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並外れた記憶力の持ち主が「前職のヒミツ」を次々再現 機密漏えいに当たるのか?

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並外れた記憶力の持ち主が「前職のヒミツ」を次々再現 機密漏えいに当たるのか?

Tさんは新卒でとあるメーカーA社の営業部門に配属されましたが、上司のパワハラを嫌って入社4年目で競合メーカーB社に転職しました。

A社は業界1位でB社は2位ですが、その差は大きく離れています。B社の新しい上司は、Tさんに大きな期待を寄せています。というのもTさんは、A社の仕事のやり方をたくさん知っているうえ、記憶力が人並み外れてよかったからです。
名刺もノートもすべて会社に置いてきたが

Aさんは顧客名簿などのデータを持ち出したりすることはありませんでした。しかし3年間で訪問した会社を記憶だけで書き出し、ネットを駆使して補足情報を調べ上げ、かなりの部分をカバーした顧客名簿を再現してしまいました。

また、日報や管理帳票のフォーマットや営業活動プロセス、それに発注単価などもデータなしで思い出し、次々とドキュメントにしていきます。この影響もあってB社の業績は改善し、これに気づいたA社の元上司からTさんに連絡が入りました。

「お前、そこにいたのか。うちの顧客データ盗んだだろ? 訴えてやるぞ!」

しかしTさんは「名刺もノートもデータも、すべて会社に置いてきましたよね。私は何も持ち出していませんよ」と胸を張ります。しかし元上司は「お前が覚えていることだけでも、機密情報を持ち出したことになるんだよ」と反論します。

Tさんは心配になってきました。記憶なんて目に見えないものが、機密漏えいの証拠になるのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙弁護士に聞いてみた。
営業秘密が流出すれば会社が損害を受ける

――ご相談者の方は、非常に記憶力がよいですね。データをUSBメモリーなどで持ち出したわけではないので、問題ないと考えてしまうのは当然のことかもしれません。

会社に勤めていると、顧客名簿や設計図のデータなど会社にとって重要な情報に触れる機会が多くあります。このような情報は、会社の営業努力のたまものです。こうした情報が社外に流出すると、会社が損害を受けるかもしれません。

特にライバル会社にその情報を利用されたとしたら、その損害はいっそう大きなものとなるでしょう。そのため法律で、このような重要な情報が特別に保護されていることがあります。

不正競争防止法は、一般に知られていない会社の情報のうち、秘密として管理されているものを「営業秘密」と定めています。

ライバル会社の電子データを盗むなどして、営業秘密を不正の手段により取得する行為は「不正競争」として損害賠償などの対象となり、刑事罰を受ける可能性があります。

先日も、家電量販店の元幹部が競合他社に転職後、営業秘密が含まれたファイルを部下であった社員にメールで送ってもらっていたという事件がありました。
後で思い出して利用する行為も同じ

それでは、ご相談者のように、在職時に正当に取得した自分の会社の営業秘密を、紙や電子データによらず記憶だけに頼って「持ち出し」た場合はどうでしょうか。

在職中に正当に知った営業秘密であっても、不正の利益を得る目的で退職後にこれを使用した場合も、不正競争にあたります。また、書類やデータを持ち出さなくても、記憶していた営業秘密を後で思い出して利用する行為も同じです。

したがって、今回のご相談者が利用した情報が「営業秘密」にあたる場合は、残念ながら不正競争防止法に違反する可能性があります。

ご相談者のように、同業他社に転職した従業員が前職の営業秘密を自由に明かすことができたとしたら、企業間での引き抜きばかりが盛んに起こり、健全な営業努力が行われなくなる可能性があります。

業界がそのようになってしまうことは社会にとって決して好ましくありませんから、法はライバル会社で営業秘密を使用することも禁じているのです。みなさんも、転職後の営業秘密の利用には十分注意して下さいね。

【取材協力弁護士 プロフィール】

岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/

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