「学テ」に一喜一憂する大人たちに抱く違和感

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「学テ」に一喜一憂する大人たちに抱く違和感

「学テ」学校別公表6%どまり、自治体の慎重な姿勢が浮き彫りに

今年4月に実施された全国学力テスト(対象:小6、中3)について、全国の市区町村1,756教育委員会のうち32教委が学校別の平均正答率を公表し、82教委が全国平均との差異を文章で表現するなど数値を出さずに分析結果を示しました。

これまでは文科省が都道府県別の平均正答率を一覧にして公表するだけでした。しかし、保護者から詳細データ公表の要望が多いことや、静岡県知事が独断で県内成績上位100校の校長名を発表したこと等から、今年度から各自治体の判断で学校別の成績公表が容認されたのです。ところが、実際に何らかの形で学校別の結果を公表したのは計114教委(全体の6.5%)だけで、自治体の慎重な姿勢が浮き彫りになりました。

全国学力テストの実施により、学力の底上げが進んでいる?

数字が独り歩きして学校間の序列化や過当競争につながりかねないと懸念する現場の声や、子どもが自分の通う学校について劣等感を抱いたり学習意欲を失くしてしまうといった意見に配慮したことが、学校別テスト結果の公表を避けた主な理由のようです。

一方、公表に踏み切った自治体では、学校ごとの現状や今後の見通しなど各校の実情を伝えることにより地域住民と積極的に協力して学力の向上を図ろうとする工夫が見られたり、結果に対する責任を明確にし学校間の競争を促すことで現場の意識向上につながったという効果も見られます。

そもそも全国学力テストは、子どもの学力低下が指摘され始めた2007年から、学校教育の成果を検証し児童生徒の学力向上に役立てることを目的に始められました。都道府県別では秋田と福井が例年成績上位を占める一方、下位が続いていた沖縄県が小学校の成績を大幅に改善するなど、下位3県と全国平均の差が縮まり、賛否両論ある中で、文科省が主張する通り「学力の底上げが進んでいる」と言えるのかもしれません。

本当に注視しなければならないのは生徒一人ひとりの理解度

しかし、自治体や学校別の平均正答率の高低に一喜一憂しているのは大人たちだけではないでしょうか。もはや全体の「平均」を上げるとか「標準」に近づける、といった発想では対処できないほど、21世紀の子どもたちは多様化しています。どんなに学校全体で学力向上策に取り組んだところで、そもそも対策など必要のない優秀な子どももいれば、自分の苦手な分野や弱点には的外れで役に立たないと思う子どももいるはずです。

本当に注視しなければならないのは生徒一人ひとりの理解度で、一問一問の出来を見て個別に指導してこそ全国学力テストを実施する意味があります。そもそも同年齢の子どもは全員一律で同じ内容を勉強すべきという集団画一教育が時代錯誤なのですが、せめて夏休みなどの長期休暇を利用して個別カリキュラムで補習をするといった対策が必要ではないでしょうか。

大人が勝手に決めた尺度の標準帯域に入らないからと「劣等生」「学習障害」「落ちこぼれ」などとレッテルを貼るのではなく、「テストの点数で他人と比較などしても無意味。競うべきは昨日の自分。昨日より一歩でも前進していれば良い」と、子ども一人ひとりの持つ能力や目標に基づいて指導をすることこそ、今の時代に求められている教育なのです。

(小松 健司/個別指導塾塾長)

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