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メディアの広告化はジャーナリストに何をもたらしたのか?――堤未果さんインタビュー(2)

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 昨日からお送りしている『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉』(集英社/刊)著者・堤未果さんへのインタビュー。
 本書の前編にあたる『沈みゆく大国アメリカ』(集英社)では、医療保険制度改革「オバマケア」がアメリカの医療を崩壊させ、アメリカ社会に悲劇をもたらしている様子を克明に描いますが、この『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉』では、日本に視点を向かわせます。世界が絶賛する「国民皆保険」が米国の市場原理主義に呑まれてしまうとき、何が起こるのか?
 注目のインタビュー中編です。
(インタビュアー・記事:金井元貴)

■メディアの広告化はジャーナリストに何をもたらしたのか?

―― 前作でアメリカの市場原理主義が医療を崩壊させていく様子が描かれていましたが、日本にいると、医療分野に市場原理主義が蔓延った形というのがなかなか想像できないように思います。

堤さん(以下敬称略): 想像しにくいと思います。医療に関して、日本とアメリカではその位置づけがまったく違いますから。例えば日本では皆保険制度は「社会保障」ですが、アメリカでは医療は値札のついた「商品」で、贅沢品の一つです。ただ誤解してはならないのは、アメリカほど医療を市場原理が支配している国は世界の中でも特殊だということです。

日本ではアメリカが世界のスタンダードだと勘違いされがちです。しかし、薬の値段ひとつとっても、アメリカの様に政府に薬価交渉権がない国よりも、国民のいのちに関わることを市場に任せるのはとんでもないと考える国の方が多いです。先週オレゴン州の大学教授とこの話をした時、「他国がアメリカから絶対輸入すべきでない最大のものは医療制度だ」とはっきり言っていました。アメリカ国民の大半が医療制度を正確に理解していないのと、医療政策に就いては情報そのものが、すでにふるいにかけられているという問題もありますが。

―― そもそもアメリカ国内の報道に恣意性が含まれている。

堤: そうです。そういった報道が通信社を通して日本のマスコミに流れるので、当然私たち日本人が得る情報も、そのフィルターを通されている訳ですね。

―― なぜそんなことになっているのでしょうか。

堤: 1980年代にメディア所有の規制緩和が行われて以来、アメリカで流れるニュースは大きく企業寄りになったからです。だから、市井の人々の本当の声や現場で何が起きているかをつかむには、実際に現地に行くしかない。医療だったら、医療現場に脚を踏み入れ、そこにいる人たちの生の声を聞かなければなりません。
いくら商業メディアが「オバマケア」は素晴らしいと宣伝しても、医療現場の人たちが本当にそう思っているかどうかは分からないからです。私たちはスマートフォンの中に、たくさんの情報があるように感じてしまいがちですが、実はそこにある情報の多くも、ふるいにかけられていることに注意しなければなりません。

―― 都合の悪い情報がシャットアウトされてしまうということですか?

堤: そういう事はもちろんあります。マイクロソフトも、ヤフーも、ユーチューブも、アップルも営利企業で、彼らに私たちにとって中立な情報を出す「義務」はありません。
企業は株主のものですから、スポンサーにとって都合の悪い情報が削られたり、順番を入れ替えることも、彼らの当然の権利なのです。
ネットで情報だけ読み、それをまとめて記事にしているジャーナリストもいますが、実際に現場を見ていなければ、本質的な部分まで入りこむことはできないでしょう。
現場には政府や企業にとって都合の悪い情報がたくさんあります。だから、アメリカは1980年代以降、労働記者が一番減りました。貧困層がどんどん広がっていますが、その声を聞く労働記者を企業は最初に切るのです。彼らの話を聞いても商品は売れませんから。

―― つまり、メディアが流す情報には広告的価値が重要視されているわけですね。

堤: 広告化していると言うべきでしょう。金融記者がたくさんいるのは、企業として雇い続けるメリットがあるからです。
最近、アマゾンがワシントン・ポスト社を買収しましたけれど、危機的な出来事だと思いました。ワシントン・ポストを一番読んでいるのは、ワシントンに住む政治家たちであることを考えれば、このニュースの捉え方は変わるでしょう。
日本では「アマゾンがジャーナリズムを救った」という論調が多かったように思いますが、企業を買収するということには目的があり、彼らは投資した分をちゃんと回収します。

―― この本に出てくる事例で、医師も参考にしているアメリカ大手医療健康情報サイト「WebMD」が、政府と「オバマケア宣伝契約」を結んでいて、オバマケアの肯定記事を書くと12万ドル以上ももらえるというくだりは印象的でした。

堤: すごい額ですよね。このことを知った医師達はショックを受けていましたが、企業幹部などは「え、マーケティング、当然でしょ?」と涼しい顔でしたよ。ある政策を通そうとしたとき、その反対の声を封じこめるために、有名ウェブサイト、有名ブロガー、ハリウッド、連続ドラマを動員する。影響のある人たちに宣伝してもらう。一時期、ハリウッドスターたちが一斉に「オバマケアは素晴らしい制度だよ」とブログやツイッターに書きこんだことがありました。

以前、MITのノーム・チョムスキー教授にインタビューをした時に、なぜアメリカで広告業界が生まれたかという話になったんです。チョムスキー教授はこういいました。
「労働者が力を持ちすぎ、政府が民衆をコントロールできなくなった時に、広告業界が生まれたのです」と。当時、「プロパガンダ」と呼ばれていた広告は、今は「マーケティング」と名前を変えていますが。

―― そういったことを知るだけでも、視点が変わるように思います。

堤: ニュースの見方もかなり変わると思いますね。

―― 本書を読むとTPPの見方も変わると思います。医療や薬の方に注目せざるを得なくなります。

堤: はい、とても重要なポイントです。TPPについては自動車や農業のことばかりニュースにとりあげられていますが、実は目玉の一つが医薬品ですから。

―― また、日本国憲法第25条(生存権)についての言及がたびたびなされていますが、これは憲法改正の議論に合わせたものでしょうか。

堤: いいえ、現在安全保障をメインに盛り上がっている憲法改正議論とは、切り離して書いています。
この本に「憲法25条」が繰り返しでてくるのは、日本の国民皆保険制度がそれを礎にしている制度だからです。これは非常に大事な事実でありながら、ほとんど知られていません。

全ての国民が健やかに人間らしく暮らすことを国が保証するというのが「生存権」ですから、これをベースにした制度だと知った時、今のように財源論だけで議論する事自体がおかしいと気づくでしょう。国会議員の仕事は憲法にそって、より良き国を作ってゆく事ですから、まず議論している制度のなりたちそのものやその歴史的経緯を知った上で、では憲法25条をふまえて、一体この制度を今後どうしてゆくのか、そういう順番で話し合われるのが筋なのです。政府が「財源がないない」といいながら自治体におしつけて、憲法を守る責任をあいまいにするのは、本末転倒でしょう。

(後編:取材をするときは「遠距離恋愛をしているような気持ちで」に続く)


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