今週の永田町(2015.4.7~14)

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【2015年度本予算が成立】

 先週9日、参議院予算委員会で、一般会計総額96.34兆円(前年度当初予算比0.5%増)の2015年度本予算案に関する締めくくり質疑と採決が行われ、与党などの賛成多数により可決した。その後、参議院本会議に緊急上程され、2015年度本予算は可決、成立となった。

これにより、3月30日に成立した、4月1日から11日間分の諸経費などを盛り込んだ暫定予算は失効し、本予算から執行されたとみなされることとなった。

 安倍総理は「地方の創生、被災地の復興、子育て支援、難病対策。そうした政策を力強く進めることができる。景気回復の暖かい波をしっかりと全国津々浦々に届けるため、全力を尽くしたい」と述べ、円滑かつ着実な予算執行で景気を下支えしたい考えだ。 

 一方、本予算に反対した野党は、「本当に地方が元気になるのか疑問」(民主党の細野政調会長)、「財政再建はあまり考慮されず、身を切る改革や行財政の抜本改革もない」(維新の党の片山総務会長)、「消費税を増税しながら社会保障を切り捨て、大企業に減税をばらまき、軍拡に走る悪い予算」(共産党の山下書記局長)、「働く者、国民生活を犠牲にした予算」(社民党の吉田党首)などと批判した。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 

2015年度本予算は、「地方創生」「女性の活躍推進」「防衛予算の充実」など、安倍内閣の政策路線が色濃く反映された内容となっている。

地方創生関連では、総合戦略に係わる分として7225億円を充てたほか、1兆円の予算枠(まち・ひと・しごと創生事業費)を新たに計上した。また、地方税収や交付税などを原資に自治体が自由に使える地方一般財源の総額は、過去最高の61.5兆円となった。

 女性の活躍推進関連では、今年度当初比1000億円を増額し、待機児童解消(7023億円)、女性の貧困対策(就労・自立支援などに400億円)、正社員への昇格を希望する女性らを支援する「正社員実現加速プロジェクト」(321億円)などを盛り込んだ。

 

政策経費72.89兆円(今年度当初比0.4%増)の約4割を占める社会保障費は、高齢化の進展に伴う自然増を介護報酬改定や生活保護の支給基準の見直しなどで圧縮したものの、子ども・子育て支援の拡充などが盛り込まれたことで、総額31.53兆円(今年度当初比3.3%増)と過去最大になった。

また、防衛関係費に尖閣諸島などの領海警備・警戒監視体制の強化や島嶼防衛の強化・装備品調達などを盛り込み、4.98兆円(在日米軍再編経費含む、今年度比2%増)と過去最大となった。このほか、公共事業費は前年度当初予算比で横ばいに、文教・科学振興費は前年度当初予算比1.3%減に抑えた。

 

 歳入面では、企業業績の改善などにより約54.53兆円(今年度当初比9.0%増)の税収を見込んでいる。これにより、歳入不足を補う新規国債発行額は、約36.86兆円(赤字国債:30.86兆円、建設国債:6兆円)に抑えられた。

歳入に占める国債発行額の割合を示す公債依存度は38.3%(4.7ポイント減)に低下、新規国債発行をせずに政策経費(国・地方)をどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)赤字の対国内総生産(GDP)比は3.3%程度となる見込みだ。

 

 ただ、依然として予算総額の4割弱を国債に依存する状況が続いている。また、消費税率10%への引き上げの先送りなどにより、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化させる財政健全化目標の達成の道筋がついていない。

新たな財政健全化計画を今年の夏までにまとめる方針で、政府・与党は議論を本格化させる。政府の経済財政諮問会議(議長:安倍総理)は、税収増や国有財産の活用などの「歳入改革」、社会保障や地方財政などの「歳出削減策」を健全化計画に盛り込む方向で検討しているようだ。自民党も、独自の計画策定に乗り出している。

今後、経済の好循環を確かなものにしつつ、「社会保障関係の歳出をいかに抑制するか」(麻生財務大臣)も含め、実効性のある具体策を示せるかが焦点となるだろう。

 

 

