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芥川龍之介 恋文に「お菓子なら頭から食べてしまいたい」

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 手紙には魅力がある。手書きの文字には人柄があらわれ、直接いえないことも伝わる。それでも、好きな人に思いをしたためるとなると、うまい言葉が出てこない。歴史に名を残した文豪、芥川龍之介もそうだったのだろうか。

 代表作『羅生門』を発表した翌年の大正5年(1916年)8月、当時24歳の芥川龍之介は後に妻となる17歳の塚本文へ手紙をしたためた。千葉県一宮海岸で書かれたものだ。

〈文ちやん。

 僕は、まだこの海岸で、本を読んだり原稿を書いたりして暮らしてゐます。いつ頃うちへかへるか、それはまだ、はつきりわかりません。

(中略)

 文ちやんを貰ひたいと云う事を、僕が兄さんに話してから何年になるでせう(こんな事を文ちやんにあげる手紙に書いていいものかどうか知りません)貰ひたい理由はたつた一つあるきりです。さうして、その理由は、僕は文ちやんが好きだと云ふ事です。勿論昔から好きでした。今でも好きです。その他に何も理由はありません。

(中略)

 僕には文ちやん自身の口からかざり気のない返事を聞きたいと思つてゐます。繰返して書きますが、理由は一つしかありません。僕は文ちやんが好きです。それでよければ来て下さい〉

 それから1年余りが過ぎた大正6年11月には、2人の関係が熟してきたことをうかがわせる手紙を送っている。

〈(前略)こんどお母さんがお出での時ぜひ一しよにいらつしやい。その時ゆつくり話しませう。二人きりでいつまでもいつまでも話していたい気がします。さうしてkissしてもいいでせう。いやならばよします。この頃ボクは文ちやんがお菓子なら頭から食べてしまいたい位可愛い気がします。嘘ぢやありません(後略)〉

 作家で手紙文研究家の中川越氏はこう解説する。

「作品では常人離れした感性で“人間とは”を突き詰めた彼が、極めて素朴で素直な文章で好意をしたためているギャップに驚かされます。いずれもとても心動かされるラブレターです」

※週刊ポスト2015年5月22日号


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