「明らかにイスラエルこそが投資すべき場所」 サムライインキュベート・榊原健太郎氏に現地インタビュー

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「明らかにイスラエルこそが投資すべき場所」 サムライインキュベート・榊原健太郎氏に現地インタビュー

イスラエルの産業の中心地、テルアビブのロスチャイルド通りから数メートル入ったところに、「サムライハウス」という建物があります。ここはサムライインキュベート社が運営するシェアオフィス。足を踏み入れた途端、社長の榊原健太郎さんが出迎えてくれました。

同社は2008年に榊原氏が創設したベンチャー企業を支援する会社で、会社のウェブサイトを見ると「義」「礼」「誠」「挑」といった漢字の書体とともに、数多くのベンチャー企業の鮮やかなロゴが並んでいます。

これらはすべて同社の投資先。2014年5月には世界トップ級のIT技術をもつ先進的なベンチャーを支援するため、日本の枠を飛び出し、ここイスラエルに事務所を開設しました。(文:夢野響子)
「日本文化の博物館」のようなオフィス構え

サムライハウスの壁や天井には、所せましと日本の品物が並んでいます。金屏風の浮世絵ポスターや書が貼られ、モダンな提灯風の照明が天井から下がっています。

ある小部屋には侍の刀が、別の小部屋には手裏剣が、壁のアクセントになっています。富士山の描かれた暖簾をくぐって、ミーティングルームから螺旋階段を上ると、そこからは「土足禁止」と書かれた日本部屋。ここに上がるイスラエル人も、靴はちゃんと脱ぐそうです。

棚には日本酒のコレクションも並んでいました。「なんだか日本文化の博物館みたいですね」と水を向けると、榊原さんは「もっと増やしたいと思っているんです」と嬉しそうです。

「2か月に一度くらい日本へ帰るたびに、25キロ分ぐらい持ってきます」

ちょっと意外な出だしのインタビューになりましたが、ここからは手裏剣部屋での質疑応答です。もう何度も聞かれていることと思いつつ、どうして今イスラエルなのか、あえて尋ねてみました。この問いに、榊原氏はこう答えてくれました。

「いやあ、それはもうどのデータを見ても、逆にどうしてイスラエルじゃないのかという質問が出てくるくらい、明らかにイスラエルこそが投資すべき場所なんです」

「ノーベル賞受賞者数」「米国の貿易総額」など投資の材料が続々

彼は「いつもこの画面を見ていただいて説明しているんですが」と、ノートパソコンにチャートを表示してくれました。そこには数々のファクトが並んでいます。

*ベンチャーキャピタルの投資額の多さ(2014年には約4000億円)
*技術者・科学者の数の多さ
*新設企業数の多さ
*ノーベル賞受賞者数
*米国の貿易総額の20%がイスラエルの会社であること 等々

ここに並んでいるのは「動かしようのない、イスラエルに投資すべき理由ばかり」とのこと。確かに日本企業は、これまでイスラエルへの進出を行ってきませんでしたが、榊原氏は、こんな言葉で興奮を伝えてくれました。

「イスラエルは、運命が僕のためにとっておいてくれたんじゃないか、とさえ感じています」

名古屋にある「生田屋琴三味線店」の5代目として生まれ、関西大学で産業社会学を専攻。大学在学中に起業した当時は、イスラエルのことは全く知らず、そこで事業を行うことは頭になかったそうです。

「学生時代、僕はFacebookやTwitterのようなものを作りたいと考えていました。IT系のグローバルな企業を起こしたいと思ったんです。今の大企業のソニーやトヨタなども、行く末はみんなIT系に飲み込まれるだろうなと考えていました」

当初は日本のスタートアップ支援を想定していましたが、自分の夢を叶えるのは「日本からではまだ難しい」と感じ、3年ほど前に世界15カ国を回って「どこに行ったらいいか」と考えました。

「もちろんアメリカのシリコンバレーにも行きましたが、誰もやっていないところという意味で、最終的にイスラエルを選びました」

「日本企業は怖がって来ない。僕らを通じて投資している」

2009年に集まった資金は、5150万円。それが現在の第5期ファンドでは、2000万ドル(約24億円)近くになると予想されています。サムライインキュベートはその半分を日本へ、半分をイスラエルの100社に10万ドル(約1200万円)ずつ、数年間にわたって投資する予定です。

100社に分けて投資する理由は、「複数のスタートアップ企業に少しずつ投資することで、コミュニティが形成されるから」。その方が、少数の企業へ多額を投資するよりいいのでしょうか?

「はい、日本でもそういう方法でやってきました。コミュニティができると互いに助け合うようになりますし、いい意味で競争心がうまれれば、お互いをプッシュし合って成長することもできます。数は力です」

援助している会社がたくさんあれば、いつもどれかについて取り上げてもらえるので、人目につきやすいというメリットもあるようです。すでに知名度が上がり、「日本の上場企業から声をかけていただいて」資金が集まっているとのこと。

「彼らが欲しくてたまらない技術をもっているイスラエル企業がありますし、彼らは怖がってちょっと中東へ来ないので、僕らを通して投資するのです」

イスラエルからの反応は「たいへん好意的で、驚いています」ということです。

「去年の夏にサムライハウスをオープンした当初は、誰も相手にしてくれないんじゃないかと思っていました。でもイスラエル人は日本にとても好意的で、敗戦から復興して経済大国になったことをとても尊敬しています。僕は名古屋の人間で、名古屋には人との親密さがあるんですが、外国でそれを感じられるのはこのイスラエルだけです」

SNSで「誤解された中傷」を受けることも

事業は順調に進んでいるようですが、これまでに何か困ったことや大変だったことはあるのでしょうか。榊原氏は「ソーシャルメディアで、誤解したことを書きこまれたりしたことはあります」と打ち明けてくれました。

「イスラエル企業を援助していると言っただけで、親パレスチナの人たちに中傷されることもあります。しかし当社はパレスチナの会社も含めて、民族も宗教も関係なく援助しています。イスラエル以外にも、例えばトルコのスタートアップの援助もしています」

イスラエルにオフィスを構えたことで「物価が高いこと」には困っているようです。「これで物価が安ければ、本当にいい国です」。

今後の展望について、榊原氏は「僕は、石の上にも5年でいきます」と明言しました。5年以上はイスラエルに留まり、現地スタッフを採用して現地の管理者ができたら、他のアジアの国を開拓に行くだろう、ということです。

日本企業はイスラエルに来ないことについては、「中東というとみんな同じに見られていますから」と残念がっています。ガザ攻撃のあった2014年夏にも、日本から来る予定だった人たちは軒並みキャンセルしたものの、彼は現地に留まりました。

「もともと壁を乗り越えることが好きで、もうダメかなと思うことがあっても、それをモチベーションにしてやっています。この地域の問題は、経済も原因になっている。だから僕たちが援助して地域全体の経済がよくなっていけば、それが平和へとつながるのではないかと、ちょっと話が大きくなるんですけど、それをやりがいにしているんです」

力いっぱい働いているのがよくわかり、ここで現代のサムライに会えたなという気がしました。インタビューを終わって、玄関へのドアへ向かうと、どこから探してきたのか、「ご来店ありがとうございました」の垂れ幕がかかっていました。

あわせてよみたい:イスラエル企業が開発する超速ナノテク充電器
 

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