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ヨーロッパの最西端で最終バスを逃して得た、一期一会

地中海しか見たことがなかった私たちにとっては、大西洋は別世界の海のようでした。考えてみると海は海ですし、地中海にせよ大西洋にせよ人間の目に写っているのは同じ海のはずです。しかし、ロカ岬でまた違う自然の力を感じることができるような気がしました。風の力、太陽の力、波の力に圧倒されていました。

そのときは、興奮しすぎて時間が経つのを忘れていました。でもまだ7時前でしたし、周りにはまだ人がいましたし、焦る必要なんてないと思っていたのです。

ヨーロッパの最西端で『ゾンビ』を歌う若者

だんだん周りは暗くなり、私と友人と3人の若者以外に誰もいなくなりました。風がものすごく強くて寒くてたまりません。

帰れるのかな、とだんだん不安になり、煙草に火をつけました。

3人のうち、一人の女性が「煙草をくれないか?」と声をかけてきました。もう一人の男の人は携帯から音楽を流して、隣にいる赤毛の女性も一緒に歌いはじめました。

「あれ、この曲ってわたしも知ってる」と思わず私も友人も歌いだしました。ヨーロッパの最西端の真っ暗の中で寒さに震えながら煙草を吸って、クランベリーズの『ゾンビ』を歌う5人の若者。今考えると結構シュールな風景でした。

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Letizia Guarini「ヨーロッパの極西―ポルトガルの境界までの旅

結局デウス・エクス・マキナが登場して、このシュールな悲劇に幕を閉じました。3人の若者がロシア人で、リスボンで短期留学をしていたという。そのチューターに電話して、助けを求めたら、優しいポルトガル人の女性がリスボンから車で30分以上をかけて迎えにきてくれました。そして、違法にもかかわらず5人を車に乗せて、カスカイスの駅まで連れてくれました。

カスカイスからまた40分電車に乗って、リスボンへ向かいました。ストレスと寒さですごく疲れていましたが、同時に新しい出会いへの興奮を抑えきれず、彼らの建築の勉強のこと、私の日本留学のことや、ロシア、イタリア、ポルトガルについてなど電車の中でずっとしゃべっていました

ようやくリスボンに到着したら、「もう別れるの?」と悲しくなりました。彼らに知り合ったばかりなのに、ずっと前から知っているような気がしていました。彼らときっと二度と会えないだろうと思いながら、それでも一生彼らを忘れないだろうと思いました。

さいごに

もしその日運転手さんが正確なバスの時間を教えてくれていたら、冷たい海で泳いでから、ゆっくりリスボンに戻って美味しい夕食を食べていたでしょう。もしその日に最後のバスを見逃していなかったら、なんでもかんでもスムーズにいって、息を呑むような絶景だけが残っていたのでしょう。

しかし、最後のバスを逃したおかげで、私にとってロカ岬には一生忘れない瞬間が存在しています。私の心には、友人の心には、そしておそらく世界のどこかにいるその3人の若者の心には、ヨーロッパの最西端の真っ暗の中で寒さに耐えながら煙草を吸って、クランベリーズの『ゾンビ』を歌う5人の風景が今でもきっと、存在しています。

(ライター:Letizia Guarini)

迷子になってなぜ悪い?「方向音痴の一人旅」のススメ
*Letizia Guarini「ヨーロッパの極西―ポルトガルの境界までの旅
*Shuntaro Hosokawa「建築キチガイによる、ヨーロッパ弾丸ツアー
*Yohei Fujikula「ポルトガル・スタンダード

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