いじめ問題に一石を投じるか?中3男子が慰謝料を求めて提訴

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いじめ問題に一石を投じるか?中3男子が慰謝料を求めて提訴

いじめ被害者と家族が、市や加害者側を相手に慰謝料を求めて提訴

佐賀県内の市立中学校の男子生徒が1年生当時、同級生の男子から暴行され約100万円を脅し取られたことについて、被害生徒と家族が市や加害生徒8人とその保護者を相手に、慰謝料等の損害賠償計約1億2,770万円を求めて佐賀地裁に提訴したとの報道がありました。

報道内容から、被害生徒はいじめを受けたことによる精神的苦痛の慰謝料や、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の後遺障害による逸失利益等の損害を主張しているものと思われます。加害生徒の保護者に対しては、親権者としての監護義務違反による不法行為の損害賠償請求をしているのでしょう。

学校関係者がいじめ問題への対応を検討する重要な事例になる

また、中学校の設置者である市に対しては、国家賠償法の損害賠償などを求めていると思われます。被害生徒の家族(おそらく親)は、子が被害に遭ったことについての慰謝料請求を加害生徒やその保護者に対して求めるとともに、市に対しては調査報告義務違反などを主張して損害賠償請求していると考えられます。

なお、国家賠償法は公務員個人が被害者に対して賠償責任を負わないことになっています。そのため、被害生徒らは公務員である担任教員や校長などに対し、直接的に賠償請求することはできません。ただし、担任らに故意・重過失がある場合は、被害生徒に賠償した市から求償請求される可能性があります。

この訴訟では、学校や市がどのような対応をすべきであったか争われるようで、訴訟の内容は関係者のみならず、全国の学校関係者がいじめ問題への対応を検討するための重要な一事例になるでしょう。ただし、損害賠償責任を負うかどうかは、責任の最低基準であることに留意し、安全な学校生活を確保していくために学校側は何をすべきか考えるべきです。

今後、同様の問題の際に第三者委員会が設置される方向に働く

被害生徒側が市に第三者委員会による調査を求めたのに対し、市は学校による調査で足りるとして設置しなかったようです。一般的にある問題の当事者が調査した結果について、他の当事者や世間一般の信頼は必ずしも高くありません。いじめ事案の当事者になる学校の調査については、一般市民の目からしても生徒からしても、不信感が残る恐れがあります。

損害賠償責任を負うほどの義務違反まであるかどうかはともかく、関係者や一般市民の信頼確保の点からは第三者委員会を設置して調査しても良かったのではないでしょうか。今後、同様の問題が起きた際に第三者委員会が設置される方向に働くと思います。

第三者委員会は、資料や聞き取りで事実を調査・認定していくのが中心の役割になり、そのような業務は弁護士の範疇です。各地の弁護士から、適切な人を選任して第三者委員会を設置するのは可能です。第三者委員会による調査が一般的になれば、手続的にも内容的にも一定の信頼のおける調査がなされ、いじめ問題などの解決により役立つでしょう。今回の訴訟が、その方向に向かう一つのきっかけになればと思います。

(林 朋寛/弁護士)

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