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豚レバー生食禁止は当然でも「食肉の加熱基準」には問題山積

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 厚生労働省から「豚レバー禁止令」が出されることになった。豚肉の生食でE型肝炎にかかる人がいるからである。だが加熱条件はそれでいいのか。鶏肉は安全なのか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

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「また」である。厚生労働省が豚肉の生食の禁止を決定した。実施は6月中旬ごろを予定しているという。2012年に牛レバーの生食が禁止され、以降、その代用として豚レバーを生食で出す店が増えたことを受けての措置だ。

 豚レバーの「生食」禁止は当然といえる。国立感染症研究所によれば、2012年から2014年までの3年間に豚由来のE型肝炎の患者は54人。確認されている原因食材としては最多であり、免疫力の低い子どもや老人、そして妊婦などは劇症化しやすい。「生食」などもってのほか。絶対に避けるべきだ。

 だが「また」なのはここから先だ。「生食禁止」が持ち上がると、お題目のようにとなえられる加熱条件がある。中心温度が63℃で30分、もしくは75℃で1分。日本における食肉の加熱基準はほぼこのふたつに集約されてしまっている。昨年末に整備された野生鳥獣(ジビエ)の衛生管理に関するガイドラインでも、厚生労働省は「75℃1分と同等以上」という基準を打ち出した。その後、厚生労働省は問い合わせを受けて63℃30分も同等の加熱とみなすと回答しているが、実はここに矛盾がある。

 「63℃30分」に相当するのは加熱時間1分なら70℃。いっぽう、加熱温度が75℃なら5秒となる。75℃1分ではない。異なるはずの基準を持ちだして「同等」と言う。しかもこの基準はアップデートされずに、何十年も運用され続けている。なぜ適正な基準の設定に力を注がないのだろう。ジビエのガイドライン設定時もあまりの拙速な議論に一部から批判の声が上がった。厚労省は、「今後得られた科学的知見を踏まえ、必要に応じて本指針の見直しについて検討する」といったが、現状見直すそぶりは見られない。

 2011年にアメリカ農務省(USDA)はそれまで71℃だった豚肉の加熱基準を63℃3分に引き下げた。それより古い2009年のFDAの基準でも60℃12分、「旋毛虫」に言及した連邦規則では豚肉の加熱は61.1℃で1分、62.2℃まで上げればベンチタイムは必要ないとされている。条虫(いわゆるサナダムシ)類も資料によって幅はあるものの、57~60℃で死滅させられるとされている。

 食肉は肉によってそのリスクが異なる。例えば日本では、鶏肉は「生食しても大丈夫」との趣があるが、諸外国の加熱基準を見ると豚肉よりも高い温度に設定されていることが多い。例えばUSDAの基準では74℃となっているし、そのほかの研究結果を見ても、鶏肉のサルモネラ菌を失活させるには62.5℃で4分17秒~5分28秒の加熱が必要だとされている。前出の豚肉よりも厳しい基準だ。

 しかも鶏肉には、近年ギラン・バレー症候群との関係が確定的になったカンピロバクターのリスクもある。2013年の埼玉県衛生研究所の調べでは、国産鶏肉の61%がカンピロバクターに、47.4%がサルモネラ菌に汚染されていたという。カンピロバクターは「60℃、1分程度の加熱でほぼ死滅」(東京都福祉保健局)するとなれば、基本的な安全管理はやはり加熱になってしまう。もっともカンピロバクターやサルモネラ菌は腸管内に分布する菌であり、解体時の処理法次第では、「安全な生食」も十分視野に入ってくる。

 関係各位には生食可能な鶏肉の解体・処理技術の開発をぜひお願いしたい。一部の焼肉店で復活したユッケのように、より安全に生肉を楽しむ道筋はあるはずなのだ。

 676年に”肉食禁止令”が出されてから江戸末期まで、表向き日本人は肉を口にしてこなかった。日本人がおおやけに肉を口にし始めてから約150年。外国人観光客が大挙して訪れるいま、そして2020年の東京五輪に向けて、食肉にまつわる基準の見直しは急務と言っても過言ではない。基準が変われば、味は一晩で劇的に変わる。実態をつぶさに見て、きめ細やかな基準を設定し、新しい技術を開発する。日本の食文化はさらに進化するはずだ。


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