってしまう。質より量で勝負しようとする研究室によって彼らは酷使され、身分が不安定なまま年を重ねてしまうそうだ。

論文の量産状況の一例として、東邦大学医学部の元准教授が172本もの論文をねつ造したことを紹介し、「バイオ研究業界は、将来に禍根を残す、構造的な問題を抱えています。誰かが現状を伝えなければいけない」と警鐘を鳴らす。

この記事は研究者中心に読まれたが、ネットで大きな話題を呼ぶには至らず、「ピペド」の過酷な実態が広く知られるきっかけにはならなかった。
大臣は「優れた人材が能力を発揮できる環境整備」と答弁

なお、真島議員に「こんなことでいいと思われますか」と詰問された山口大臣は、若手研究者は流動性の高い環境の下で多様な研究経験を積み重ね、能力の向上を図ることも重要だと前置きしながらも、次のように明言した。

「雇用を安定させながら、同時にいかに競争的環境を構築していくかということが課題だと思っております」 「優れた人材がその能力を最大限発揮できるような環境が整備されるように、各省の取り組みを促していきたい」

若手研究者が専門性を生かせずに燻っている状況に、政府がどうメスを入れるか注目だ。

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カテゴリー : 政治・経済・社会 タグ :
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