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『ペコロスの母』著者が「認知症は不幸ではない」という理由

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 認知症は本当に不幸なのか……。認知症患者の母への介護体験を描いたベストセラー『ペコロスの母に会いに行く』シリーズ著者の岡野雄一氏は、新著『「ペコロスの母」に学ぶ ボケて幸せな生き方』(小学館新書)で認知症のイメージを覆す持論を述べている。

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 世の中では、認知症というと、介護する家族に暴言を吐いたり、暴力をふるったり、徘徊して行方不明になったりといった負の側面ばかりが語られ、認知症の本人は不幸のどん底で、介護する家族もボロボロになるというイメージが強かったように思います。だから、誰もが、「親が認知症になったらどうしよう」、あるいは「自分が認知症になったらどうしよう」と、恐れています。

 しかし、私の母の介護体験で言えば、決してそういった辛いことばかりではありませんでした。私の母の場合は、それほど攻撃的・暴力的になるなどのキツイ行動を取らなかったというのもあるのですが、認知症になっても決して不幸には見えませんでした。

 認知症が進行するにつれ、仲の良かった幼なじみや晩年に穏和になった父など、すでに亡くなっている人々が幻覚で現れたり、楽しかった子供時代に戻ったり、いい思い出だけが濾過されて残っていくように見えました。
 
 私の父は、いい人なんですが心が弱くて、酒を飲むと暴力をふるい、母は非常に苦労をさせられたはずなんですが、そういった辛い思い出はなぜかすっぽり抜け落ちして、忘却の彼方に押しやられていきました。

 私の子供のころの記憶では、父が暴れたあと、母が私の手を引き、まだ小さかった弟を背負って、故郷の天草行きの船が出る埠頭にぼーっと立っていたことが何度かありました。その日の船はすべて出港した夜遅い時間だったので、船に乗るためではないのは明らかでした。

「もしや」と思って、母に聞いたことがありますが、すでに認知症が進行していて、まったく覚えていませんでした。忘れたふりをしている風でもありませんでした。

 驚いたことに、母は「酒を飲んで暴れる父」をどんどん忘れ、話に出てきたり、幻覚で見たりするのは、晩年の「穏やかな父」ばかりになりました。いい思い出だけが残るのなら、ボケるのもそんなに悪いことばかりじゃない。というのが私の実感でした。

※『「ペコロスの母」に学ぶ ボケて幸せな生き方』(小学館新書)より


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