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気鋭の作家 デビューの知られざるいきさつ 上田岳弘インタビュー(3)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第64回の今回は、最新作「惑星」が第152回芥川龍之介賞の候補に挙げられた上田岳弘さんです。
デビュー作の「太陽」、そして「惑星」と、既存の文学の枠組みを広げる野心作を発表している上田さんですが、そのアイデアの源はどこにあるのでしょうか。
 この二作品が収められた初の単行本『太陽・惑星』(新潮社/刊)について、そしてこれまでの読書歴や今後の展望についてと併せて、上田さんにお話をうかがいました。注目の最終回です。

■「小説でやりにくいこと、できないとされていることをやっていきたい」
―小説家になりたいと思ったきっかけについて教えていただければと思います。

上田:4歳とか5歳くらいで、まだ文字もわからないような時期から「本を書く人」になりたいと漠然と思っていました。両親に加えて上に兄弟が三人という、家族の中に年上が五人いる環境で育ったのですが、彼らが本を読んでいるところを見て、それを書く人なりたいと思ったのがきっかけかもしれません。小さい頃の話なので定かではないのですが。

―実際に小説を書きはじめたのはいつ頃ですか?

上田:2001年頃で、大学卒業間近の時期です。それまでも、なんとなく「書こうかな」と思ってはいたんですけど、なかなか書けなかった。「書かないといけないはず!」みたいな変な義務感はあったんですけどね。
僕がギリギリにならないとやらないタイプだというのもあるのですが、「書くならそろそろやらないとおかしいんじゃないか!?」と自分で疑問に思い始めた時に書き始めました。

―「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞してデビューされた上田さんですが、その2年前にも同賞の最終候補になっていますよね。そこから受賞するまでに、ご自身の中で変わったことはありましたか?

上田:あれは2011年だったと思いますが、仕事が忙しくて疲れ果てていて、賞に応募したことも覚えていないくらいでした。それからしばらくして、美容室で髪を切ってもらいながら、世の中には純文学雑誌というものがあって、自分も小説を書いていて、という話をしている時に電話がかかってきて、最終候補に残ったことを教えていただきました。
その時は結局落選してしまったのですが、今回の『太陽・惑星』の帯を書いていただいた中村文則さん(新潮新人賞選考委員)が、選評で励ましてくれたというか、たくさん僕の作品について語ってくださったんです。これはもう次はがんばらないと、という気持ちになりましたね。
作風自体は今と変わっていなくて、現在の中に未来の話が混じってくるような作品でした。

―「太陽」そして「惑星」と、ある意味「壮大な極論」とも呼べる作品を二作発表されましたが、今後はどのような方向に執筆を進めていこうと考えていますか。

上田:宇宙関係は一旦やめておこうかなと思っています。「太陽」も「惑星」もあらゆることが全て見えてしまっている視点で書いたのですが、次は制約を設けるつもりです。当面は、小説でやりにくいこと、できないとされていることをやっていきたいと思っています。

―上田さんが人生で影響を受けた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただければと思います。

上田:ベタな読書歴なのであまり変わったことは言えないのですが、一冊目は村上春樹さんの『風の歌を聴け』です。兄が村上さんの本をだいたい全部持っていて、中学生くらいの時に借りて読んだ記憶があります。さっきもお話ししたように、漠然と「本を書く人になりたい」と思いつつ「絵が描けないから漫画家はダメだな」とか「ライトノベルはちょっと違うな」みたいにどの方向に行こうか考えていた時期に読んで、「こっちの方向かもしれない」と思いました。
もう一冊はガルシア=マルケスの『百年の孤独』で、これは「太陽」を書く時に影響を受けました。
最後はカート・ヴォネガットの『タイタンの妖女』です。こんなに傲慢に、ざっくりと世界を描いていいんだ、ここまで破壊的でもいいんだという新鮮さですね。影響というより勉強になったと思える作品です。

―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。

上田:しばらくは「それって小説なの?」というギリギリのところを突いてがんばろうと思います。読みにくいところがあっても、最後まで読んでいただけるとうれしいです。

■取材後記
 浮かんだアイデアを「どうやったら実現させられるか」ではなく「どうやったら破綻するか」を考えるというのは、これまで取材した作家の方々のなかでも異色の回答でした。
 「太陽」「惑星」で提示した世界をどちらの方向に、どのように発展・飛躍させるのか。これから、長きにわたって読者を驚かせてくれそうな上田さんでした。
(インタビュー・記事/山田洋介)


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