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富山市の都市政策 、おばあちゃんが気軽におでかけできる街

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先日行われたOECD(経済協力開発機構)・富山市が主催の都市の国際ラウンドテーブル(http://suumo.jp/journal/2014/11/28/74023/)の後、ユニークなコンパクトシティ政策で知られる富山市の現地視察も行われた。日本初のライトレール(LRT)を敷いて、郊外と中心市街地をつなげる街はどのように変わったのか。高齢者がまちなかに出たくなる仕掛け、「おでかけ定期券」と「孫とおでかけ」支援事業

人口減少や急増する高齢者に対応できるレジリエントな社会をめざし、富山市はユニークな施策を打ち出している。それが、「おでかけ定期券」に始まる公共交通機関の利用促進策だ。

そもそも富山市は、2005年に周辺7市町村による合併を契機として、コンパクトなまちづくりを基本にさまざまな計画を策定し、2007年には「中心市街地活性化基本計画」を作成、青森市と並んで内閣総理大臣の認定第1号となった。都市変革についてはイノベーターとも言えるだろう。

2007年の「富山市中心市街地活性化基本計画」には、計画の三本柱として、(1)公共交通の利便性の向上、(2)賑わい拠点の創出、(3)まちなか居住の推進が挙げられており、こうした計画をもとに大小さまざまな施策に取り組んでいる。

前述の「おでかけ定期券」は、満65歳以上の高齢者を対象に、郊外から中心市街地に一直線に来ると一律100円にするよ、という公共交通機関の料金割引制度だ(逆もあり)。この制度のミソは、中心市街地の手前で降車すると通常料金になるという点である。

例えば、郊外の「富山国際大学」から「富山駅」まで来ると通常690円を100円にするが、中心部の一歩手前「星井町一丁目」で降車すると通常料金の680円のまま。自然と、中心市街地まで行くきっかけになることで、中心市街地の活性化、および高齢者が気軽に出歩ける街づくりを目指したのだ。この「おでかけ定期券」、現在は、富山市の高齢者の約3割が所有し、1日平均約2500人が利用しているという。

また、「おでかけ定期券」に紐づき「孫とおでかけ」支援事業も2011年からスタート。市立の文化施設、屋外施設、動物園へ孫と一緒に入館すると祖父母の観覧が無料になるもので、2013年にかけて市立施設利用者が13%増加・5万人以上が入館した。歩くことで健康に。医療費削減にもつながる「おでかけ」促進策

いずれにせよ、富山市では高齢者に対してこれでもかと言うほど手厚く「おでかけ」する機会を設けている。その結果か、「おでかけ定期券」利用者の平均歩数は6360歩で全国平均の5368歩よりも約1000歩も多い(ちなみに富山県民平均は5180歩で全国平均よりも低い)(図1 参照)。

富山市によると、歩くことは健康維持につながるため、年間で約7500万円もの医療費削減にもつながると試算される。まさしく「健康寿命を延ばすためには外出機会を増やすこと」(森市長)の言葉を裏打ちするかのようだ。

【図1】おでかけ定期券利用者と富山県民平均及び国民平均との歩数比較(出典:富山市)

実は、この施策の恩恵を最も受けているのが「おばあちゃん」たちだ。そもそも市内電車環状線を利用している約7割が女性。年々増加している女性の中でも、「65歳以上が平日に買物・私用に使っている」のが最も多い(図2参照)。

いまどきの60代後半の女性は、昔ほど「おばあちゃん」然としていない。日々の買物やちょっとしたおでかけに、孫や仲間と連れ立ってさっそうと街に出かけている、という絵がこの結果から思い浮かぶ。前回の記事でヘルシンキの「高齢者を孤独にしない」戦略を紹介したが、高齢者が公共交通機関に乗りやすくなるだけで、少しは「孤独」から離れられるという効果もあるだろう。

【図2】市内電車環状線の利用状況(出典:富山市)「おでかけ」先の中心市街地を楽しくする

では、彼女たちを満足させる機能は中心市街地にそろっているのだろうか。郊外からの運賃が100円になったとしても、そもそも中心市街地が楽しくないと行く気がしない。筆者は数時間街を回っただけだが「さっそうとしたおばあちゃんが集まるところは人がいる」という感想を持った。市民プラザのカフェやレストラン、中心部の商店街に位置する地産地消ショップ「地場もん屋」などは、にぎわいが見える。

