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糞便移植「うんこを水に溶かして体内に入れる」単純さが強み

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 突然の腹痛に襲われ、慌ててトイレを探す。健康な人でも経験することだが、それが1日何回も、しかも毎日だったらたまったものではない。そのような症状を引き起こす「潰瘍性大腸炎」で、この国の宰相は一度は職を辞したほどだった。その患者の救世主となるのは、なんと「他人のうんこ」かもしれない。

 健康な人から糞便を提供してもらい、それを水に溶かした後に大腸内視鏡やチューブ、カプセルを使って患者の腸内に移植する「糞便移植」の臨床研究が進んでいるからだ。

 大腸には約120兆匹という莫大な数の細菌が存在し、健康を維持するために重要な体の免疫機能に大きく関与しているといわれる。順天堂大学医学部・消化器内科で糞便移植の臨床研究責任者を務める石川大・助教はこう語る。

「潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜が炎症を起こし、潰瘍やびらんができて激しい腹痛や下痢、血便などを引き起こす病気です。原因不明であり、現状では薬の投与による治療が一般的です。

 ただ最近の研究で、ある腸内細菌が腸の炎症を抑える作用を持っていることがわかってきました。健康な人の糞便を潰瘍性大腸炎の患者に移植することで腸内環境が変わり、症状が改善すると考えて臨床研究を行なっています」

 順天堂大学が実際に行なっている糞便移植の治療手順はこうだ。

 まず、糞便提供者(ドナー)を探す。原則として、ドナーも患者も20歳以上が対象だ。ドナーは太りすぎていない、患者の2親等以内の家族または配偶者と順天堂大学は定めている。石川氏がこう説明する。

「提供者を家族に限定しているのは、他人のものより家族の糞便のほうが患者が安心できると考えているからです。潰瘍性大腸炎にストレスは大敵。少しでも患者の負担を減らすため、家族のものを利用するわけです。ただし医学的には健康なドナーであれば家族以外のものでも問題はないと考えています」

 ドナーは事前に、肝炎やHIVなどの感染予防のため、採血検査のほか、健康状態や既往症、生活歴をチェックされる。事前チェックをクリアしたら、治療当日に提供者に排便後6時間以内の糞便を持参してもらう。もちろん、その糞便の検査も行なう。

「健康に被害が及ぶと考えられる細菌、ウイルス、寄生虫の有無をチェックします」(石川氏)

 糞便の量は150~350gが目安。それに生理食塩水400mlを加えて、網目状の器具で突いて砕き溶かしていく。続いてドロドロの液状になった糞便を、ガーゼなどのフィルターでろ過して大きな塊を除去する。

「便をろ過するのは、内視鏡で注入する際の目詰まりを防ぐためです。内視鏡の目詰まりさえ考えなければ、そのまま注入しても問題はありません」(同前)

 その糞便溶液をシリンジ(注射器の筒状の部分)に入れ、大腸内視鏡を通して一番奥、盲腸のあたりに注入する。欧米では上部内視鏡、いわゆる胃カメラを通じて上から十二指腸に糞便を注入する方法が主流だが、それだと大腸に便が行き着くまでに細菌が死んでしまう恐れがあるため、石川氏は下から入れているという。

 その後は2週間ごとに糞便検査と血液検査を行ない、経過を観察していく。

「移植」という言葉から複雑で高度な技術を要するかと思いきや、意外に単純で原始的とさえ思える治療法だ。特別な薬剤も用いず、“うんこを水に溶かして入れる”だけである。石川氏はその「単純さ」にこそ糞便移植の強みがあると語る。

「薬物治療ではないので薬の副作用がありません。また、注入するだけなので時間もコストもかからない。

 一方、まだ認知度が低く、治療とはいえ他人の糞便を体に入れることに抵抗感が伴うことがデメリットです」

 オランダ・アムステルダム大学などの報告では、317人に糞便移植を行なったところ深刻な副作用はなく、3人が腹膜炎や腸炎などを訴えただけだったとしている。

※週刊ポスト2015年3月20日号


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