ガジェット通信

見たことのないものを見に行こう

「科学技術週間」航空宇宙の研究機関巡り

DATE:
  • ガジェット通信を≫

4月18日の「発明の日」を中心とした「科学技術週間」には、全国の研究機関が一般公開され、普段行っている研究の様子を見ることができます。今回はそのうち、航空宇宙に関するものを色々ご紹介しましょう。

【関連:第51回 大空に描かれたハート】

まずは物質・材料研究機構(茨城県つくば市)。旧金属材料技術研究所だった千現地区では、発電用ガスタービンや、航空機のジェットエンジンに使われる金属材料の研究開発を行っています。ボーイング787に使われているロールスロイス・トレント1000のタービンブレードにも、ここで開発されたニッケル基超耐熱合金が使われてるんですよ(つくばでのロールスロイスとの共同研究)。

今回は、将来の国産ジェットエンジン開発に貢献する為の、新しい耐熱チタン合金を展示。これはタービンではなく、圧縮器用のコンプレッサーブレードに使われる合金です。空気の圧縮率を高めると、その分ジェットエンジンの効率が上がり、燃費が良くなります。ただし、圧縮率が高まると温度も上がるので、温度上昇に強い素材が求められます。

日本航空のボーイング747-400に使われていた、ゼネラルエレクトリック・CF6-80C2のコンプレッサーブレードと、物質・材料研究機構で開発した新しい耐熱チタン合金のサンプルを手に取って見ることができました。

CF6エンジンのコンプレッサーブレード

新しい耐熱チタン合金のサンプル

その横には、この耐熱チタン合金を作る為の金属材料のサンプルが。チタンを基にしながら、様々な物質を添加するのですが、その微妙な配合比によって高温耐性や強度特性が変わってしまいます。

耐熱チタン合金の材料

これまでの耐熱合金の材料比と特性

物質・材料研究開発機構ではこの他、JAXAの新型基幹ロケットに使われるLE-9エンジン用の金属素材に関する研究・試験も行っています。

続いては、農業生物資源研究所(茨城県つくば市)。農業と航空宇宙のつながりが判らないかもしれませんが、ここの昆虫科学研究領域・乾燥耐性研究ユニットが、アフリカに生息するネムリユスリカの特性を研究する為に、サンプルを国際宇宙ステーションに送り込んでいるのです。

ネムリユスリカの幼虫は、乾期になるとその環境に耐えて生きのびる為、体内で糖類の一種であるトレハロースを合成し、それがガラス化することでクリプトビオシス(乾燥し、全く代謝を行わない状態)に移行します。この研究ユニットでは、そのクリプトビオシス状態のネムリユスリカの幼虫がどれほどの極限環境に耐えられるのか、という研究の一環で、国際宇宙ステーションを利用した訳です。ロシアモジュール「ザーリャ」の外部にネムリユスリカの幼虫が入ったケースを最長2年半設置して、地球に持ち帰ったそうですが、驚くことに80%以上もの個体が無事に蘇生したそうですよ。

ネムリユスリカの展示

宇宙空間で使用したネムリユスリカの収納ケース

ザーリャ外部に設置していたケースが展示されていたのですが、日なたでの最大上昇温度が摂氏70度くらいとみて素材を選択していたところ、実際に戻ってきたものを見ると、大きく変形しています。研究ユニットの方によると、素材の耐熱性からして想定を超える90度くらいの高温にさらされたらしいとのこと。それでも無事だったので、ネムリユスリカが予想以上にタフであることが証明されたそうです。
将来はNASAの火星探査に載せる構想もあるそうですよ。

国立科学博物館の筑波研究施設(茨城県つくば市)では、収蔵庫の公開を中心とした「科博オープンラボ」が行われました。ここの理工資料庫には、上野の本館に展示しきれない様々な実物資料が眠っています。

航空宇宙関係で貴重なものの筆頭は、現存最古の国産飛行機、モ式六型。陸軍所沢飛行場で1919(大正6)年に作られた、モーリス・ファルマンMF.11のデッドコピー(無許可量産品)ですが、エンジンを含む全ての材料・部品を国産化したもの。かつては本館(現:日本館)裏手にあった5号館で展示されていましたが、現在の地球館建設に伴って閉鎖され、地球館での展示スペースがない為に、以降展示されないまま保管されています。

