ソーシャル時代の新常識 口コミと共感でつなげる新消費者行動モデル“VISAS”

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ASSIOMA

今回は大元 隆志さんのブログ『ASSIOMA』からご寄稿いただきました。

ソーシャル時代の新常識 口コミと共感でつなげる新消費者行動モデル“VISAS”
インターネットの普及と共に、eコマースの代表的なマーケティングモデルとし て位置づけられていた『AISAS』。今、インターネットを取り巻く変化に伴い、検索エンジンを前提とした 『AISAS』から、新たなマーケティングモデルが求められています。それは、バイラルを前提とした 『VISAS』です。

・変化の兆候
今、インターネットでは大きな変化が起きています。インターネットでユーザーをホームページに呼び寄せるために最も有力なもの、それは“検索エンジンである”というのが、インターネットが登場して以来、変わることのない定説として考えられてきました。

そのため、いかに検索エンジンの検索結果で上位に表示されるか? ということを考えることがサイト運営者にとって非常に重要な業務でした。この検索結果を上位に表示させるためのサイト作りを行うことを“SEO(Search Engine Optimization)”といいます。
 
ウェブサイトの黎明期、“いかにユーザーに見てもらうか”という視点で作られてきたウェブサイトは、いつしか“いかにSEOで上位に表示されるように作成するか”を重視するようになっていきました。
 
どんなに見映えの良いすばらしいユーザーインタフェースを持ったウェブサイトを作っても、ユーザーが来てくれないのなら意味がない。だから検索エンジン様のためのサイト作りをするのが大切で、ユーザー視点はその次でよい。しかし今、この定説を覆す傾向が明らかになりました。

・SEOによる集客効果を上回ったソーシャルメディア
2010年3月。インターネットの歴史に残るであろう、一つの事件が起きました。検索エンジンの中でトップシェアを誇る『Google』以上のトラフィック流入力を誇るサイトが現れたのです。それは、全世界で5億人のユーザー数を誇る世界最大のSNS『Facebook』です。

調査会社Hitwiseの報告によると、2010年3月第2週の米国のウェブトラフィックに占める『Google』のシェアは7.03%、『Facebook』 は7.07%。『Google』のシェアはほぼ横ばいで推移していますが、『Facebook』は右肩上がりに急速にシェアを伸ばしていることがグラフから見てとれます。『Facebook』の過去1週間のトラフィックは前年同期と比べると185%増であり、同じ期間の『Google』のトラフィックの伸び率は9%増でした。

ソーシャル時代の新常識 Viralと共感でつなげる新消費者行動モデル“VISAS”

出典:「Facebook Reaches Top Ranking in US」『Hitwise』
http://weblogs.hitwise.com/heather-dougherty/2010/03/facebook_reaches_top_ranking_i.html

・なぜ変化は起きたのか?
インターネットには様々な情報が集まっています。しかし、その中身は一部の人には意味のあるものですが、多くの人にとっては価値のない情報が大半を占めています。

例えばインターネットを飛び交うメールの大半はスパム業者のメールで占められています。ウェブ2.0で大流行したブログには、毎日多くの人々の私的な記録がつづられているにすぎません。ニュースサイトにいけば見たくもないCMを強制的に見せられて、企業ウェブサイトを訪れればIR向けの情報は充実していますが、肝心な顧客視点で知りたい情報は掲載されていません。

日々大量に追加されるこれらのコンテンツから、価値ある情報を見つけ出すのは大変です。この大量の情報の中から、あなたにとって価値あるものを探し出すために、『Google』は世界一の検索技術であなたの宝探しに力を貸しています。宝探しをする時に『Google』は“ほんのちょっと”広告を表示することで、莫大(ばくだい)な利益をあげています。

しかし、『Google』は“ここら辺に、良さそうな宝物があるよ”という広大な地図を手渡ししてくれるにすぎません。最近の増えすぎた情報に対して、『Google』の手渡してくれる宝の地図では“なかなかお宝にたどりつけない”という状況に陥ってきているのではないでしょうか。そのたびにあなたは、『Google』に違うキーワードでたずねて、前回とは違う宝の地図をもらい、またそこからお宝を探しにさまようことになるのです。