【安全保障法制整備に関する与党協議会が再開】

 通常国会後半の主要争点となる安全保障法制をめぐっては、政府が5月14日または15日にも関連法案を閣議決定のうえ国会に提出する方針で、3月20日の与党合意に即して法案化作業を進めている。14日、自民党と公明党は、安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)を再開し、政府が提示する法案条文にもとづく最終調整に入った。

 

14日の協議会では、政府が関連法案の全体像を示した。日本の平和と安全のために活動する他国軍を後方支援するため、現行の周辺事態法を大幅改正して名称を「重要影響事態安全確保法」に変更して、事実上の地理的制約となっている周辺事態を「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)」へと再定義し直す。また、日米安保条約の効果的な運用に寄与し、重要影響事態に対応して活動する米軍および米軍以外の他国軍に、給油や輸送、弾薬提供などの後方支援を随時可能にする。

国際社会の平和と安全のために活動を行う他国軍隊に対する後方支援として自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法の名称を「国際平和支援法」とし、有志国による人道復興支援や治安維持など国際連合が統括しない活動もできるよう、国連平和維持活動(PKO)協力法の名称を「国際平和協力法」に変更する。国連が関与しない人道復興支援活動について、欧州連合(EU)や国際司法裁判所などの要請でも自衛隊派遣が可能とするよう提案した。

自衛隊の海外派遣に慎重な公明党が歯止めの一つとして求めている国会の関与については、「事前承認を基本」としつつも、国会閉会中や衆議院解散時は事後承認を認める例外規定を盛り込むよう提案した。国会承認にあたっては、派遣理由や活動内容、大まかな活動範囲、部隊の規模・装備、自衛官の安全確保策などを盛り込んだ「基本計画」を閣議決定のうえ国会報告(詳細な活動地域を盛り込んだ実施要項は非公表)を義務付ける。

事後承認を認める例外規定を設ける点について、例外なく事前承認とするよう主張してきた公明党は「解散時は参議院で緊急集会を開くことも可能で、事後承認の規定は本当に必要なのか」と疑問を呈したため、引き続き協議することになった。

 

憲法9条の下で許容される集団的自衛権については、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される事態などの「武力行使の新3要件」(昨年7月の閣議決定)にあてはまる事態を「存立危機事態」と位置づけ、武力攻撃事態法に武力行使が可能な事態の定義などを盛り込む。

公明党は、自衛隊が武力行使しうる集団的自衛権の行使はより限定的にすべきと主張し、第2要件「国民を守るために他に適当な手段がない」を自衛隊法改正案や武力攻撃事態法に明記するよう求めていたが、結論は先送りとなっている。当初、政府・自民党は、条文に明記する必要はないとしていたが、集団的自衛権の行使に慎重さを求める公明党に配慮して条文に明記する可能性がでてきた。

 

 

【野党も安全保障法制の対案づくり】

自民党と公明党は、日米両政府が外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を27日に米国で開催して安保法制と連動する日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定で合意、28日に安倍総理が訪米してオバマ大統領との首脳会談に臨む予定であることから、今月末までに関連法案の要綱をとりまとめて大筋合意することをめざして、協議会を週2回ペースで開催して作業を加速させることを確認している。

 とはいえ、政府・自民党と公明党の間で主張に隔たりから、積み残された課題もある。今後の与党協議では、自衛隊海外活動の3原則(国際法上の正当性、国民の理解と民主的統制、自衛隊員の安全確保)を関連法案の条文でいかに担保するかを中心に、以下のような点が主な争点となるようだ。

○重要影響事態の概念をどこまで明確にするのか(公明党が主張する一定の地理的制約が維持されるか否かも含め)

○恒久法で定める自衛隊の海外派遣手続きとして、国会の事後承認を認めるか否か

○国連が関与しない人道復興支援活動で他の国際機関の派遣要請を容認するか否か

○武力行使の新3要件をどこまで条文に書き込むのか

 

一方、民主党や維新の党は、国会論戦に備えるべく、安全保障法制の対案づくりをそれぞれ進めている。

民主党は、恒久法の整備に反対で、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処する「領域警備法」の整備、自衛隊の駆け付け警護や任務を遂行する際に妨害を排除するための武器使用を容認する「国連平和維持活動協力法」の改正などを検討している。集団的自衛権の行使をめぐっては、限定容認論と反対論とが混在しており、いまのところ意見集約には至っていない。

