「残業代ゼロ」法案が掲げる「新しい働き方」とは?

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「残業代ゼロ」法案が掲げる「新しい働き方」とは?

労働時間ではなく、成果に対して給与を払う

厚生労働省が特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を創設する労働基準法改正案を国会に提出し、来年2016年4月から実施したい考えを示しました。いわゆる「残業代ゼロ」法案で、「ホワイトカラーエグゼンプション」と呼ばれる制度です。労働時間に対して給与を払うのではなく、成果に対して支払うというものです。

対象労働者は、金融商品の開発、為替ディーラー、アナリスト(企業・市場等の高度な分析)、コンサルタント(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言)、研究開発等に従事する者で、かつ年間所得が1075万円以上とされています。

確かにこのような業務に就いている人は、工場労働者のように労働時間が長ければ成果も上がるということはありません。だからこそ、労働時間に対してではなく、成果に対して賃金を支払う、ということについて一定の理解はできます。

対象者が拡大されるという懸念が残る

1075万円以上の上記労働者に残業代が出ないことには、あまり違和感はありません。しかし、具体的な業務や年収については、省令(国会を通さないで厚生労働大臣の権限)で変更できてしまうため、対象者が拡大されてしまうのではないのかという懸念も残ります。

そもそも、2005年に経団連がホワイトカラーエグゼンプションを提唱した際には、対象年収が400万円でした。ただ、労働基準法(変更する場合は国会を通さなければならない)で、「1年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が、平均給与額の3倍を相当程度上回る」という文言が明記される予定であることから、年収については一定の歯止めが掛かり、年収400万円の人が対象になる可能性は低くなりました。しかし、そうは言っても省令で変更可能なため、導入後はある程度対象者が拡大することは間違いないでしょう。

残業ゼロでの長時間労働を助長してしまう危険性も

一方、対象業務がどこまで拡がるかについては、現時点では不明な点が多いというのが現状です。今回の対象者のように職務が明確になっていれば良いのですが、一般の労働者の場合、日本では職務が明確になっていないことがほとんどです。欧米では、職務が明確になっている職務給が大多数を占めるため、自分の仕事が終われば残業などせずに帰れます。

特に米国では、ホワイトカラーの約20%がホワイトカラーエグゼンプションの対象者です。しかし、日本の場合は他の人が残業している中、自分の仕事が終わって帰ろうとすれば、上司から「手伝わないのか」などと言われ、協調性が無いなどと指摘されかねません。

以上の理由もあり、一般の労働者まで対象を広げてしまうことは、残業ゼロの長時間労働を助長してしまう危険性があります。長く日本は欧米型の職務給を導入していないため、いきなりの導入は難しいと思われます。対象者を広げるにしても、職務が明確である労働者に絞るなど、慎重に行うべきでしょう。

(影山 正伸/社会保険労務士)

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