『Google』から手渡された広大な地図を何度も受け取って、お宝にたどり着けなかった時、あなたはこう思うでしょう。「お宝だけ見たいのに」と。

・価値ある情報は全てソーシャルメディアに取り込まれる
『Facebook』の[Share]ボタン、[Like]ボタン、ファンページを利用していると、ふと気づくことがあります。これらのツールはインターネット上から有益な情報のみを抽出するためのフィルターなのだと。そう、インターネットの広大な砂漠から、あなたの友人が探し出してきてくれた“お宝”だけが表示される仕組みなんですね。そして『Facebook』に続いて世界的に人気を博している『Twitter』も、ウェブ上から選りすぐっただれかに伝えるべき情報を伝えてくれるツールです。

あなたがスパムメールを見て[Like]と押すでしょうか? 答えは“No”でしょう。みず知らずの他人の私的な日記を読んで「つぶやきたい」と思うでしょうか? そんな気にさせる日記もあるでしょう。しかし残念ながら恐らく大半の場合“No”でしょう。「これは私の友人とも共有したい!」と感じる瞬間、インターネットをさまよっていて、ちょっとした小さな奇跡の連続で“お宝”にたどりついた時に、[Like]ボタンを押したくなり、「つぶやきたい」と思うのではないでしょうか。

この行為が意味するもの、『Google』はあなたが広大な砂漠の中から、小さな宝石を探し出すために宝石のありそうな場所を提示してくれます。『Facebook』や『Twitter』等のソーシャルメディアはだれかが探し出した“小さな宝石”をあなたに渡してくれます。

あなたは、どちらが良いですか?

今、『Google』が支配する広大なウェブという名の砂漠から、『Facebook』という名の宝の山を集めたオアシスが誕生しようとしています。そして、その宝の山にたどり着くために、『Google』ではなく『Twitter』から呼び込まれようとしています。

時代はSearch(検索)から、Viral(口コミ)とSympathy(共感)へ移ろうとしているのです。

・“SEOからソーシャルメディア”がもたらす本質的変化
では、トラフィック流入力がSEOからソーシャルメディアに変化するとしたら、一体何が変わるのでしょうか?

それは“コスト”です。

SEO対策と呼ばれる手法は、大変お金が必要だと言われています。検索エンジンのアルゴリズムが変化すれば、それにともなって新たなSEO対策を行う必要がありますし、他社も同様にSEO対策を行えば、それを上回るSEO対策を実施しなければなりません。そのため、一度実施して終わりというものではなく、対策を継続して実施することが求められます。

企業によっては、SEO対策に専門の人員を用意しているケースもありますが、外部に委託するとなると、月間維持費で安いもので月額5万円から、高いものでは300万円を超えるケースもあり、非常にお金がかかるということがおわかりいただけるのではないかと思います。

対して、ソーシャルメディアによるトラフィック流入を考えた場合のコストはどうなるでしょうか?ソーシャルメディアによるトラフィックの流入の源泉、それが“口コミ”だとしたならば、そのコストは“限りなく低い”といえるでしょう。

まとめると、下記のように考えることが可能です。
‐ SEO対策による集客 = 高価
‐ ソーシャルメディアによる集客 = 安価

しかし、本当に大切なことは“コスト”ではありません。単純にコストが安くなるという安易な理由でソーシャルメディアを活用しようとしたとしても、簡単には成功しないでしょう。

口コミを生むために大切なこと。そう、お金ではなく“人の心に訴えかける”ということを考えていなければ、ソーシャルメディアの時代で成功することは難しいでしょう。

お金をかけてSEO対策を行い、ユーザ視点が薄れつつあった現在のウェブサイト作りから、いかにユーザ視点で“口コミ”をしたくなるウェブサイト作りを行うかが重要になるということです。これはウェブサイトに限らず、コンテンツ等の制作でも同じことです。

