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遊川和彦脚本○○妻 「安部公房的なスリルあり」と女性作家

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 今期も楽しみな作品が揃ったようだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 冬ドラマが一斉にスタート。意欲作がずらりと並び展開が楽しみ。配役に脚本、演出とそれぞれ工夫を凝らしていそうな気配。ざっくりとカテゴリー化すれば……。

【1】コメディタッチか、シリアスタッチか。
【2】舞台は、特殊な仕事の現場か、それとも日常か。
【3】テーマは、夫婦・家族・人間関係か、それとも犯罪・事件などハードボイルド系か。

 【1】の「コメディタッチ」を代表するドラマが、『デート~恋とはどんなものかしら~』(フジ系月曜午後9時)。『リーガルハイ』の古沢良太が脚本担当。恋愛ベタな国家公務員役の杏と、高等遊民・ニート役の長谷川博巳が、滑稽なデートを重ねるドタバタ劇。

 突き出した唇、頭のてっぺんに花飾り姿の杏。二人のデートはまるでコテコテ喜劇。個人的な趣味としては、わざとらしさがクドさに昇華していく演出と演技についていけないけれど、『リーガルハイ』のファンはちゃんとついていくかも。たしかに、1回目の視聴率トップで好発進。

 【2】の「特殊な仕事」を描くドラマの代表は、中谷美紀主演『ゴーストライター』(フジ系 火曜午後10時)。原稿が書けなくなった大作家と、作家志望の駆け出しライター(水川あさみ)をめぐる、ヒューマンサスペンス。「作家」=文字だけで世界を構築する摩訶不思議な職業の現場を「垣間見たい」という好奇心、わかります。

 しかし、駆け出しライターが、大作家の代わりに、有名作家への追悼エッセイを執筆して「これを使ってください」とは。ありえない、まさかのシーン。

 小説のプロットを代理で考える程度ならまだしも? 文壇の人間関係を投影するような追悼文を、何も知らない小娘が事情も聞かずに代筆なんて、無理が過ぎる脚本。とはいえ、まあフィクション。こんなものかと、出版や作家についてよく知らない視聴者が適度に誤解しつつ楽しむのならいいでしょう。

 それより何より、分類・カテゴライズしようとしてもできない、妙なドラマが。『○○妻』(日テレ系水曜日午後10時)。いったいこのドラマ、何を描こうとしている? どう分類すればいい? シリアスでもコメディでもあり、キャスターという特殊な職業を描くドラマでもあり、夫婦関係を描く人間ドラマでもあり……。

 2回目まで見ても、いったいこのドラマの核心が何なのか、掴めない。ストーリーさえ霧の向こうに霞んで、見えない。見えないから、そそられる。見えないから、不気味。

 物語はニュースキャスターの夫(東山紀之)と、夫を支える理想的で完璧な妻(柴咲コウ)。ところが二人は、籍を入れていない仮面の夫婦。契約がとりもつ関係。その契約は3年ごとに更新。子どもは持たない約束。しかも、契約妻の方から、その関係を望んでいる。

 二人は決して冷たい関係ではない。愛もあれば、依存も、信頼も、期待もある。実に不思議。謎。その不思議と謎が、次の展開への期待を産んでいく。

 そもそも、タイトルがすでに、謎を示しているのです。『○○妻』。一本とられました。久しぶりにドラマからとまどいを覚え、心地よい不気味さに包まれました。

 このとまどい、何かに似ている。過去にたしかに経験したことがある感覚……そうだ。日本を代表する前衛小説家・安部公房の作品に初めて触れた時の、あの感じ。『壁』『箱男』『砂の女』『棒になった男』……不条理世界を描き出した小説から受け取った、妙な違和感とスリル、緊張感を思い出しました。

 世の中には、かっちりとしたルールがあり、その「決まり」に沿ってきちんと人が動いていく。でも、よく考えると、その「決まり」自体が不可思議で不条理。現実の夫婦関係も、そうなのだとしたら。『○○妻』に登場する二人の契約関係はどうなのか……。

 脚本担当は遊川和彦。振り返れば、視聴率40%を記録したあの『家政婦のミタ』も、笑わない家政婦が業務命令でどんな残酷なことも実行するという、妙なルールがバネとなり、不条理な匂いが漂っていました。

 ドラマという領域から、野心的な試みが生まれてくる今。かつて、前衛的世界を生み出してきたのは純文学。その純文学が果たしていた役割を今、ドラマ界が担い始めているのでしょうか。

『○○妻』は、最後までダレることなく、心地よい不気味な緊張感を維持してほしい。○○に何が入るのか、謎が解けるまで。


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