特に「地場もん屋」は、地元の新鮮な野菜を求めて、仕事帰りに立ち寄る女性も多いようで、ほかのお店に比べて人が多いように感じた場所。富山市の農産物の出荷量の増大と、市民に安心・安全な地元産野菜を食べてもらおうと、官民一体となった農林産物のアンテナショップだ。

通常、農産物は農協などを経由してスーパーに届けられ消費者のもとに届くが、ここでは農産物と消費者をダイレクトにつなぐ。こういう場には、家計と家族の健康を握るおばちゃん・おばあちゃんたちが現れる。富山中の野菜が一挙に中心部の便利な場所に集まっているのだから、私用の帰りに買い物するのも便利だろう。

【写真1】富山の生産者の直売所となっている「地場もん屋」。富山県の安心な食材を地産地消することを目的にオープン(写真撮影:小野有理)

ほかにも、中心市街地の活性化を狙う富山市の戦略の結果、生まれた場がある。その一例が、富山市の中心商店街に位置し、面積約1400㎡、天井高19mのガラスの天井を持つ多目的広場「グランドプラザ」だ。ここでは、どのような天候にも対応できる形を活かして、毎日のように多くのイベントが開かれている。

三菱総研の調査では「中心商業地区の歩行者通行量は、総曲輪フェリオやグランドプラザ等の整備を行った地点の周辺では、効果が現れた」と、グランドプラザの有用性に言及している(図3参照)。しかし、筆者が訪れた日はイベントもなく閑散とした状態。富山市のサイトなどでは、イベント時に人で埋め尽くされたプラザの写真が掲載されているので、イベントの有無が人の通行に直結することを再認識した。

【写真2】中心部に位置する複合商業施設「総曲輪(そうがわ)フェリオ」と、屋内駐車場に挟まれたスペースを有効活用した全天候型多目的広場「グランドプラザ」(写真撮影:小野有理)

【図3】中心市街地区の歩行者通行量(日曜日)(富山市)(出典:三菱総研「中心市街地活性化施策の効果分析 報告書」)

ここまで、おばあちゃんにうれしい街としての側面を書いてきたが、「全ての世代をとにかく中心部に呼び込みたい」という富山市の強い意志が感じられるのが「MAG.net 富山まちなか研究室」だ。語り場・たまり場・演じ場・学び場としての4つの機能を持ち、学生やまちづくり関係者に開かれた場となっている。私が訪れたときは、中学生らしき2名に大学生が宿題を教えていて、世代を越えて交流をもてる場になっているように感じた。

【写真3】MAG.net 富山まちなか研究室(写真撮影:小野有理)再開発が続く富山市。その先の活性化につながるか

ここまで見てきたように、富山市は大きな変革を遂げつつある。私のような部外者から見ても街のハード面の変化は著しいように思われる。しかし、ハード面の変化の大きさに比例して、市民のライフスタイルが大きく変わったのかは分からない。富山市は国が取り組む「コンパクトシティ」政策の先進都市であり、OECDの「高齢社会における持続可能な都市政策」のケーススタディ都市に選定されている。特に、高齢化は日本の最重要課題のひとつであり、30年40年先を見通して対応可能な都市構造が求められている。

富山市の都市政策は、徒歩圏で移動できるエリアを「団子」、点在する「団子」を刺し連ねる公共交通機関を「串」と見立てて「串と団子」戦略とも呼ばれており(図4)、とてもユニークな政策だ。団子としての街の快適性が向上すれば、「串」の公共交通機関の利用者も増える。反対に、「串」の利便性が増すことでも、街(団子)間の移動が増し、人が集いコトが起こる。

増加する高齢者(特におばあちゃん)を対象に、単なる移動手段としての交通機関ではなく、人と街をつなげる手段として交通機関を見る政策は、今後の人口減少都市を考える上で参考になる。「さまざまなアイディアをどんどんやる」「受けたら儲けもの、利用が伸びる」という森市長の言葉が、日本の課題先進都市としての富山に活きているように思えた。

【図4】富山市が目指すお団子と串の都市構造(出典:富山市)

【写真4】セントラム(中心部のライトレール環状線)沿いの再開発。こうした規模の開発が富山市では続いている(写真撮影:小野有理)
元記事URL http://suumo.jp/journal/2014/12/19/75220/

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