お金ではなくユーザを大切にする“ハート”が“口コミを生み出す”ということを理解することが重要だということですね。

・AIDMAの法則とAISAS
消費者が「この商品を購入する」と決定するまでに、どのような心理的変化が発生し、商品発見から商品購入へ向うのかを表現した心理的プロセスモデルに『AIDMAの法則』と呼ばれるものがあります。

消費者の消費行動プロセスは
AIDMA
‐ Attention(注意)
‐ Interest(関心)
‐ Desire(欲求)
‐ Memory(記憶)
‐ Action(行動)
この五段階に変化する、という各動作のアルファベットの頭文字を取ったもので、アメリカのローランド・ホールが提唱した“消費行動”の仮説です。

これが、検索エンジンが支配するインターネットのオンラインショッピングについては、AISASに変わると電通が提唱しました。

AISAS
‐ Attention(注意)
‐ Influence(影響)
‐ Search(共感)
‐ Action(購買)
‐ Share(共有)

ソーシャル時代の新常識 口コミと共感でつなげる新消費者行動モデル“VISAS”

検索エンジンが主流のインターネット上でのショッピングでは、人々が何らかの理由によって、ある特定のジャンルや商品に興味を持ったとすると、“Search”して、購買するというものです。そして、購買した後で商品に対するレビューやブログを書いたりする事で、その商品の情報を他社と“Share”します。

このAISASの消費行動プロセスがSEO対策全盛の時代においては重要だと考えられてきました。

・ソーシャルメディア時代AISASからVISASへ
しかし、“口コミ”が大きな力を持つ、ソーシャルメディアでは、AISASではなくVISASになると私は考えます。

VISAS
‐ Viral(口コミ)
‐ Influence(影響)
‐ Sympathy(共感)
‐ Action(購買)
‐ Share(共有)

ソーシャル時代の新常識 口コミと共感でつなげる新消費者行動モデル“VISAS”

認知は他者からの“Viral(口コミ)”によって訪れます。そして、口コミをしてきた人物に“Influence(影響)”され、“Sympathy(共感)”すれば、“Action(購買)”につながる。そしてその結果を“Share(共有)”する。何かを欲しいと感じるのは“Search”ではなく、自分の信頼する、または仲の良い友だちからの“Viral(口コミ)”が重要になる。

ICTの進化は“SEO”という“超ハイテク”から、“口コミ”という“超ローテク”に力を与えることになったという、なんとも奇妙な結果をもたらすことになりました。

・AISASとVISASの本質的な違い
AISASとVISASによる、消費行動プロセスの違いを理解することは大切です。しかし、決定的に違う点が一つあります。

AISASは自分が欲しいと思っていたのみを求める“自己認識による行動”であり、VISASは“口コミによる他者による喚起”がきっかけとなっているため、“それが自分に必要だ”と気づいていなかったものに気づかせてくれる“潜在ニーズの発掘”が可能であるという点です。

ソーシャル時代の新常識 口コミと共感でつなげる新消費者行動モデル“VISAS”

趣旨は若干それますが、このAISASとVISASの本質的違いは理解しておいて、損はないでしょう。

・ソーシャルメディアからの流入が『Google』より圧倒的に多い当ブログのアクセス解析
ここで、実際にソーシャルメディアとサーチエンジンの流入力をはかる参考資料を紹介します。私のこのブログは1月28日に初めての投稿を行ってから、2010年7月17日時点で、75本のエントリーが存在します。

『Google Analytics』による開設当時からのアクセス統計では、約29万PVとなっており、1エントリあたりの平均PVは3866。一般的な個人ブログのアクセス数は平均して約10~100PV前後と言われていますから、おかげさまで一般的な個人ブログのPV数を大きく上回る結果となっています。

では、このブログへユーザの皆様を導いてくれているものは何なのでしょうか。下図にこの『ASSIOMA』というブログの開設当時からの参照元トップ5のグラフを示します。

ソーシャル時代の新常識 口コミと共感でつなげる新消費者行動モデル“VISAS”

