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メディアによる解散報道の舞台裏

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【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 安倍晋三首相が21日、衆議院を解散した。新聞各紙は今月前半から年内解散だと繰り返し報じてきたが、「マスコミが煽っているだけ」と疑う声も根強かった。「マスコミが解散に追い込んだ」との見方すらあるが、実態はどうなのか。解散報道の舞台裏を探ってみたい。

 
 幕を切って落としたのは読売新聞だった。今月9日付朝刊1面に「増税先送りなら解散、年内にも総選挙 首相検討」との記事を掲載。総選挙の日程として「12月2日公示、14日投票」か「9日公示、21日投票」が有力だと具体的に報じた。

 
 当日は日曜日で夕刊がなく、翌10日の朝刊も休刊日だったが、10日付夕刊では数紙が「安倍政権内に解散論浮上」(朝日新聞)などと後追い記事を掲載。11日付朝刊以降は各紙とも年内解散を前提とした紙面構成となった。

 
 解散報道で終始リードしたのは読売新聞。朝日や日経、毎日新聞など他紙は先頭をひた走る読売の後ろをついていくだけで必死な様子だった。結果的に最初の報道通り、首相は増税の先送りと12月2日公示、14日投票という日程での解散に踏み切った。

 
 読売はかねて安倍政権に肯定的な立場をとってきたため、今回の報道も「政権側による意図的なリーク」との見方がある。しかし、「政局ネタのスクープ」が大好物である読売が政権幹部から確信的な情報を得ていたならば、最初の報道の際に一面トップで大々的な見出しをつけていたはず。実際には二番手(ワキ)記事だったことから、確信が持てないまま報道に踏み切ったことをうかがわせる。

 
 読売新聞の根拠は「複数の政府・与党幹部」。もしも取材源が安倍首相本人や菅義偉官房長官、自民党の谷垣禎一幹事長らであるならば、確かな根拠があることを示すためにも「政府高官」とか「与党首脳」などと記したはず。「複数の幹部」などと濁したということは政権中枢から少し離れた議員や官僚たちの情報を総合的に判断し、報道に踏み切ったとみられる。

 
 新聞各紙の分析記事を総合すると、首相が解散を具体的に検討し始めたのは女性閣僚がダブル辞任した後の10月後半。アジア歴訪に出発する前の11月7日には自民党の谷垣禎一幹事長と公明党の山口那津男代表に「年内解散を検討している」と伝えたという。

 
 首相から直接話を聞いた谷垣、山口両氏はそうそう漏らさないが、そこから側近議員らに伝えられていくうちに、どこかで情報は漏れる。しかし、マスコミも伝聞情報では確信が持てないので、読売のように「先送りなら」とか「年内にも」などと逃げをうって報じる。他紙の追いかけ記事にある「解散論浮上」などという書き方は、読売の取材源にすらたどり着けなかったことを表している。

 
 年内解散論が報じられるようになってからも、首相は「まったく考えていない」(9日)と否定し続けた。しかし、政治家は本音と建前を使い分ける職業。記者へのコメントとは別に、首相本人、もしくは秘書官や側近議員がオフレコベースで本音をレクチャーしている。否定した後も報道が出続けたということは、首相側が火消ししなかったことを意味している。

 
 一部で「マスコミが解散風を吹かせ、首相を追い込んだ」との評があるが、政治取材の実態をまったく知らない人のコメントだ。個別には誤報も多いマスコミ報道だが、各紙が一斉に同じ方向の記事を書くときは、必ず根拠がある。裏で真相を説明している人物がいる。みんなで寄って集って虚報を書くほど、横の連携もとれていない。

 
 さらに、大手新聞やNHKの記者は、国民の目に触れないところで、首相にも直接取材している。政治面の「首相動静」には出てこないが、こっそり首相官邸に入ったり、ホテルで密会したり、携帯電話で話したり。新聞が「首相、解散を決断」などと確定的に書くときは、今回の場合はここ数日のことだが、基本的に首相本人から言質をとっている。

 
 解散によって政局報道が一段落し、今ごろかつての同僚記者たちはほっと胸をなでおろしているだろう。しかし、選挙はこれからが本番。選挙の争点や各党の政策の違いを丁寧に解説してくれるような、中立公正な記事を期待したい。

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記者:

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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