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【うちの本棚】254回 一万十秒物語/倉多江美

 今回「うちの本棚」で取り上げるのは、倉多江美の『一万十秒物語』です。
 これで「うちの本棚」にある倉多作品も最後。名残はおしいですが、最後にとびきりの作品で締めくくりたいと思います。

【関連:253回 上を見れば雲下を見れば霧/倉多江美】

一万十秒物語-ハードカバー

 『一万十秒物語』は、当初「花とゆめコミックス」の『樹の実草の実』に数編が収録されたあと、白泉社から単発のハードカバー単行本として『五日物語』を併録して刊行され、さらに「花とゆめコミックス」から全一巻の「倉多江美傑作集」として、ハードカバー刊行後に発表されたものを追加収録して全1巻として刊行された。さらにその後雑誌連載が再開されたため、1983年9月15日発行の第4刷から「1」の巻数がつけられ、全3巻にまとめられた。

 ハードカバー版の「あとがき」で作者が語っているように、本作のタイトルは稲垣足穂の『一千一秒物語』をもじってつけられていて、ショートショートコミックと呼ぶべき作品群だ。

 倉多は初期からギャグ作品も描いており、またシリアスな長短編も評価が高かったわけだが、結果としてそれらの要素を題材ごとに描き分ける本作のような連作がもっとも作風として合っていたのかもしれない。

 作品数が多いのでそれぞれについてのコメントは避けるが、ニヤリとさせられるシニカルな作品から純粋なギャグ作品、むむっと唸らさせられるシリアス作品とバラエティに富んでいて読み出したら止まらないといった印象のある作品だ。とはいえ、後半(新書判3巻)あたりにくるとネタにも困ってきたのか当時流行の歌謡曲を題材にした作品も散見される。このあたりの感性は『ぼさつ日記』のころから変わっていない印象を受ける。
『五日物語』も5話からなる連作で、歴史を舞台にしているが『一万十秒物語』と同形態の作品だ。全体としてシニカルなギャグ作品ということができる。

 今回倉多江美の作品群を十数年(もっとか?)ぶりに読み返してみたが、改めてこの作家には驚かされた。倉多の登場以前と以後では少女漫画におけるギャグの表現も変わったように思えるし、シリアス作品で取り上げた精神世界もその後さまざまなジャンルで取り上げられるようになっていった。それらのことはあまり指摘されてきたように思えないのだけれど(というより、リアルタイムで読んでいた読者にとっては言うまでもない、という意識があったのではないかと思える)、このあたりで改めて評価する動きがあってもいいように感じる。

初出:一万十秒物語/白泉社「ララ」昭和52年7月号、11月号~昭和53年6月号、昭和55年3月号~昭和56年12月号、昭和57年3月号~昭和60年3月号、新書判1巻収録の『ゴミドリくん』は描き下ろし。五日物語/朝日ソノラマ「マンガ少年」昭和53年1月号

一万十秒物語 一万十秒物語2 一万十秒物語3
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