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世界各都市の高齢化対策は? 高齢大国ニッポンで国際会議が開催

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最近、「レジリエント」という言葉を聞くようになった。10/17に行われたOECD(経済協力開発機構)・富山市が主催の国際ラウンドテーブルのテーマも、「都市の国際ラウンドテーブル~高齢社会におけるレジリエントな都市~」だ。「レジリエントな都市」とは何か? この会議で共有された、世界各国の先進事情からひも解いてみよう。何が起きてもおかしくない世の中だから「レジリエント」な都市を目指す

少子化も高齢化も、そして、日本全体の人口減少も、今まで慣れ親しんできた社会の変化を促している。従来、こうした変化を予測し何種類もの対処法を用意する「リスクヘッジ」の重要性や、リスクヘッジした上で「持続可能」な社会をいかにつくるかが問われてきた。しかしこの数年、この語られ方に微妙な変化が起きている。それが「レジリエント」という考え方だ。

レジリエントとは「復元力に富む」「すぐに立ち直る」を意味する。物理学では「外力による歪みを跳ね返す力」として、心理学では極度に不利な状況でも精神の平衡状態を保つことができる「耐性」を示す語として使われてきた。そして、いま、社会状況や経済状況の仕組みに対して、この用語が使われ出した。

「レジリエント」は、まず想定外かつ不可避の災害や事故が起きることを受け入れる。その上で、何か困難で驚異的な状況が起きても回復・適応できる能力、を高めることを意識する。

例えば、同じ災害に見舞われてもPTSD(心的外傷後ストレス障害)が起きる人と起きない人に分かれるが、このPTSDが起きない人が「レジリエント」な人、と言えるだろう。今回の国際ラウンドテーブルで主題にしたのは、こうした「困難な状況に陥っても回復できる力」を都市はどのように身につけられるか、ということだった。「日本は課題先進国で、未来に対する実験室だ」(OECD地域開発局長)

当日配布されたデータを見ると、日本は他国と比べ大都市圏に人口が集中しているため(図1)、今後の高齢化問題は都市圏が対象となる。と同時に他国より早く高齢者の減少局面に入るため、高齢者のみならず全世代の減少を見据えた、より長期的な課題解決を模索する必要がある(図2)。ただ、世界的に見ても都市別の高齢化進行率はまちまちで(図3)、一都市での成功例に汎用性があるとは必ずしも言えない。

今回の国際ラウンドテーブルは、「都市の有効策は各都市によって違う」ことを踏まえ、先進的に取り組む各都市の行政・民間を招き、事例の共有や共通要素の見出しを行うことが目的だ。議長のOECD地域開発局長ロルフ・アルター氏がオープニングスピーチで口にした「日本は課題先進国で、未来に対する実験室だ」という言葉に裏打ちされるように、海外の事例に加えて日本の先進的な都市(横浜市、京都市、豊岡市、富山市など)の取り組みが多く紹介され、その先進性に海外の参加者から活発な質疑がなされた場にもなった。

【図1】当日の会議内配布資料より(出典:富山市)

【図2】当日の会議内配布資料より(出典:富山市)

【図3】当日の会議内配布資料より(出典:富山市)

会議は3つのセッションに分けて進行した。日本でも活発な議論が待たれるセッション2・3について簡単にご紹介したい。セッション2では「高齢社会において、都市はどのようにレジリエントな社会経済づくりに貢献できるか」がテーマ。

(1)高齢者が暮らしやすい都市は、全ての世代において質の高い生活を提供する都市である
(2)公共の交通機関(既存の交通資源)にサポートされたコンパクトな都市構造が、雇用や公共サービスへのアクセシビリティを高め活力ある都市を生む
(3)高齢者の健康づくりが高齢者の生産性・自立を促す重要なファクターだ
ということにフォーカスして議論された。特に、豊岡市や横浜市が推進する「歩く」都市づくりは有効な施策として注目を集めた。

セッション3は「今後の連携方策」と題し、地域社会・高齢者が主体のチームを結成すべきだと強調。地域社会がリーダーシップをとり、民間は地域社会のニーズを汲み取って新しいサービスや技術を開発、行政は長期的なビジョンをつくり地域住民に分かるように丁寧に説明し共有し支援する。このチームを活かすために、大都市では地域社会のサイズに応じて細かく政策を見直す必要が確認されたことが興味深い。サイズが小さくなるほど、高齢者は「助けられる人」から「役割を持つ一市民」として参加ができる。大きな行政の縦割の組織に「地域」を見させるのではなく、小さなサイズに合わせて政策を検討する、という発想が今回の議論の肝のように感じた。

この3つのセッションを通して感じたのは、実は日本の各都市の取り組みの先進性だ。富山市の公共交通機関を使った都市のコンパクト化、豊岡・横浜市の健康増進都市づくりなど、小さな街に合わせた細やかな政策が既に実行に移されフィードバックの期間に入っていることが、海外都市の注目を集めた。なかでも注目を集めた豊岡市の「健康」をキーワードに高齢者とともに経済生産性を向上した取り組みを、次に紹介したい。「歩いて暮らす都市」スローガンがつくりあげた健康優良都市(豊岡市)

