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【うちの本棚】247回 樹の実草の実/倉多江美

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「うちの本棚」、今回取り上げるのは倉多江美の『樹の実草の実』。これは白泉社「花とゆめCOMICS」における倉多の最初の単行本。収録作品もシリアスありギャグありと、倉多の魅力を充分に伝える一冊になっています。

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 白泉社の「花とゆめ」「ララ」に掲載された作品をまとめた単行本で、ほぼ発表順の収録になっている。一番早いものが「花とゆめ」昭和51年11号掲載の『樹の実草の実』であるから、わりと早い時期に倉多は小学館以外の雑誌にも進出していたということになる。少女マンガ誌は少年マンガ誌以上に雑誌や出版社専属の縛りが強かったはずなので、これはちょっと意外な気がした。

『樹の実草の実』は小学生時代の思い出に始まる思春期の少年の物語。倉多作品にはわりと多く見られるパターンだ。
『イージーゴーイング』は昭和13年を舞台にした高校生の物語で、戦争に突入していく時世を背景に青春の一ページを描いている。太平洋戦争直前のこの物語が、いま現在の時代と妙にリンクして感じられるのはちょっと怖いことだと思う。
『フェイブルくんの夢』は町の新聞社でバイトするフェイブルを主人公にした4つのエピソードのコメディ。
『赤ずきん君』から『釘』までの5作品は『一万十秒物語』の連作。『一万十秒物語』はその後単独の単行本にもなったが、『釘』を除いた4作品はこの単行本でしか読めない…はず。
『球面三角』は冒頭に相対性理論が出てきたりしてちょっと難解なイメージがあるが、テーマ自体は霊魂や魂にある。『パラノイア』や『エスの解放』など、人の心の奥深くや闇について考察した倉多は、ここで民俗学や生物学、物理学まで引き合いに出して魂のありかを推理してみせる。もっとも明確な答えを提示しないところは倉多作品の特徴とも言えるのだが…。

 本書は、全体としてシリアス系、ギャグ系とバランスの取れた編集で、倉多江美の魅力を堪能できる一冊。倉多作品を初めて読むという人にはオススメの一冊と言っていいだろう。

初出:樹の実草の実/白泉社「花とゆめ」昭和51年11号、イージー・ゴーイング/白泉社「花とゆめ」昭和51年19号、フェイブルくんの夢/白泉社「花とゆめ」昭和51年24号、赤ずきん君/白泉社「ララ」昭和51年9月号、メニュー/白泉社「ララ」昭和51年11月号、自慢/白泉社「ララ」昭和52年1月号、終末/白泉社「ララ」昭和52年3月号、釘/白泉社「ララ」昭和52年5月号、球面三角/白泉社「花とゆめ」昭和52年13号

書 名/樹の実草の実
著者名/倉多江美
出版元/白泉社
判 型/新書判
定 価/320円
シリーズ名/花とゆめCOMICS
初版発行日/1977年7月20日
収録作品/樹の実草の実、イージー・ゴーイング、フェイブルくんの夢、赤ずきん君、メニュー、自慢、終末、釘、球面三角

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

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