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ジャーナリストの仕事は「今ある事実を明かし、未来の選択肢を提示するだけ」――堤未果さんインタビュー(1)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第68回の今回は、5月15日に最新刊となる『沈みゆく大国アメリカ 逃げ切れ!日本の医療』を刊行した堤未果さんが登場します。
 本書の前編にあたる『沈みゆく大国アメリカ』(集英社)では、医療保険制度改革「オバマケア」がアメリカの医療を崩壊させ、アメリカ社会に悲劇をもたらしている様子を克明に描いていますが、姉妹編となる『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉』は日本に視点を向かわせます。世界が絶賛する「国民皆保険」が米国の市場原理主義に呑まれてしまうとき、何が起こるのか? 
 堤未果さんへのインタビュー、3回にわたってお送りしていきます。今回はその前編です。
(インタビュアー・記事:金井元貴)

■ジャーナリストの仕事は「今ある事実を明かし、未来の選択肢を提示するだけ」

――この『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉』は、各所から反響を呼んだ『沈みゆく大国アメリカ』の姉妹編にあたる一冊ですが、執筆は同時並行で行ったのですか?

堤さん(以下敬称略): もともとは一冊で終わる予定だったのですが、『沈みゆく大国アメリカ』を書いている間に、日本の医療政策がどんどん変わっていったのです。医療法の規制緩和や混合診療拡大の法改正や、医療機関を対象にした投資商品が登場したり、特区内での自由化議論が加速してきたり、、、

それをみた時、ああこれは第4章で今ある危機を書くくらいじゃ間に合わなくなる、と思い、編集長に相談して急遽日本に特化した「逃げ切れ!日本の医療編」を続けてもう一冊書く事に決定しました。

もう一つの理由は、自分も含めてですが、取材の中で私たち日本人がいかに公的保険や医療制度について知らないかを改めて実感したことです。医療は専門分野だというイメージが強いこともあり、一般の人の関心が薄いんですね。その一方で医療従事者は、政治の中で医療政策がどう動いているのかを把握できていない。そして肝心のアメリカとの関係やグローバルな世界の中で日本の医療がどうみられてきたかという歴史的経緯や現在の位置づけも、いまひとつ理解されていない。今日本は、医療と政治と国際社会がバラバラに切り離されている、非常に無防備な状況だという危機感を感じたのです。

その3つをもう一度整理してわかりやすく一冊にできないかと思い、姉妹編を作ることになりました。

――執筆は日本でされていたのですか?

堤: 基本的には(日本とアメリカを)行ったり来たりしているのですが、去年は日本で書くことが多かったです。執筆の合間をぬって取材に行きました。

――日本の変化は、日本にいないとつかみにくい部分が多いと思います。

堤: 日本にいても、ニュースをみているだけではなかなかつかみにくいでしょうね。
例えば「○○方について閣議決定されました」というニュースが出ても、実際どのような議論を踏まえて審議されたのかは報道されない。
知りたければ首相官邸のホームページを見たり、産業競争力会議や経済財政諮問会議など、関連会議の議事録を見たりしないと分からない。
面倒くさいからわざわざやる人は少ないですが、ここをみないと経緯がわかりません。
医療現場の人々や、医療政策の審議委員、関係省庁や厚生労働委員に話を聞きながら、議事録や公式データを地道に集めました。国民健康保険の歴史をまとめた分厚い本には泣かされましたが(笑)。

―― 『沈みゆく大国アメリカ』にはさまざまな反応がありました。「アメリカの現状を鋭くえがいている」という声もあれば、「危機感を煽るだけだ」という批判的な意見も見られましたが、そうした声をどのように受け止めていますか?

堤: 反応があるのは嬉しいですね。本は出版された時点で著者の手から離れ、どう受け止めるかは100%読者の自由。ジャーナリストの仕事とは、事実を明らかにし、未来の選択肢を差し出すことですから。

本書を読んで、「日本の皆保険制度は守るべき」と思う人もいるでしょうし、「商品化して経済産業にしたい」と考える人もいるでしょう。読者の立場によって反応は様々ですが、国内外から山のようなお手紙やはがきやメールを頂き、本当に勇気づけられました。

―― では、『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉』は日本人に対して警鐘を鳴らして議論のきっかけにしてもらう意図を込めて書かれたのですか?

堤: 問題提起したテーマが人々の関心を呼び起こし、さまざまな立場からの議論が高まる事は、結果論ですが、嬉しいですね。アメリカ発のこの流れは、お隣の韓国にもインドにもブラジルにもヨーロッパにも広がっています。日本ももちろんその一つです。そうした大局を知らない間にこの波にのまれてしまうより、何が起きているかを知る事で、未来を主体的に選んでいく、ひとつの材料になるといいと思っています。

(中編「メディアの広告化はジャーナリストに何をもたらしたのか?」へ続く)


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