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織本順吉 思いを託してセリフ言うときは、その前に息を吸う

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 学生時代、演劇部が腹式呼吸と発声の練習をしていた様子を覚えている人も多いだろう。役者歴66年になる織本順吉(88)は、呼吸とセリフと芝居の関係について、最近になってまた、考えを新たにしたと語る。織本が呼吸とセリフについて語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。

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 織本順吉の役者人生は、今年で66年になる。それでもなお、演技に対する探求心は飽くなきものがあるようだ。

「最近になって思うのは、呼吸の合間に言う言葉がセリフなんだということです。ですから、僕が今一番大事にしているのは、セリフを言う時の呼吸法です。

 息を吐いてセリフを言うと、感情が体の中に染み込んでこないんですよ。でも、息を吸ってからセリフを言うと、大したことを考えていなかったとしても、その吸い込む間に観る側が勝手に想像してくれるんです。『この人には厳しい過去があったんじゃないか』とか。

 ですから、想いを託してセリフを言う時は、その前に息を吸い込むことにしています。あるいは、セリフのない場面、たとえば英雄とか哲学者が高尚なことを頭の中で反芻するというような芝居でも、そうです。そういうのは表情だけでできるわけではないので、グッと息を引いて止まると、そういう風に見えてくる。息を吐く時は、極端に言うと『てめえ、この野郎』と喧嘩をする芝居ですね。こういう時は、頭の中に知恵は働いていませんから。

 話を聞く時も同じです。相手の話をちゃんと聞いてない時は息を吐きながら聞く。そうすると信用していない感じが出ますし、引く息で聞くと本気で聞いている感じになっていきます。

 よく『存在感がある』と言いますが、息を吐くセリフの時は存在感は観る側には伝わりません。例えば、相手と怒鳴り合いをしている状態では何も響きませんが、そこからいきなり小さな声で『お前な……』とやると、響いてくるでしょう。それが画面での存在感になります」

 今でも現役としてテレビドラマに出続けているため、大きく年齢の離れた俳優と共演することも多い。

「今のテレビドラマですと、二人で芝居していても、こっちに聞こえてこないような小さな声で芝居する俳優が増えてきています。若者じゃなくて、大人でもね。ある時、若い女優さんとの場面で、何回やっても全く聞こえてこないことがありました。それで監督に『僕と彼女の二人の間でコミュニケーションとれなきゃ、俺はセリフ言えないよ』と言ったことがあります。

 今は胸元にピンマイクを付けるから、小さな声でも拾えちゃうんですよね。それで、小さな声でやっていると、モノローグを喋っているみたいになって、なんとなく真実味があるような錯覚を起こすんですよ。それっぽい芝居に見える。で、それに酔っちゃうわけですよ。でも、それは実は相手に伝わっていなかったりする。相手にちゃんと聞こえなきゃ、セリフは成り立ちません。

 以前、中井貴一君と一緒にやった時にその話をしたら、彼も『僕もそう思うから、せめて部屋の中での撮影だけでもピンマイクをやめてくれと頼んだことがあります』と言っていました。

 僕らが録っているセリフというのは、『日常的なセリフ』なんですけど、『日常そのもの』ではないわけです。フィクションの中のリアリティが必要です」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。主な著書に『天才 勝新太郎』、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載に大幅加筆した単行本『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2015年4月3日号


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