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不思議な離婚事件

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 弁護士になって間もないことだったが、知人の紹介の紹介で50歳代の女性から離婚の相談を受けたことがある。初めての離婚事件受任だった。会議室で女性からの話を聞くと、おおよそ次のようなものだった。

 ご主人はとある地方公務員なのだが、どうも別の女性の影がちらつき、仕事のある日は毎日のように飲んできて帰りが遅いし、その連絡も寄越さない。話もなくなり一緒に暮らすのはもう嫌なので離婚をしたいという相談だった。あまりにも抽象的な話だったから、私の方からいろいろと質問をすることにした。

 婚姻つまり結婚生活の要素として、一般的には、
(1)精神的結合
(2)経済的結合
(3)肉体的結合
があげられている。精神的結合とはお互いに信頼しているということ、経済的結合とは金銭のこと、肉体的結合とは正に肉体関係のことである。純理論的には、これらの要素のいずれかを欠くに至った場合には婚姻の実態がなくなるので、離婚を認めることになりそうである。
 そこで民法770条1項はこれらの要素に関係する事項を離婚原因としている。しかし、他方で離婚が及ぼす影響、例えば未成年の子供がいるなどのことを考えて離婚原因があっても一切の事情を考慮して離婚を認めないと規定している。そこで、依頼者からは、離婚原因に当たるものがあるかどうか、その事情はどうなっているのかを具体的事実として聞き出していかなければならない。

 ご主人との間に会話もなくなり依頼者が離婚を望む以上(1)精神的結合はないと考えてよいと思われた。しかし聞いているうちに、ご主人はすごくいい人だと言い始めた。また給料はきちんと入れてくれているとのことであった。肉体関係は必須で聞かなければならないと修習生時代に教わったのでこれを聞くと、「1週間に1度」との仰天の返事が返ってきた。

 突き詰めていろいろと聞いていくと、依頼者の要望は離婚そのものにあるわけではなく、ご主人に早く帰宅してもらいたい、女性関係についても私がそうかなと思うだけで確証があるわけではないと話が微妙に変化していった。しかもそのうちに、主人と一度会って、それこそ説教をしてくれないかということにまでなってしまった。弁護士が依頼を受けるのは企業法務などでの予防法務は別として、通常は事件性があるもので、それを法的にいかに解決するかが仕事である。もちろん、離婚を前提として調停・裁判前に協議離婚とできないかを相手方と交渉するという意味で相手方と接触することはある。

 ところが彼女は自ら離婚相談に来たにもかかわらず、しかもご主人に離婚の意思があるかどうかなどもまったくおかまいなく、私に夫婦関係が改善される斡旋を私に依頼してきたと分かった。その時点で、依頼者に対して「うちはよろず人生相談所ではありませんので、お引き受けできません」と丁重にお断りをした。ただ、今では、法律問題ではなくても一般人は弁護士を頼ってくるものだから、それに応えるべく、一度ご主人と一緒に来てもらって二人から話をきくなどのやりようがあったのかもしれないと反省している。
 その後彼女がどうなったのかは分からないが夫婦円満であることを祈る。

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