今週の永田町(2015.2.18~26)

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【西川大臣の辞任で、国会が一時空転】

 先週23日、西川農林水産大臣が、自身が代表を務める自民党支部が国の補助金交付を受けている業界団体や企業から献金を受けていた問題の責任を取って、安倍総理に辞表を提出した。安倍総理は、「自らの問題で国会や内閣に大変迷惑をかけ、大切な審議時間を費やしている」「国会審議は政策に集中すべきだ。自らの問題でそれがかなわない状況は変えたい。それには辞任しかない」と西川大臣の意思が固かったことから、最終的に西川大臣の辞任を了承した。

西川大臣の後任には、第2次安倍内閣で農林水産大臣を務めた林芳正・自民党農林水産戦略調査会長を起用した。安倍内閣が最重要課題に掲げる農協改革や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への影響については、安倍総理は、「林氏は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉、農協改革の現状、政策に十分精通している」「TPP交渉に当たり、農協改革は党で西川氏と一体的にやってきた。全く遅滞はない」と説明した。
*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 西川氏の大臣辞任を受け、民主党など野党5党は、農林水産大臣が交代したことを理由に、24日に予定されていた一般質疑を見送るよう与党側に要請した。また、衆議院予算委員会の基本的質疑のやり直しなども求めた。与野党は、衆議院予算委員会での基本的質疑は23日に終え、24~26日に麻生財務大臣ら関係閣僚による衆議院予算委員会での一般質疑を、27日に安倍総理出席のもと集中審議を行う日程で合意していた。また、来年度予算関連の税制改正法案と地方税法改正案、地方交付税法改正案の趣旨説明と質疑を26日の衆議院本会議で行うことになっていた。しかし、西川氏の大臣辞任により、与党側も24日の委員会開催のとりやめはやむをえないと判断した。

 

これまで野党各党は、安倍総理はじめ全閣僚が出席のもと、19日から衆議院予算委員会でスタートしていた来年度予算案の基本的質疑でも西川氏の政治献金問題を追及してきた。西川氏は献金の事実を認めつつも、「脱法行為と位置づけるのは当たらない」と反論し、政治資金規正法上の問題はないとの認識を示した。安倍総理は「西川氏の答弁を聞いていたところ、説明責任を果たしている」と西川氏を擁護した。

また、「脱法的献金」(玉木・民主党議員)と野党の追及に、安倍総理が「日教組(日本教職員組合)はどうするんだ」などとヤジを相次いで飛ばした。翌20日の質疑で、民主党の前原議員が「答弁席からヤジを飛ばすのは言語道断だ」と批判すると、安倍総理は「日教組は補助金をもらっている」「献金をもらっている議員が民主党にいる」などと答弁した。民主党は、日教組が国の補助金を受けた事実も、日教組の関連団体が民主党議員に献金した事実もないと抗議し、安倍総理に訂正と謝罪を求めた。安倍総理は、23日の衆議院予算委員会で、20日におこなった答弁について「私の記憶違いにより正確性を欠く発言があったことは遺憾であり、訂正申し上げる」と撤回のうえ陳謝した。

 

こうした経緯もあり、野党は、大臣辞任による西川氏の政治資金問題の幕引きは許されないとの認識で一致している。引き続き西川氏の政治献金問題の全容解明に加え、安倍総理の任命責任も徹底追及していく方針だ。

与党は、来年度予算案審議への影響を最小限にとどめるべく、攻勢を強める野党と断続的に協議を重ねた。その結果、与党が野党の要求を受け入れ、衆議院予算委員会で25日に安倍総理はじめ全閣僚が出席して基本的質疑を4時間、要求閣僚のみが出席する一般的質疑を3時間行うことで合意した。また、26日に一般質疑、27日は集中審議を行うことも決めた。

 

 

【野党、安倍総理の任命責任も追及】

与野党が今後の国会日程について合意したことを受け、24日の衆議院本会議は、約4時間遅れで開催された。そして、政府が2月5日に衆参両院に提示した、15機関58人の国会同意人事案が採決となった。政府の同意人事案は、与党などの賛成多数により可決した。また、25日の参議院本会議でも採決され、与党などの賛成多数により可決し、すべての人事案が承認となった。

3月25日に任期を迎える日本銀行の最高意思決定機関「政策委員会」の審議委員に原田泰氏(早稲田大学政治経済学術院特任教授)が、預金保険機構理事長に三国谷勝範氏(東京大学政策ビジョン研究センター教授、元金融庁長官)が就任する。

 

衆議院予算委員会での審議は、25日から再開された。安倍総理は、西川氏を大臣に起用したことについて、「閣僚が能力を発揮し、国政を進める方向で内閣の一員として実績を残していくことができるかについて、全体として責任を負っている」「任命責任は私にある。閣僚が交代するという結果を招いたことは国民の皆さまに大変申し訳ない思いだ」と改めて陳謝した。

質疑では、野党側から西川氏の政治献金問題に集中した。民主党は、安倍総理が答弁席からヤジを飛ばしたことなどに触れて「問題に対し真摯に取り組む姿勢がない。首相自らが政治とカネの問題に目をそらしている」などと重ねて批判した。安倍総理は、「閣僚の任命責任は私にある」「内閣、与野党問わず政治家は自ら襟を正し、説明責任を果たすことが求められる」と同じ答弁を繰り返し、防戦に追われる場面が目立った。

