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Album Review:indigo la End『幸せが溢れたら』 ゲス乙女・川谷絵音が別バンドで描いた“失恋”アルバムの表現に迫る

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 ゲスの極み乙女。でもヴォーカルと作詞曲をつとめる川谷絵音(かわたに えのん)が、同じくヴォーカル&作詞曲を担当しているバンド、indigo la End(以下インディゴ)。川谷以外のメンバーは両バンドで異なっており、ギターの長田カーティス、ベースの後鳥亮介の2名を加えた3人が現メンバーとなる。

 本作『幸せが溢れたら』は彼らにとって、インディ時代のアルバム『夜に魔法をかけられて』に続く2ndアルバム。仲睦まじそうなカップルの映った写真がセピアに色あせている、というジャケットが物語るように、本作は一種のハートブレイク・アルバムだ。

 アルバム全体が物語るのはあるカップルの“失恋その後”の物語。登場する男女はともに未練を振りきれず、相手のことを思い出しては<心にいないはずだったんだけど/好きになってしまった>と言ったり、<心変わりしないでよ>と言ったり、<今でも好きだ>と言ったりする。それでも、最終曲で示される通り、2人の間には乗り越えられそうもない障害があり、結局はそれぞれの道を進むしかない、というところまで描かれる。成長や新たな恋によって失恋を克服するのでもなく、ただ悲嘆に暮れるでもない。思い出を膨らませ、あるいは撹拌する中で、希望(のようなもの)を見つける失恋物語。『幸せが溢れたら』は、だからとてもまどろっこしい作品だ。

 ファンクやディスコといった、いわゆる黒人音楽を含む広範なポップスからの影響をミクスチャーした“ゲス乙女”の音楽性に比べると、インディゴの音楽性自体はシンプルで王道的なギター・ロックの範囲に収まるもの。一方、そのヴォーカルのメロディや楽曲構成は込み入っていて、とても一筋縄にはいかない。6分弱の長さの「心ふたつ」のような曲の構成が複雑なのはまだ分かるにしても、4分弱程度の長さしかない「瞳に映らない」のような曲でさえメロディがくるくる展開していくのには驚く。曲によって、男女の視点を入れ替えながらシチュエーション全体を描き出す歌詞の饒舌さも相まって、そのメロディは、空回る元恋人同士の心境を捉えた表現になっているという見方もできるだろう。

 実際、多くの人にとっておそらく失恋(恋愛)というのは、まどろっこしくて、空回りしがちで、みっともないものだ。その意味では、本作に収められた曲群は極めてリアルな感情を扱ったものだと言える。だからこそ、一部の曲の“J-ROCK”のクリシェをなぞったようなブレイク使いやギター・アレンジは、作品の持つニュアンスを薄めているようで勿体無い。いわゆる詰め草的な曲もなく、押しなべて完成度の高い楽曲が並んだことも、逆説的だが、アルバムの持ち味を薄めている印象だ。ポップス・メーカーとしての強かさは既に十分に感じるので、今後より引き出しを広げてメリハリをつけることで、作品の説得力がグッと増す気がする。

Text:佐藤優太

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