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中村嘉葎雄 過去の栄光は背負わず忘れて、いつも新しく入る

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 俳優の中村嘉葎雄(かつお)といえば、老人役のイメージが強い。若いときからベテランになった今も、いつも新しく現場に入るという中村が語る言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。

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 中村嘉葎雄といえば、NHKの朝の連続テレビ小説『ふたりっ子』での「銀じい」役から『鬼平犯科帳』のスペシャル『見張りの糸』の盗賊まで、二十年以上にわたって「老人役」を演じ続けてきている。

「一人の人間の若い時から年寄りまでを描く物語を演じたことがあって。当初は年寄り時代は別の人が考えられていました。ところが、老けたメイクをしてみたら『そのままいけよ』ということになって。それから老け役が多くなったんです。『あいつは、できる』と。そういう時は歌舞伎の名優の方々の仕草を思い出して演じました。

『ふたりっ子』の時は、白髪にしようとしたのですが、それだと回想の時に黒髪に戻さなければならなくなる。そこで『この銀じいというのは幻の人間にしましょう』と提案しました。それで、若い頃からずっと白髪ということになりました。

 そういうのを考える間が楽しいんですよ。『ふたりっ子』は現代劇でしたが、時代劇になるとかつらも衣装もさらにいろいろと選べる。この時は着流しを着ようとか、手ぬぐいをかぶろうとか。勉強にもなる。

 今の役者は普段から着物を着なれていないからね。それに、普段は髪が長くて、そのまま頭を刈らないで入ってくるから、羽二重がつかなくてかつらが合わない。時代劇のことが分からなくてもいいから、姿勢だけでも見せてほしいんだけどね。そうでないと、作品にも監督にも失礼だと思う」

 中村嘉葎雄は近年、行定勲や青山真治など、気鋭の監督たちと仕事をすることも多い。

「ああいう所にポッと行くと、新鮮な感じがしていいですね。今までのファッションが取れるから。私は過去にこれといった栄光がないんですよ。だから、馴染んじゃうの。そうやって現場に入ると、監督も『普通の役者』としていろいろと注意してくれる。それがいいんですよ。

 これまでの役者論とか、そんなものはいいんです。頭を下げて現場に入る。先輩も後輩もありません。そのドラマの人間であればいいんです。

 あらかじめファッションをつけない、ということです。その方が監督もやりやすいと思います。過去の栄光なんか忘れて、いつも新しく入る。過去の栄光を背負っていると、つい威張ってしまって、その威張りが画面に出ちゃうんです。

 かつて作家の里見とん(弓へんに享)先生には『芸は普段のまま』と色紙に書いていただいたことがあります。普段、がさつに生活していると、それが芸にも出てしまう。

 父(※三代目中村時蔵)からは『上手い役者になろうと思ったらダメだ。いい役者になるんだ』と言われました。いい役者とは、『品のある役者』のことです。『どんな汚い役をやっても、品がなきゃダメだ』と。そのためには、普段が大事なんです。

 ですから、仕事を選ぶ基準はありません。こちらに話が来るまでの間に相手は『あいつを出そう』『あいつは良くない』と練っているわけでしょう。だから、選ばれた自分としては、やるべきことをやるだけです」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)ほか。最新刊『時代劇ベスト100』(光文社新書)も発売中。

※週刊ポスト2014年11月21日号


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