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【うちの本棚】240回 春に眠る/布裏 翼

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 「うちの本棚」、今回は布裏 翼の『春に眠る』をご紹介いたします。

 キツネのニンカリを主人公にした表題作は、その後『ぴくぴく仙太郎』をヒットさせる作者だということがわかる作品ではないでしょうか?

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 『ぴくぴく仙太郎』や『きこちゃんすまいる』といった人気作品で知られる布裏 翼。本書はその布裏の1冊目の単行本になる。もともと動物を描くのは得意だったようで、表題作の『春に眠る』も動物が主人公の作品だ。

 絵柄は文月今日子によく似ていて、ストーリー、構成も文月作品といわれたら疑わずに読んでしまいそうだ。画も上手く、ストーリー、構成も達者なだけに、文月に似すぎていたというのはある意味欠点になったのではないかという気もする。ヒット作が生まれるまでに時間がかかったのもその辺りに理由があるように感じられる。

 『春に眠る』はニンカリというキツネが主人公の作品。人間の猟師によって片目を失い、妻と子供たちを失ったニンカリは、自分が元気だったころの春を思い、南の冬のない森に行けばあの頃の自分に戻れると信じて雪の中を旅立つ。そして吹雪を避けようと入った岩穴の中で、迷子の人間の女の子と出会うのだった…。

 『ローランジュール』は布裏 翼のデビュー作。母は主人公のアランを産んですぐに、父もアランの幼いころに亡くなっていて、アランを育てているのは父の乳母だったマントウ婦人。婦人はアランの父が大泥棒ローランジュールだったことを語り、アランにもいずれは大怪盗となるように教育している。父のローランとは子供の頃からのつき合いだったというピエールや、アランの憧れる花屋のソレイユなどが登場し、やがてアランも父の真実を知ることに…。デビュー作だけあって練りに練った作品ということができるものだ。

 『白いヨットに真珠貝』は海辺の町のふたりの少年の友情を描いた佳作。

 『ハッピーな魔法使い』は町外れにすむ、魔法使いと呼ばれる老女の家に、旅の途中で転がり込んだ少年。母親の住む村に行く途中だった少年は魔法使いの老女と暮らすことになるのだけれど…。コメディタッチの心温まる短編。老女の飼っているクロネコもいい味をだしてます。
『グリーンヒル氏と緑の夢』は人魚の登場する作品で、ここで描かれる人魚は女性ではなく少年。収録作品中、もっとも文月今日子的なものといえるかもしれない。

 ヒット作以外あまり注目されることのない布裏 翼だと思うが、この最初の単行本はつぶよりの短編集という印象で手に取って損のないものだと思う。機会があればぜひお読みください。

初出:春に眠る/講談社「ラブリーフレンド」昭和51年3月号、ローランジュール/講談社「別冊少女フレンド」昭和50年7月号、白いヨットに真珠貝/講談社「別冊少女フレンド」昭和50年8月号、ハッピーな魔法使い/講談社「別冊少女フレンド」昭和51年1月号、グリーンヒル氏と緑の夢/講談社「別冊少女フレンド」昭和51年7月号

書 名/春に眠る
著者名/布裏 翼
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/講談社コミックスフレンド(KCB 417)
初版発行日/昭和52年7月15日
収録作品/春に眠る、ローランジュール、白いヨットに真珠貝、ハッピーな魔法使い、グリーンヒル氏と緑の夢

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

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