26日の衆議院予算委員会理事会で、野党側の求めに応じて、西川氏が顧問を務めた企業に関する資料が提出される予定だ。内容次第によっては、野党側が全容解明を求めて、さらなる追及を行っていくようだ。

 

 

【政府、自衛隊派遣の法整備案を与党に提示】

集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制をめぐっては、政府が19日、自衛隊の海外派遣にあたって法整備が必要となる分野として、海外での他国の武力行使に対する後方支援と、国連平和維持活動(PKO)と異なる枠組みによる人道復興支援が軸となる「国際協力への支援」、日本周辺有事での米軍後方支援を定めた周辺事態法改正などによる「わが国防衛のための後方支援」について提示した。自衛隊の海外派遣について、「恒久法の制定」「周辺事態法改正」「PKO協力法改正」で対応する方針だ。

 

政府は、自民党・公明党に対し、周辺事態法やPKO協力法が適用できない事態で、テロ対策特別措置法など特措法を制定してきたこれまでの対応では、迅速な自衛隊派遣が難しいことから、「国際社会の平和と安定」に向けて活動する多国籍軍を含めた他国軍を後方支援できるよう、自衛隊の海外派遣を随時可能とする恒久法の制定を要請した。政府は、自衛隊の海外派遣や武器使用などの基準を定めた新原則策定にも着手する。

恒久法の原案では、自衛隊派遣の要件として国会の事前承認を原則とし、緊急時には国会で速やかに事後承認の手続きを取り、否決されたら即時撤収するとの規定も盛り込む。国連安保理決議は、一部の大国が拒否権を持つ決議を条件にすると自衛隊派遣ができない場合も出てくるとして、派遣要件として義務付けない。恒久法で定める自衛隊活動については、補給・輸送などの後方支援、戦闘行為によって遭難した戦闘参加者の捜索・救助、航空機や艦艇により行う情報収集活動などを挙げている。

当初、自衛隊の活動範囲の拡大に慎重な公明党が恒久法制定に難色を示してきたが、自衛隊の海外派遣ごとに特別措置法を制定するよう求めていた公明党内からも容認論が出始めている。ただ、国会承認の厳格化などの条件も掲げるなど、反対・慎重論も根強いことから、PKO協力法を改正し、同様の派遣規定を組み込む案も検討されている。

 

周辺事態法改正では、「周辺事態」という事実上の地理的制約を撤廃するため、法律名称の変更を行うとともに、定義から「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等」や「我が国周辺の地域」といった表現を削り、「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」だけを残すとしている。また、日本の領域や日本周辺公海とその上空に限定し、輸送や医療支援などの後方支援の対象も日米安保条約を結ぶ米軍のみに限ってきたのを、日本の平和と安全のために活動する他国軍への後方支援を行う地理的範囲を拡大するとともに、支援対象を米軍以外にも拡大して弾薬提供や戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機への給油・整備なども可能とする方針だ。

また、PKO協力法改正に伴って離れた場所で武装集団に襲われている他国部隊などを救援する「駆け付け警護」を可能にするほか、任務遂行のための武器使用を可能にして輸送任務などを妨害する武装集団排除や住民保護などの治安維持任務に参加できる規定も盛り込むという。公明党がPKO5原則の堅持を強く求めていることから、政府は、PKO5原則の枠組みを維持するようだ。

 

20日に開催された安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)で、政府の法整備案が正式に提示され、国会承認手続きの厳格化など、自衛隊派遣への歯止めをどこまでかけるかなどについて議論となった。

 与党協議では、恒久法制定について、公明党から「いきなり一般法をつくるのはいかがか。特別措置法でやったほうがいい」などとの異論が出た。周辺事態法の改正により自衛隊の活動範囲や支援対象を広げることに一定の理解を示しつつも、「過去の答弁との整合性を取る必要がある」と指摘して、地理的制約がなくなることに難色を示したようだ。引き続き、与党間で検討・調整を行っていくという。

中東・ホルムズ海峡での機雷掃海については、状況に応じて個別的自衛権または集団的自衛権の発動、もしくは国際協力活動で対応すると整理した。集団的自衛権の発動による機雷掃海は、昨年7月に閣議決定した「新3要件」に合致しており、機雷を敷設した国が日本を攻撃対象にしていない場合に限り可能とした。政府は、自衛隊法改正案に集団的自衛権を行使可能にする条項を盛り込む方針で、掃海部隊の派遣にあたっては、事前または事後の国会決議を要件とすることも検討するようだ。

 

 

【国会論戦、与野党の駆け引きに注視を】

来年度予算案の審議日程が窮屈になっているなか、西川氏の大臣辞任と政治献金問題の影響により、予算案審議の日程がさらにずれ込み、政府・与党がめざす3月第1週の衆議院通過、年度内成立がより一層厳しいものとなっている。自民党と公明党は、25日に行った幹事長・国会対策委員長会談で、着実な経済再生と景気回復、統一地方選への影響も考慮して、引き続き年度内成立をめざす方針を確認した。予算案審議への協力を野党側に求めていく方針だ。

一方、民主党など野党は、政治献金問題の全容解明と安倍総理の任命責任を追及しようと足並みを揃える。閣僚の政治とカネをめぐる新たな疑惑が浮上しており、当面、政治とカネをめぐる問題追及も続くことになるかもしれない。今後の展開によっては、来年予算案・予算関連法案の審議・採決日程にも影響を及ぼしかねないだけに、国会論戦や与野党の駆け引き動向に注視することが重要だろう。 
 

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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