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安倍晋三の「A」はアドルフ・ヒトラーの「A」芥川賞作家の野心作

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第67回の今回は、2月に新刊『宰相A』(新潮社/刊)を刊行した田中慎弥さんです。
 小説家の「T」が迷い込んだパラレルワールドの日本と、日本人を差し置いてその地を支配するアングロサクソン。そして首相の名前は「A」…。
 あからさまにモデルが特定できる挑戦的なタイトルと、タイトル以上に過激な内容が、昨年文芸誌上で発表されて以来大きな話題を呼んでいるこの作品はどのように構想され、書き上げられていったのでしょうか?

■『宰相A』に映し出される戦後日本、そして現代日本
――田中さんの新刊『宰相A』についてお話を伺えればと思います。以前、他媒体のインタビューで田中さんが小説の書き方についてお話されていて、「構想を固めてから書く」というやり方ではなく、一行一行手探りで書くということをおっしゃっているのを読んだのですが、今回の作品もこのやり方で執筆されたのでしょうか。

田中:基本的にはそうなのですが、今回の場合は極端な世界を書いたので、ある程度外枠は決めました。そこのところは今までの作品とやり方が違っているかもしれません。
ただ、書き始めた後はいつものように一行一行でしたね。

――『宰相A』の「A」はやはり…

田中:「安倍晋三」の「A」なのですが、もう一つ裏テーマのような感じでアドルフ・ヒトラーの「A」という意味合いもあります。「A」の演説の時の仕草などはヒトラーの仕草をちょっと盛り込んでみたりもしました。まあ、でも安倍さんですよ。

――確かに、「A」の見た目の描写を読むと、安倍首相ともヒトラーとも取れました。

田中:それはもう、意識して書きましたからね。単純にあの二人の顔が似ているなというのは以前から思っていて、最後まで「A」に口ひげを生やそうかと考えていたのですが、それはさすがにやりすぎかなと思って仕草だけにしました。

――先ほどおっしゃった「極端な世界」というのが何やら不穏です。日本の国土でありながらアングロサクソン系の人種に支配され、英語が話されている。もともとの日本人は「旧日本人」と呼ばれ、スラム街めいた「居住区」に追いやられて暮らしている一方で、アングロサクソンではない「旧日本人」の「A」が対外的な傀儡のように首相を務めている。この設定はフィクションとはいえ、社会への強い問題意識を感じます。

田中:タイトルがタイトルですからね。当然問題意識はあるのですが、それは社会に何かを問うということではなくて、「私には今の日本、あるいは戦後の日本全体がこう見える」というものを極端な形で提示したものです。だから、「社会と切り結ぶ」というよりは寓話に近い。
そういう意味では、この小説を読んでくれた方の目に今の日本がどう映るのかなという興味はありますね。

――社会に対する積極的なメッセージはないにしても、このような問題意識をうかがわせる作品を書かれたのは初めてではないですか?

田中:そうかもしれません。ただ、僕は今の首相と同じで下関が地元ですから、子どもの頃から、たとえば今の首相のお父さん(故・安倍晋太郎氏)も首相候補と言われた政治家でしたから、政治的な匂いは感じていました。
そういう経験を小説の形で出すとどうなるのかと考えた時、小説を政治と対峙させて何かを訴えかけるというのではないにしても、政治を小説の側に引きずり込んで一つの作品にするというのは、案外現代の他の作家はやっていないんじゃないかと思ったんです。

第2回 ■集団になると暴力的になる恐ろしさ につづく


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