1位は断トツで『Yahoo!ニュース』56%であり、次に『Twitter』18%、『はてなブックマーク』13%と続き、『Google』の検索による流入はわずか7%にすぎません。当ブログはまだできて間もないため、『Google』のページランクも低く、コンテンツの数も少ない。このような状況下で、検索エンジンからの流入は“期待薄”と言わざるをえません。もし、検索エンジンしかなかった時代であれば、『ITmediaオルタナティブブログ』のTOP30にランクインすることはなかったでしょう。

この結果の意味するもの、それは普通の一般人でも大金を投じてSEO対策や、マス広告を利用しなくても、数万人に自分の存在を知ってもらうことが容易になったということであり、一個人がプロモーションに関しては大企業と互角に戦える時代になったということです。逆に、大企業はマスメディアに多額の広告費を投じるのではなく、上手くソーシャルメディアを活用していかなければならないということです。

そして、マスメディアも、ソーシャルメディアという新しいメディアと競争することを考えるのではなく、共に新しい時代を作り出す“共創”することを考えていく必要があるでしょう。

・VISAS時代が産み出す可能性:マイクロセレブの時代が到来する
最後に私が思うVISAS時代の夢を紹介します。インターネットの世界で少し有名な人。数で言えば特定のジャンルの1500人位の人に知られる存在の人を“マイクロセレブ”と呼びます。

個人サイト、ブログ、『Facebook』、『Twitter』、『Youtube』様々な情報発信が可能な現在。これからの時代は音楽も映像も著書もデジタルになっていきます。だれでもアーティストになれる時代がおとずれます。しかしその結果、多くのアーティストは今より激しい競争にさらされることとなり、大勢の山の中に埋もれていくでしょう。

こういった状況の中で、従来のマスメディア主体の販売方法では、一部の成功するアーティストと、そうでないアーティストの格差が広がる一方でした。ほんの一部の成功するアーティストの売上も海賊版等の影響もあって、減少傾向にあります。

このような状況を打開するために、アーティストがソーシャルメディアを活用して、個々のファンと直接つながっていく。そしてそのファンのために、個々のアーティストが“売れそうな作品”ではなく“ファンの望む作品、良い作品”を追求することで、コアなファンと共に成長して行くことが可能になる時代が来るのではないかと夢に見ています。

大企業が大金を投じてSEO対策でPVを稼いでいた時代には、企業が行うPRと比較して個人が行うPRは力の差が歴然でした。しかしソーシャルメディアによるViral(口コミ)と共感でつなげていく現在。その源泉である口コミの一つ一つの力は小さくても、“共感”の力で、何倍にも増幅していくことが可能になります。きっとあなたの豊かな才能を応援してくれる人と出会えるはずです。

僕はソーシャルメディアにそんな夢を見ています。そして、そういう才能豊かな人がマイクロセレブとして生活していくことを応援することができる日が来ることを夢見ています。

・名もない花でも心に咲く花になれば良い
だれでもマイクロセレブになれる時代。しかしきっと「私なんか有名じゃないし、私の書いたブログや音楽なんて聞いてもらえない」と思う人もいるかもしれません。

しかし、そんな時いつも僕はこんなことを思います。

この一枚の花の写真は、ウェブをフラフラとさまよってた時に偶然見つけた写真です。僕は花の名前なんて知らなくて、種類も知らないから、この花がなんの花かは分からない。でも、なぜだか心にひかれて“きれい”だなと感じることはできます。

ソーシャル時代の新常識 口コミと共感でつなげる新消費者行動モデル“VISAS”

あなたの書くブログも、音楽も、映像もきっとそれを作ったのはだれかなんて気にしてもらえることはないかもしれません。でも僕がこの花の写真を見て感じたように「素敵だな」って感じてくれる人は、きっと世界のどこかにいるはずです。「素敵だな」と感じる心にそれを作った本人が有名か無名かなんて関係ありません。

そして、その“素敵”と感じたSympathy(共感)が、Viral(口コミ)を呼び、あなたの作品のもとに大勢の人を運んできてくれることでしょう。

だから照れることもなく、あきらめることもなく、自分が素晴らしいと思うものを、アウトプットしていけば良いと思います。

あなただけを見てくれるファンに出会うために。

執筆: この記事は大元 隆志さんのブログ『ASSIOMA』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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