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やっかいで難しい女の友情〜柚木麻子『ナイルパーチの女子会』

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「女同士のつき合いはやっかいである」という言い草は、当てはまる場合もあるが、全面的に正しいわけではない。男同士の友情が強固なものばかりとは限らないし、女子の間にも揺るぎない絆が生まれることもある。しかしながら、私も昔はその”やっかい”な女子のつき合いに身を置いていた者だった。十代までの私は内向的で気が弱く、クラスでも近所でも自分を主張できる女の子の顔色をうかがうタイプだった。今思うとなぜあんなに彼女たちに振り回されていたのかわからない。女王様的に君臨する女の子に一見して明らかな特徴があるわけではないのが、また複雑なところだ。勉強やスポーツに秀でていればその地位を獲得できるわけではないし、かわいさで抜きん出ている子ばかりということでもない。ひとつだけ言えるとしたら、彼女たちは人の心の動きを敏感に察知する能力が抜群に長けていたということだろうか。本能的にか理論的にかは知らないが、彼女たちにはわかっていたのだ、どうすれば自分の言うことをきかせられるか、どうすれば相手の弱みを突けるか、どうすればやり過ぎないかを。

 本書の主人公はふたり、キャリアウーマンの栄利子と専業主婦の翔子。栄利子は国内最大手の商社に勤めており、翔子は人気ブロガー。栄利子は都内の実家住まいで、翔子はスーパーの店長をしている夫とふたり暮らし。ともに女性で30歳という以外には共通点も見当たらないと思われたふたりを結びつけたのは、翔子のブログ『おひょうのダメ奥さん日記』だった。もともとおひょうファンだった栄利子が行きつけのカフェにいたところ、書籍化をすすめる編集者との打ち合わせをしていた翔子と偶然の邂逅を果たす。栄利子は憧れのブロガーと、翔子は顔の見えなかったファンと出会ったことで、一気に気持ちが舞い上がった。ふたりのもうひとつの見えざる共通点、それは女友だちがいないことだった。急速に距離を縮めたふたりの歯車はしかし、徐々に狂い始める…。

 栄利子も翔子も、クラスや近所の女王的な存在ではない。だからといってうまく友情を育めるわけではないところに、人間関係の難しさがある。ようやく同性の友だちを見つけたと思ったふたりが相手を、そして自分をも追い込んでいくさまには胸をふさがれる思いがする。そう、彼女たちが傷つけ傷つけられてもあきらめられないもの、私が子どもの頃どんなに気詰まりに感じても手放せなかったものが、女子の友だち関係だったのだ。栄利子と翔子が最終的に選んだ道はどこへ続いていたのか、ぜひお読みになって確かめていただきたい。

 著者の柚木氏は、女子の友情を鮮やかに描くことには定評のある作家だ。デビュー作『終点のあの子』(文春文庫)、『王妃の帰還』(実業之日本社文庫)、『本屋さんのダイアナ』(新潮社)など、印象的な作品をあげれば枚挙に暇がない。しかしながら、小学館のPR誌「きらら」で現在連載中の「ゆうずうききますんで」を読む限り、ご自身のお友だちとは至極円満でいらっしゃる様子(このエッセイの素晴らしさについては、昨年10月第4週の本コーナーにて熱く語らせていただきました。よろしければバックナンバーをご覧になってみてください)。ご自身も激戦の女子ライフをくぐり抜けてこられたのか、あるいは特に苦労もなく交友関係を築いてこられたのか、ちょっと気になるところだ。

 蛇足になるが、私自身の体験談をひとつ。友だちとのつき合いに汲々としていた小学生時代、自分では特に思い当たる理由もなくいつも一緒に遊んでいた女の子たちから口をきいてもらえなくなったことがあった。話しかけても答えてもらえず、私以外の数人が顔を見合わせてくすくす笑っているのをみて心が冷える思いをしたことは一生忘れられないだろう。実際には2〜3日のことだったはずだが、その当時の自分には永遠とも感じられた。意を決した私はそのグループでいちばんなかよくしていた子のところへ行き、「もし私が何か悪いことしたんだったら言って。そうでないならもういい」と宣言した。言葉だけみれば毅然としているが、内心は冷や汗ものだった。彼女は驚いたように目を見開き(おとなしい私にこんな台詞が吐けるとは思っていなかったのだろう)、無視したりするのは自分でも本意でしたことではなかったのだと謝ってくれた。私がこのことから学んだのは、行動を起こさなければ現状を変えるのは難しいということ、しかしたまたま好転しただけでもっとひどくなっていた可能性もあったということ、彼女との友情は身を挺してでも私を助けてくれるほどには強固なものではなかったということだ。でも、決して彼女を恨んではいない。女子同士の関係に過度な期待を抱くことなく成長した私は、同性とのいい感じの距離感を身につけられるようになった。一方で、さまざまな面倒ごとがあってもなお、かけがえのない女子の友情は存在しうると楽観してもいる。だって、女の子だもん。

(松井ゆかり)

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