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【著者に訊け】帚木蓬生氏『ギャンブル依存国家・日本』語る

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【著者に訊け】帚木蓬生/『ギャンブル依存国家・日本』/光文社新書/740円+税

 ギャンブル依存は本人の性格でも自己責任でもなく、「脳内の報酬系神経伝達物質ドパミンが異常分泌する精神疾患であり、病気。ピクルスが胡瓜、たくわんが大根には戻れないように、本人の意志ではどうにもなりません」と、作家で精神科医の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)氏は言う。

 その実態を広く訴えたのが、『ギャンブル依存とたたかう』(2004年)や『やめられない』(2010年)だとすれば、本書『ギャンブル依存国家・日本』の主語は国や社会。つまり日本では患者以前に社会そのものがギャンブルなしでは生きられない、またはそう思い込む、依存体質に陥っているというのだ。

 昨年、厚労省が発表した国内全成人の有病率は4.8%(男性8.7、女性1.8%)。この数字は米国1.6%などと比べて圧倒的に高く、実数にして536万人もの患者を日本は国ぐるみで放置してきたのである。その背景には各種公営競技やパチンコまで、持ちつ持たれつの利権構造が絡み、国や自治体は経済振興や雇用対策を今なお口実にする。

 福岡・黒崎駅前から南は筑豊直方まで、かつて炭鉱で栄えた町々を結ぶ線路を、二両編成の車両がゴトゴト行き交う筑豊電鉄・通谷駅。無人駅のホームを出てすぐの線路脇に『通谷メンタルクリニック』はあり、帚木氏はここで2005年以来、依存者の治療にあたっている。

「元々は以前勤めていた八幡厚生病院でギャンブル依存の患者と出会い、このクリニックを開業したのが10年前。ここなら患者さんも来やすいですし(笑い)」

 現在、福岡県内には専門病院が5軒、自助グループ(通称〈GA〉)も15あり、比較的先進的環境と言える。が、全国に目を移すとGAが計146、岩手・岐阜・鳥取の3県はそれすらなく、わざわざ本州から足を運ぶ患者も少なくないという。

「この病気は薬が効かないから、知らん顔する医者も多いとですよ。いくら専門外だからって風邪の患者を断る内科医はいないわけで、精神科医なら全員、ギャンブル障害を診ないと駄目! ましてギャンブル障害の8割はパチンコやスロットによるもので、パチンコ店は全国に約1万2000軒とコンビニ並みにある。市場規模も約20兆円ですよ」

 本書では鬱病や統合失調症も併発しやすいギャンブル障害の診断方法や症例を紹介した上で、官民一体となった依存の実態を多角的に検証。注目は〈消費者という視点〉だ。仮に食品が健康被害を及ぼした場合、責任は消費者ではなく企業にある。が、競馬や宝くじのCMが日々流れ、人気歌手やアニメを使ったパチンコ台も登場する中、ギャンブルだけは〈企業側の責任〉を問われないのである。

「特にパチンコ業界はあの派手な色や音で脳を刺激し、日に10万単位で金を吸い上げる仕組みを日々開発してきた。実は2011年にも厚労省は報告書をまとめていて、その時点で5.6%という諸外国に比べて格段に高い有病率を、〈公表するな〉と言った前科がある!」

 本書には氏の病院を2005~2007年に訪れた患者100人の被害実態が克明にまとめられている。大抵がにっちもさっちもいかない状態で駆け込んできて、注ぎ込んだ金額は平均1300万、最高は1億円を超え離婚や配偶者の鬱病など、家族に及ぶ被害も極めて深刻だ。 また、2013年に氏の地元で起きた中間市職員による生活保護費詐欺事件を始め、ギャンブル→借金→犯罪の負の連鎖も枚挙に暇がない。

「何しろパチンコ、スロットの管轄は各都道府県の警察と公安委員会で、全日本遊技事業協同組合や日本遊技機工業組合等々も含めて、彼らの大事な天下り先というのが日本の現状です!」

 また競馬は農水省、競艇は国交省、競輪は経産省の管轄にあり、中には赤字に陥った公営競技場を閉鎖する予算が確保できないことを理由に放置、各自治体の財政をかえって圧迫している例も多い。そうまでしてギャンブルをやめたくない日本では、東京オリンピックを睨んで新たなスポーツ振興くじの導入も検討され、〈これが文科省の仕事か〉と、帚木氏は筆を荒らげる。

「そんな発想を役人がすること自体、日本が依存体質から抜け出せない証。もはや〈人権侵害〉という視点を我々は持った方がいい」

 戦前に朝鮮半島から強制連行され、地元・中間市や直方市を思わせる〈N市〉の炭鉱で酷使された主人公の波瀾の生涯を描く『三たびの海峡』(1992年)や、久留米藩下で圧政に喘ぐ百姓らの苦闘を描いた近著『天に星地に花』等、数々の傑作が書かれた原点には「怒りが常にあった」と氏は言う。

「『三たびの海峡』は福岡人に生まれながら強制連行や炭鉱の歴史もまるで知らなかった自分への怒りが書かせたし、ギャンブル障害に関しても、私は患者と会うまで何も知らなかった自分が腹立たしく、調べれば調べるほど、政治家からメディアまでがギャンブルに寄生し、甘い汁を吸うこの国の在り方に怒りを覚えるようになったんです。論語にも〈政は正なり〉とあるように、本来は政に携わる人間こそ、〈Do the right thing.正しいことをせよ〉を身上とすべきです」

 と、本書で怒りを露わにする帚木氏は、なぜそんなにまっすぐなのだろうか?

「人間、よくないことをすると余計なストレスがかかる。まっすぐ生きた方が、よっぽど楽です(笑い)」

 つまり『よきことをなせ』は人間にとって最も生きやすい生き方なのだと笑顔で言う氏の背後には、かつて日本の近代を支えた鉄路がまっすぐに伸びていた。

【著者プロフィール】帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい):1947年1月福岡県生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに入社。2年で退職し、九州大学医学部に入学、精神科医に。作家としても活躍し、1992年『三たびの海峡』で吉川英治文学新人賞、1995年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞、1997年『逃亡』で柴田錬三郎賞、2010年『水神』で新田次郎文学賞、2012年『蠅の帝国』『蛍の航跡』で日本医療小説大賞等を受賞。著書は他に『白い夏の墓標』『エンブリオ』『国銅』『日御子』等。169cm、68kg、A型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2015年2月13日号


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