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火野正平 台本を貰ったら、どうやれば面白くなるかを考える

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 50年を超える役者生活を送ってきた火野正平には個性的な人というイメージが強いだろう。その印象を強くしているもののひとつは、「必殺」シリーズなど人気のテレビ時代劇にいくつも出演しながら、鬘(かつら)をつけず裾をひるがえすとマントのようにはためく衣装を着ているからだ。面白いと思う時代劇について火野が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏の週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』からお届けする。

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「必殺」シリーズ、『斬り抜ける』『長崎犯科帳』『長七郎江戸日記』など、1970~1980年代のテレビドラマで火野正平は「情報屋」の役を演じてきた。頭髪は地毛を長く伸ばし、衣装は長く厚めの羽織という独特のスタイルをいつもしており、観る側に強烈な印象を残している。

「俺は、時代劇で鬘を取った役者の走りなんじゃないかな。最初は『半がつら』というのを付けて地毛と結んでいたんだけど、飯の時とかに取るから、しょっちゅう食堂に忘れてきちゃうんだ。その度にスタッフが取りに行ってたから、『もうお前、かぶるな。地毛をくくれ』ということになったんだよね。

 あと、立ち回りをしていてすぐ飛んでいっちゃうんだよ。暴れるだけだったから。武士の立ち回りじゃないから、喧嘩でいいと思ってやっていたんだ。若い頃、喧嘩は上手かったんだよ。間合いをとって刀をよけるんじゃなくて、刀が振り下ろされる前に相手に飛び込むというね。

 衣装は、あれが粋だと思っていたんだ。走ってばかりの役だから、走ると風で裾がヒラヒラとなって可愛くなるからね。

『斬り抜ける』の最後の方は寒いから毛布を被ったまま出たんだよ。『南蛮渡来でええやないか』って。あの頃の時代劇には、そういう自由さがあったよね。

 俺は『当時のことなんて、誰も知らん』と思ってるから。『そんな奴もおったやろう』って。

 今は、そういうことはなかなかできないな。一つの撮影所での付き合いが長かったから、現場のみんなと仲間になって『面白いことをやろう』ってみんなで思えるようになったんだよ」

 京都の時代劇の撮影現場を取材すると、火野がスタッフたちを誘って飲み会を開く姿をよく見かける。そうした親しみやすさもあり、彼がいるだけで現場の雰囲気が和らぐことが多い。

「たぶん、そういうのが俺の役目なんだろうね。俺が現場に入る時の口癖は『おはよう、おはよう。僕が来たからもう大丈夫だよ』だから。何が大丈夫やねんと思うんだけど。まあ、これも生き残っていくための一つの手段だったのかもしれない。

 現場が一番楽しいんだよ。現場のスタッフとは『はい、会費千円』って感じで飲み会を開いて、そこで『また、ああいう面白いことやりたいねん』『よっしゃ』と繋がっていく。それで作品が面白くなったら、それが一番いいじゃないかと思うのね。

『長七郎』で誰かを尾行するシーンで掘割の脇を歩くんだけど、それをただ後からつけるんじゃ、おもろないと思って。のんびりした雰囲気を出したいから『タライで追いかけるわ』と言ったんだ。でもタライは穴ぼこだらけで浮かない。それで車のチューブを持ってきて、みんなで下に付けて浮くようにしたこともあったんだ。

 台本を貰ったら、どうやったら面白くなるかを考えるんだ。哀しい場面では笑わせようと思うし、みんなが笑っていたら哀しくしようと思う。何か、そういう味付けがあった方が、その作品は面白いんじゃないかな。時代劇っていうのは楽しくなきゃいけないと思うから」

■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2015年6月12日号


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