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名ゼリフの最高峰を見よ!〜『赤毛のアンの名言集』

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 このコーナーを担当させていただくようになってから常に心がけてきたのは、できるだけ多くの本好きの読者に興味を持ってもらえるように書くということだ。しかし、今回その前提を少々外れ気味の本選びとなってしまうかもしれないことをおわびしたい(「おわびも何も、おまえの心がけなど知らんがな」と言われそうですが)。そう、このたびご紹介させていただくのは、本好きの乙女(あるいは昔乙女だった人、あるいは現在も乙女の心を持ち続けている人)に読み継がれている不朽の名作『赤毛のアン』シリーズ(新潮文庫他)から採った名言集だ。実はつい数日前までこのような本が出版されていることを知らず、発売から少々時間がたってしまっているのだが、私同様本書の出版にまだお気づきでない方もいらっしゃるのではないかと思い、この場で取り上げさせていただいた。

 出会いは偶然にやって来る。新宿の某書店の入り口近く、他にあまたの本があるというのに、平積みされていた本書はまっすぐ私の目を射抜いた。なんと言っても目を引いたのは装丁。表紙から背表紙、そして裏表紙にかけて、上部3分の1が赤みがかった紫・下部3分の2が白に色分けされている。表紙の紫部分に描かれているのは、ピンクのリボンが巻かれたつばの広い帽子。とわざわざ言葉で説明せずとも、この文章と同時に掲載される書影を見て「あ、この本!」と思われる方は少なくないのでは。特に私と同年代の愛読者だったら、この講談社版で初めて『アン』シリーズに触れた方も多いと思う。当時の印刷物から複製した鈴木義治氏の手による挿絵類が多数掲載されているのも、ファンにとっては魅力(と、あたかも事情通のように書いてしまったが、このシリーズの印象的な挿絵を描かれた画家が”鈴木義治”というお名前だったことは今回初めて知った。一瞬「え、お笑いマンガ道場の人が書いてたの!?」と驚愕してしまったが、それは”鈴木義司”)。

 前述の通り、本書は1ページにごく短い登場人物たちのセリフもしくは地の文が載せられた名言集である。今年はNHKの連続テレビ小説「花子とアン」が話題になり、『赤毛のアン』ならびに村岡花子氏の関連本が多数出たことで、逆にそれぞれの本が埋もれてしまうような結果にもなってしまったのでは。ページをめくるごとに現れる言葉は『アン』シリーズファンにはいずれもなじみ深いもので、そのセリフが発せられた場面やその文で説明される状況が即座に浮かんでくることだろう。128・129ページの見開きあたりは名ゼリフの最高峰と言えそう。

 さて、冒頭で書いたことに若干の補足をさせていただきたい。この本を最も楽しめる読者層は、長年の『アン』シリーズ愛読者のみなさんだというのは間違いのないところだと思う。だからといって、それ以外の方に本書のよさが伝わらないということではない。これまで『赤毛のアン』とは無縁だった方々にも、この本を読もうという気持ちになっていただけるとしたらうれしいことだ。その中には男性諸氏ももちろん含まれる。ほとんどの男性はなかなか注意を向ける機会もないとは思うが、一少女の成長物語と考えればまさに朝ドラに近い感覚でお読みになれるのでは。ネットなどを見る限り、『赤毛のアン』ファンの男性も一定数確実に存在する模様。本書を読まれて心に響く言葉があったら、ぜひ本家の『アン』シリーズ各巻もお手に取ってみてください。

(松井ゆかり)

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