兵庫県北部に位置する豊岡市は、野生のコウノトリが生息する自然豊かな土地で知られる。市民の3.7人に1人が高齢者で、その約半数(また介護認定者の約7割)が生活習慣病で死亡することが課題だった。そこで、2012年に「健康政策」を策定、「歩いて暮らす都市」政策への転換を図ったのだ。豊岡市はまず4つのモデル地区を選定し、市民に運動指導や歩数計を提供し支援。2012年は189人、2014年には292人のBMI値・インスリン値の改善ができたという。

翌年には全市をあげて取り組み、42もの団体が参加する施策となった。結果、一人当たり約12800円の医療費を削減し、約3億円もの医療費削減効果を生み出したという。これは、豊岡市の医療費予算75億円のうちの4%に相当する。また、この取り組みに参加して貯める「健康ポイント」の平均獲得数は7965ポイント、10000ポイント=1000円として提携店で使えるが、交換申請した約7割が保育園・小中学校に寄付したとのこと。医療費・地域教育の両面でも、健康促進策は地域社会に貢献しているのだ。

また興味深いことに、市の調査で「健康意識」「運動の頻度」「継続期間」「仲間の存在」のどれか一つでも上がると、他の要素にも上昇影響を与えることが分かった。スポーツや運動を通じ、高齢者と若年層の結びつきを強めていることも、今回のテーマの「地域社会」に好影響を与える取り組みだと言えるだろう。2020年には、2万7000人の高齢者のうち10%が参加してもらえるよう、市は引き続き取り組みの推進を図るという。「寂しいと寿命が縮む」。社会保障システムの一つとしての「絆」づくり(ヘルシンキ市)

豊岡市の「運動」と「仲間の存在」の関連に近い事実を示唆したのが、ヘルシンキ市だ。フィンランド共和国の首都であり最大の都市、ヘルシンキ。ヘルシンキ市のUrban Facts(市の統計・調査・データのアーカイブ整備を担当)局長、ティモ・カンテル氏は、「社会的・長期的にインパクトをもたらすのが『高齢者と社会の絆』」だと述べた。

ヘルシンキ大都市圏は約110万人(昼間人口150万人)を抱える。他の都市圏と違って約20年後も、20-30代の若い世代を中心に人口増加を見込んでいるのが特徴だ。ただ、この傾向はヘルシンキ市のみのもので、国全体を見渡すと高齢者の割合は増加傾向。ヘルシンキ市も目下の課題ではないものの注視しているという。世界から称賛されるフィンランドの高水準な社会保障体制も、増え続ける扶養高齢者によって、従来のサービスレベルを維持し続けられるか、財源においても懸念されている。

この状況下でヘルシンキ市が有効な手段として検討しているのが、「孤独・寂しさ」の数値化、そして「寂しさ」と健康被害の関連性を明らかにすることだ。「『寂しいだけで寿命が縮む』とデータ上では表れている」(カンテル氏)。他の多くの西欧諸国と同じように、ヘルシンキ市の高齢者の多くは単身で、その割合は増えると予想される。「一人で暮らす=寂しい」とならない社会的なネットワーク・絆をいかに提供できるか、がヘルシンキ市の次なる重要課題であり、その促進には「地域社会」を中心とした行政・民間の横のネットワークを必要とすると強調した。すでに機能している「地域社会」を、より強固に支える施策を模索(マレーシア)

「地域社会」との絆を重視する日本や西欧諸国と違って、東南アジアでは少し違った視点による「地域社会」が共有された。マレーシアのザイヌディン・アハマド氏(都市福祉・住宅・地方自治省 連邦都市・農村計画局副長官)が共有した「高齢化社会のレジリエントな都市づくり」は、都市は独自の事情によって違った側面を持つことをうまく伝えている。

マレーシアは2012年にSNSを使って市民に「老後の選択肢について」の意識調査を行った。当初の予想通り約7割が「自分の家に住み続けたい」と答え、新たな介護施設をつくるよりも、既存の住宅をユニバーサルデザインに改修することに資金を充てているマレーシアの政策の正しさが裏打ちされた。既存住宅の改修とともに、マレーシアは地域のガーデンコミュニティの形成や公共施設を改修するガイドラインを設けている。

日本やフィンランドの高齢者と違って、マレーシアは親族の3−4世帯が一緒に生活し、老人は子どもが面倒を見る伝統が残る。結果、他国では話題となる老年期の孤独や雇用・賃金について、マレーシアでは大きな問題にはならないと言う。マレーシアの高齢化に対するレジリエントな策は、現在の家庭内の高齢者を全面的にサポートし、彼らが威厳を保ちながら満ち足りた生活をおくり、潜在能力を活かせる社会をつくるということとなる。

OECDが当初提示した、(1)(高齢化・少子化社会と叫ばれているが)実際に「データで語れているか」、(2)課題解決の戦略・ヴィジョンを持っているか、(3)全員が関与・連携して課題解決にあたれているか、の3点について、各都市から多くの取り組みと悩みが同時に共有された。「何が起きるか」を精緻に想定し対処策を練るのも大事だが、「たとえ何が起きても」回復できるような底力をつけておくことも重要になる。高齢者人口が増大する社会の底力とは。まずは自分が根を張る地域社会から考えてみたい。

次回は、この会議の舞台ともなった富山市の、先進的な取り組みについて紹介する。
元記事URL http://suumo.jp/journal/2014/12/02/74023/

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