 維新の党は、領域警備法の整備を民主党とともに検討しており、国際社会の平和と安全のために活動を行う他国軍隊に対する後方支援として自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法については独自案を提出する方向で検討しているという。

 

こうした法案内容とあわせて注目されているのが、国会での審議時間をめぐってだ。安倍総理は、通常国会中の成立に強い意欲を示していることから、与党は、連日審議することが可能な特別委員会を衆参それぞれに設置して法案審議に臨む方針でいる。

当面の国会日程は、与党ペースで進む可能性が高いが、後半国会は与野党対決法案が目白押しで、野党側も対決姿勢を強めていくことも考えられる。すでに、民主党などが関連法案の成立を急ぐ与党の姿勢について批判している。また、与党内からも、安全保障法制の整備にあたって「丁寧な審議に応じる姿勢を示すべきではないか」と、強引な国会運営は避けるべきとの声が上がっている。

このことから、自民党は、十分な審議時間を確保する点から、通常国会の会期を8月上旬まで延長する方向で検討している。ただ、通常国会の会期延長は1回しかできないことから、他の法案審議への影響も踏まえ、会期末(6月24日)近くに延長幅を判断するようだ。

 

【献金規制、野党が実務者協議開催で合意】

通常国会前半で焦点の一つになっていた国の補助金を受けた企業・団体の政治献金問題について、野党側は、政治資金規正法の改正に消極的な安倍総理や自民党に対し、「閣僚に政治とカネの問題があるのに、自民党には反省し、制度改正する姿勢が見えない」(民主党の細野政調会長)、「イニシアチブを取ろうという考えがない」(維新の党の片山総務会長)、「企業団体献金は政治を金の力で変える賄賂性を持っている。全面禁止に踏み切るべきだ」(共産党の山下書記局長)などと批判している。引き続き、より厳しい再発防止策や企業・団体献金の規制策を求めていきたいとしている。

 

民主党は、10日、国が補助金を受けた企業・団体に1年間の献金禁止を通知することや、政治家側に企業・団体に補助金受給を確認する文書を出すことの義務づけなどを柱とする政治資金規正法改正案を衆議院に提出した。民主党の改正案では、災害復旧や試験研究・調査などの補助金を受け取る企業・団体からの政治献金を例外的に認める規定を削除し、独立行政法人など国以外の団体を経由した補助金も規制対象としている。例外とする場合、個別の立法措置によって定めるとしている。違反者への罰金は、現行の「50万円以下」から「100万円以下」に引き上げる。

当初、民主党は、他の野党と協議のうえ政治資金規正法改正案を一本化して国会に共同提出する道を模索していたが、14日の野党国対委員長会談で他の野党に協力を呼びかかることとなったため、すでに企業・団体献金を全面禁止する政治資金規正法改正案提出している維新の党や共産党の同様、単独提出することにした。

 

企業・団体献金の全面禁止を主張する維新の党、政治資金パーティー券購入(実費分の徴収除く)も含め企業・団体献金の全面禁止を主張する共産党に対し、与党と協議できる状況をつくることを優先したい民主党は、企業・団体献金の全面禁止を企業・団体によるパーティー券購入禁止と併せて検討する将来的課題としている。

このことから、野党間で規制強化などについて一致点を探るべく、14日の野党国対委員長会談で、野党5党の実務者協議を近く開催することで合意した。また、民主党・維新の党・共産党それぞれの改正案を衆議院政治倫理・公職選挙法改正特別委員会で審議入りするよう、与党側に求めていくことでも確認している。

 

 

【委員会付託・審議入り状況の確認を】

予算成立を受け、安倍総理は、通常国会の後半について「この国会を私たちは改革断行国会と位置づけている。農政や働き方、電力、医療制度など戦後以来の大改革を進めていく。国民の命を守るための安全保障法制もしっかりと取り組んでいきたい」と述べ、通常国会中の成立に強い意欲を示した。今後の焦点は、柔軟かつ多様な働き方へと広げる「労働者派遣法改正案・労働基準法改正案」、集団的自衛権行使の限定容認を含む「安全保障関連法案」、農業・農協改革を推進する「農業関連法改正案」などに移る。

衆参両院の各委員会で審議され始めている。今後、どのような法案が付託・審議されていくのかなどについて、まず確認しておいたほうがいいだろう。
 

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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