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第17回 『ハリウッド・ビジネス10年の変遷 デジタル化とグローバル化に翻弄されるハリウッド』 〜なぜ今日本で、ハリウッド映画がヒットしないのか?が、理解出来る1冊。

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●激変する世界マーケットとハリウッド映画。

 本書はロサンゼルス在住の映画スタッフ・片田暁が映画雑誌「FLIX」に連載されたコラムの中から、ハリウッド・ビジネスの変遷とクリエイターの現状を扱ったものを中心に選んだものだという。それ故、この種の雑誌連載をまとめた書籍にありがちな、「書いた時と本になった時のギャップ」は感じられない。むしろ現在のハリウッドの状況を、新しくレポートしたと言っても良いだろう。

 アメリカ映画界は、このところ大きな変動に見舞われている。特に主戦力であるハリウッド映画の大作の類いが、新世紀を迎えて従来ほどの大ヒットにならず、メジャー・スタジオのお歴々は頭を抱えるばかり。本書ではそうしたハリウッドのジレンマを、多彩な事例と現地ならではのディープな情報に基づいて語られているだけでなく、筆者の見解もまた簡潔に述べられており、映画産業の研究書としてはもちろん、読み物としても楽しめる一冊になっている。

 ハリウッド映画の興行不振は、ここ日本でも顕著である。シネコンの拡充によって映画館が増え、マーケットが拡大した。それはたいそうめでたいことではあるのだが、そうした市場拡大と比例して外国映画の興行収入がダウン。2014年における日本映画の興収は1207億1500万円。それに対して外国映画は863億1900万円。『アナと雪の女王』というモンスター級の大ヒット作(興収254.8億円!!)があったにも関わらず、だ。シェアを出すと日本映画58.3%対外国映画41.7%。この”邦高洋低”は、ここ数年続いている。

 『ハリウッド・ビジネス10年の変遷』を読んで、なぜこうなるかが理解出来た。1990年代に製作費2億ドルを超えたのは『タイタニック』1本だけだったにも関わらず、2000年以降では既に30本近い映画がその大台を上回っている。ハリウッドお得意の「大きいことは良いことだ」が、ヒートアップしているのだ。それだけでなく、製作費以外にP&A(プリント・アンド・アドバタイジング。つまり上映用プリントと広告費)の額も、これら大作を配給するためにかけられていることにも触れられている。ハイリスク・ハイリターンとはよく使われる言葉だが、ハイリスクが必ずしもハイリターンを産む保証はまるでない。だからといってロウリスクあるいはノーリスクでハイリターンは、望むべくもない。こんな業界内の風潮に対して、ジョージ・ルーカスとスティーヴン・スピルバーグは「このまま行けば、近いうちにハリウッドは内部崩壊かメルトダウンを起こす」と言い切った。こちらから見ると、やたらに金をかけただけのVFX大作を連発しているのは、おめーらじゃないかっ!!と言いたい気もするが、たくさんの大ヒット作を輩出してきたこのふたりの指摘はごもっとも。危機感は日本でも感じている。

●ハリウッドの愚かさ、傲慢さを立証した本。

 本書に書かれた最近のハリウッド映画のビジネス・シチュエーション。例えば「リスクの高いものには、”他人の金”を使う」「求む! オリジナリティのない脚本?」「対外的には低く、作り手には高く、伝えられる製作費の迷宮」「”ゾンビ”や”ジプシー”を生み出す、VFX業界の厳しい現実」など、各章の見出しを目にしただけでも、その内情がうかがい知れようというもので、ここにまさしく「今、なぜハリウッド映画がダメなのか」が詰まっている。

 海外マーケットが作品の収支に大きな影響を与えると認識していながら、「海外で受けるのは、VFXをふんだんに使ったSF映画かアクション」という既成概念を変えようとしない、頭の固い、固すぎるお歴々を悩ますもうひとつの要因がある。映画、いや映像関連産業における、急速なデジタル化だ。これに関しても、ハリウッド・メジャー各社は海賊版の被害を危惧し、若者たちが今やスマホや携帯電話で映画を見ていることを嘆くばかりで、自ら主導権を執ってデジタルの急速な発展をコントロールしているようには見えない。

 つまるところ本書は、アメリカ映画界がいかに愚かで過去の成功例に囚われているか、いかに時代錯誤で傲慢であるかを、豊富な実例をあげて立証した書籍と言えるだろう。そしてこの本を読むべきは、ハリウッド・メジャーの上層部に属する人たちだ。竹書房は本書の英語翻訳バージョンを、アメリカで刊行してはいかがだろうか。

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