かつての5号館ではモ式の他、川崎ベル47(東邦航空で使われていたもの)、シコルスキーS-58(南極観測に使われ、カラフト犬タロ・ジロを発見した機体)といったヘリコプターや、ハ115(栄21型の陸軍仕様)など様々な航空用エンジンなども零戦と一緒に展示されていました。今は上野本館の展示スペースが狭く、ほとんど常設展示されていないのが残念なところです。

かつての5号館展示の様子。零戦の奥にモ式

残念ながら、資料保護の為に資料庫内の撮影は禁止。様子をお見せできませんが、内部は倉庫と同じで、様々な文化財級の資料がゴロゴロしています。

資料庫内は撮影禁止

そんな貴重な資料の中に、さりげなく陸軍の特殊攻撃機キ115「剣」が分解された状態で置いてありました。説明パネルもないので誰も気付かず、判る人だけが判る感じでしたが、担当者に色々状態に関する説明を受けながら、間近でジックリ見てきました。木製だというのは有名ですが、主翼端の金属補強部分など、実物ならではの細かいディティールが堪能できました。コクピット内の計器類は既に失われ、木製の主桁など構造材が劣化しているので、組み上げて公開するには、大規模な修復が必要だろう(つまりほぼ無理)とのこと。同じ木製機として知られるデ・ハビランド モスキートを再び飛ばそうという民間プロジェクトがイギリスで進行中ですが、やはり技術的・資金的な問題が大きく、難航しているようです。

資料庫外部に置いてあるものについては撮影しても大丈夫、と許可をいただいたので、写真で紹介できるラムダ2(1963年打ち上げ)とラムダ3(1964年~1965年に打ち上げ)ロケットの第1段を。ちなみに第2段以上は、カッパロケットと共に資料庫内で保管されています。こちらは入り切らず、やむなく野外に置かざるをえないとか。

屋外に置かれたラムダロケットの第1段

これらロケットは、地球館建設前まで、現在上野本館の地球館屋外(線路側)に展示されているラムダ4Sロケットと共に、本館(現:日本館)中庭に屋外展示されていました。

さて、航空宇宙関係の本丸、JAXAの公開を見てみましょう。筑波宇宙センター(茨城県つくば市)の一般公開で面白かったのは、追跡ネットワーク技術センターの「第1回 ANT(アンテナ)選抜総選挙」。人工衛星や探査機の追跡管制に使われている、各地のアンテナの人気投票です。

AKBグループの選抜総選挙にのっかりつつ、統一地方選挙も意識してポスター掲示板を作り、担当の職員が候補者のようにアンテナ名のタスキをかけて投票を呼びかけていました。投票シールを貼った人には、アンテナをあしらった「アンテナカード」がもらえる仕組み。ザッと見たところ、はやぶさ(MUSES-C)やあかつき(PLANET-C)で有名になった「うすださん」こと臼田宇宙空間観測所の64mパラボラアンテナが一番人気でした。

ANT選抜総選挙ポスター掲示板

ANT選抜総選挙投票所

調布航空宇宙センター(東京都調布市)の公開では、様々なものが初公開されました。まずは新しい実験用ヘリコプター、川崎BK117C-2(JA21RH)。納入後、実験機への改修や乗員の訓練を経て、2014年度末から本格的運用に入りました。候補としてはBK117の他、ベル412EPやユーロコプターEC155などもあったそうですが、最終的には実験用ヘリコプターとして実験内容による仕様変更が多くなる為、柔軟に計器が対応できるグラスコクピット化されていたのが決め手になったようです。

新型実験ヘリ・BK117C-2

現在は赤外線暗視HMD(ヘルメットマウントディスプレイ)の研究開発プログラム仕様になっています。軍用のものは既に実用化されているのですが、あまりにもコストが高いので、民生用に安価なものを開発しよう……ということで、実用化されれば、現在は飛行ができない夜間など悪い視界条件の中でも、ドクターヘリや捜索救難ヘリの運用ができるようになります。

光ファイバーを使用した、航空機の変形計測システムも初公開。光ファイバーは曲げると屈折率が変化する(屈折率変調)という特性を利用し、翼に張り巡らせた光ファイバーが飛行中に曲がり、ひずむことによって、どの場所にどれくらいの変形が起きているかを検知するものです。今まではひずみ測定用のセンサーを配置していましたが、これはその場所(点)でしか測定できないので、いわゆる「データの抜け」がありました。光ファイバーでは線で配置できるので、センサーは1本で済み、しかも操縦(操作の信号を光ファイバーで伝達するフライ・バイ・ライト)用のものと共用できるので、仕組みも単純で軽量化もできます。ボーイング787など、複合材料で作られた翼は従来のジュラルミン製翼に較べて変形量が大きい(それだけしなやかな素材だということ)ので、きめ細かく変形の状態をチェックできるこのシステムは、実用化されると非常に重要なものになりまね。

光ファイバー変形計測システム

実演の様子

ジェット機用のバイオ燃料も初公開。現在使われているバイオジェット燃料は、植物(サトウキビやトウモロコシ、藻など)を原料にしていますが、JAXAが研究しているのはゴミから作るもの。展示されていたのは牛脂から作られたもので、他のジェット燃料などと並べ、直接触ったりできるようになっていました。

バイオジェット燃料の実物

バイオジェット燃料の作り方

「植物由来のものは、食料供給を圧迫する可能性があるので、なるべく廃棄物からリサイクルする流れを作るのが重要だと思うんです」という研究者の言葉が印象的でした。

以前このコラムで取り上げた(第30回「猫もいる!? 飛行機を悩ます乱気流の話」参照)、見えない青天乱気流(CAT)を検知するドップラーライダーと、それを使用した乱気流事故防止機体技術(SafeAvio)の展示も。進行方向に乱気流を検知すると、あと何秒で遭遇するかを計器に表示し、音声で警告することでパイロットに対処を促します。将来的には自動操縦装置と連携して、パイロットが対処する猶予のない急な乱気流を自動的に回避するようにしていく予定です。この研究は、平成27年度の文部大臣表彰の科学技術賞(開発部門)を受賞しました。

SafeAvioの展示

SafeAvio計器のイメージ

宇宙探査イノベーションハブの展示では、画像を利用した月着陸技術が初公開。

画像処理による地形判断システム

これは公開日の前日に発表された、無人月探査計画(SLIM)とは別の研究グループが行っているもの。全く同じ研究分野(アプローチの仕方や、使用目的が微妙に違うそうです)だったので、研究者はやたらとSLIMに関する質問をされて「まさかこのタイミングであれ(SLIM)が発表されるとは……(苦笑)」と苦笑してましたね。

ステレオカメラによる障害物検知システム

JAXA調布航空宇宙センターの隣にある、電子航法研究所(東京都調布市)では、新しい航空機の航法支援装置についての展示がなされていました。

そのなかのひとつ、高カテゴリーGBAS「GAST-D」は、指向性の電波を使用した着陸誘導装置である現行のILSに代わり、GPSの電波を利用した将来型の着陸誘導装置。ボーイング787など最新の旅客機では、既にこれに対応した装置がついています。現在はそれぞれの滑走路端に誘導装置を設ける必要があるのですが、これはGPS衛星からの信号電波を使って誘導する為、地上での補強装置を整備すれば、滑走路の方向を問わず着陸誘導ができるというのが最大の利点。対応した機体とパイロットの運用資格さえあれば、どの滑走路への着陸も、視界が確保されない状態での自動着陸が可能になります。

GAST-Dの展示

現在GAST-Dは、宇宙からの信号受信に大きな影響を与えるプラズマバブル(電離圏の乱れ)が発生しやすい地域にある石垣空港で、国際標準化作業の為の実証実験が断続的に行われています。一番厳しい条件でテストし、不具合なく作動するようにしていくという訳ですね。

また、人気があったのが研究用のフライトシミュレータ。前述のGAST-Dなど、新しい着陸誘導方式が研究される中、パイロットの操縦データを取得して実際に運用することになった場合、進入経路逸脱などがどのように起こりうるのか、という可能性を探り、新しい安全基準を策定する参考に使われています。

研究用フライトシミュレータ

操縦訓練用のフライトシミュレータと違い、見かけはちょっとシンプル。飛行機がどのような動きをするのかを調べる為なので、本物そっくりにシミュレータの姿勢を変化させる必要がないのです。

駆け足でしたが、6カ所の研究機関で行われた、航空宇宙関係の公開展示についてご紹介しました。全部を一度に見て回るのは非常に困難なので、これを参考に「どこで、どんなものがあるのか」を確認して、来年以降の見学に役立ててくださいね。

(取材:咲村珠樹)

カテゴリー : エンタメ タグ :
おたくま経済新聞の記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

TOP